第十八話 奇跡の力と疑心暗鬼


僕たちは言葉を失った。


獣人を討伐し、前回立ち寄った町では人々に安寧の地をもたらした方たちが、住人の誰かを獣人にしただなんて噂は到底信じられる訳も無かった。


僕たちは男性に何故そう言われているのか聞くことにした。


「実は その方たちが集落に紛れ込む獣人を討伐してくれたのは間違いないんです。ですが、その後も集落では度々住人が襲われ、死亡する事件が多発してまして...。討伐し損ねたのだろうと最初は言われていたのですが、見たことない力を扱う方ばかりだったので、それは無いだろうと言ったのですが、その方たちが使う力があまりにも不思議な能力だった事からいつの間にか話に尾ひれどころか腹びれ背びれと......」


僕たちは噂の恐ろしさを感じた。


見たことない力は奇跡に近い。それを神秘的と感じる者もいれば、畏怖する者もいる。


そして人は奇跡を目の当たりにした場合に、その真相や理由を知りたがる。


分からない場合は自分たちで仮説や考察をつけ納得したがる。


そしていつの間にか真実かのように扱われ広がっていく。


狭いコミュニティでは、いつの日かそれは人々の輪の中の共通認識となってしまう。


こういった形で変な噂が広まってしまうのは非常に悔しい。僕らが探している方たちの汚名を少しでも晴らしたいと思ったけど、今僕たちがやるべき事はその方たちを探すこと。


とりあえず一刻も早くその方たちの所へ向かわなきゃと思った。


しかし、祐葉は納得出来なかったのか愚痴を零した。


「なんだよそれ...!勝手に想像して勝手に勘違いして勝手に逆恨みかよ......!!」


祐葉の怒りは僕にもよく分かった。だけどここで足を止めてる暇なんてないと言おうとしたその時、貴船が口を開いた。


「その集落ってのは、ここから近いのか?」


「えぇまぁ、歩いて15~16分ぐらいですが...」


「案内してもらえるか?」


「「「「「「!!!!?」」」」」」


僕たちは貴船の予想外の言葉に驚きを隠せなかった。


基本的に物事を静観している事が多い貴船が自分から首を突っ込むのは意外だった。


僕らのリーダーは貴船だから、僕たちはここで貴船が構わずこの場を後にすると選択した場合は、皆多少の思いはあれど、素直に従うつもりだった。


基本的に思慮深く何手先をも考える貴船なので、行き当たりばったりな行動や、感情に流されるタイプでは無いからこそ、貴船の選択には皆かなりの信頼を置いている。


でもまさか貴船が当初の目的を中断してまで集落の問題を調査するなど思ってもみなかった。


「分かりました。ではご案内致します。ただ住人達は今、外からの来客に対して非常に敏感になっていますので、歓迎されるかどうかは正直お約束出来ません...」


男はそう言って、茂みの方へ向かって歩いていった。




「俺たちの目的は人を喰い散らかし、悪さをする獣人を討伐すること。その前進者ともあろう人たちの汚名が残ったままじゃ、後を追う俺たちの名も廃るってもんだ」


貴船はそう言って男の後を着いていく。


僕は貴船の言葉に、何とも言えない違和感を感じた。


なんだろう...この感じ......。貴船は僕たちを騙すような感じで言ったわけでも無いし、ウソを言った感じにも見えなかった。


ただ、大事な何かは言わずに隠されたような...そんな感じがした。




上手く言葉に出来ない僕の気持ちは喉から胸の奥深くへと、沼の底へ落ちるかのようにゆっくりと沈んでいった。


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