第十九話 ようこそ(?)獣人潜む集落へ
僕たちは獣道に近い日陰しか無い山道を一列になって下っていく。
「ボク達の集落は元々住人が50人にも満たない小さな集落でしたが、ある日獣人が現れて住人達を次々に襲い、集落の人口は半分以下にまで減ってしまいました。そこへ旅の途中だという6人組が現れ、悪さをしていた獣人を複数人捕らえたのです」
男性の説明を受けながら僕たちは足場の悪い道をゆっくりと進んでいく。
「ですが彼らが去った後も獣人に襲われる人が出てしまい、住人達は互いに疑心暗鬼になってしまいまして......必ず集落の内部の人間にまだ獣人がいるはずだと...。おかげで集落の空気は最悪も良いとこで、互いに顔もほとんど見せません」
確かにそれは想像しただけで嫌なムードの臭いしかしてこない。
そしてそこから獣人を討伐された例の方たちの噂まで出てきてしまったと...。
僕は何か悲しい気持ちになっていた。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕は
伊斯波さんは笑顔で丁寧に会釈した。
ちょっと癖のある波打った髪、腰の低い柔らかい印象のある僕たちとそんな歳が変わらなそうだけど、妙にしっかりした印象を受けた。
「最近は正体の分からない獣人に怯えて、夜の間に集落を出ていく人もちらほら居て、今は10人住んでるかどうかも怪しいレベルです。」
伊斯波さんがそう説明を続けてくれる内に道が開けてきた。
そこは高台というか、見晴台のような場所に繋がっていて、伊斯波さんの指さす方向に僕たちは目を向ける。
そこには見渡す限りの民家が下に広がっていたが、確かに人が住んでる気配を感じない家がほとんどだ。
しかし随分と谷の所にある集落なんだなぁ。
そして僕たちは住居のある場所へ降りて行った。
「ようこそ、
伊斯波さんは遠回しにも満たない軽い迂回レベルの「絶対他の人は歓迎しませんよ」発言をして僕たちを迎え入れてくれた。
とりあえず僕たちは伊斯波さんの家に入れてもらい、話をより深く聞くことにした。
古き良き古民家という感じで物凄く落ち着く。
だけど1人で住むにしては随分広いなぁ。7人でお邪魔しても居間に余裕で入るとは......。
僕たちも伊斯波さんに軽く自己紹介を済ませてから今の集落の状況をより詳しく教えてもらった。
「今この集落の人口はさっきも軽く言いましたが約10人です。住んでる方の年齢層もバラバラで男女比も半々ぐらいですね。ただ、今はほぼ毎晩獣人の被害を受けてる事もあって、夜逃げする人や互いに獣人だと疑って余計な接触を避けている事もあって、誰がまだこの集落に残ってるかは正直ボクも正確には把握は出来ません。ですが今朝見かけて確実にいると分かっているのはボクを除いて6人です」
事態はかなり深刻かもしれない...。
毎晩誰かが襲われ、そしてその犯人が集落の中にいるとほぼ確定しているのであれば、逃げ出すし、間違いなく正気ではいられないだろう...。
そんな事を考えていると、伊斯波さんが続けた。
「皆さんがここに滞在するのはボク個人としては構わないのですが、遅かれ早かれ、いつかは集落の皆に見つかります。それであらぬ疑いをかけられては厄介ですから、早いうちに集落の方たちに状況を説明した方が良いかもしれないですね...」
うん、ある程度この展開は予想はしてたけど、一気に気が重くなるイベントだなぁ......。
「もちろんボクも同行します。ファーストコンタクトはボクから取りますので」
伊斯波さんはそう言って立ち上がった。それは正直心強いというか、寧ろいてくれなかったら絶対に場が収まる気がしないので本当に助かる...。
「じゃあとりあえず、話を分かってくれそうな人から言った方が良いですね...」
伊斯波さんはそう呟き「う〜ん」と言いながら軽く上を見る。
そして「よしっ」と何かを決めたように言葉を吐き、僕たちに向き直る。
「まずは
伊斯波さんはそう言って笑顔で立ち上がり、家を出る準備をした。
僕たちもそれに合わせて続く。
優しい上にこの人中々に策士だなぁと思いながら僕たちは目的地へと向かった。
「さぁ、着きましたよ」
伊斯波さんは笑顔で僕たちに告げる。
「え...ここが......?」
雪姉ぇはドン引きながら言う。うん、まぁその気持ちは僕も同じだ。
恵里菜に関しては完全に眼から光を失っていた。
朔矢と澁鬼と祐葉は直視すら出来ていない。
貴船は一周回って達観したような目でその光景を見ていた。
「ここが、牛峯さんのお宅ですよ」
伊斯波さんはそう言って手のひらで住居と思われるものを指す。
「いやあの......」
僕はやっぱりこの状況は突っ込まないと負けだと思った。
うん、これは絶対に言わなきゃダメだ。
「めっちゃくちゃゴミ屋敷じゃん!!!!!!!!!」
僕の絶叫は家の外にも広がるゴミに吸い込まれていった。
説得以前にまず解決しなくてはいけないものがそこにはあるような気がした。
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