episode 025
300mほど下ると、周りに誰もいないのを確認して道を外れ下草をかき分け山中に入った。
短パンからむき出しになった足に下草が擦れて痛痒かったが、そんなことはもうどうでもよい。
もうここらで、と思える場所までたどり着くと、私は座り込み、町田を殺したときに使った毒氷針ケースをポケットから取り出し、残っていた最後の1本をためらわずに口に含んだ。
体内に打ち込んだわけではないので多少時間はかかるだろうが、毒が吸収されれば確実に死に至る。
思えば普通の人生とはとても言えないものではあったが、それなりに充実した日々を送ることができた。
思い残すことと言えば鼓太郎の行く末だけだが、きっとリュウくんママがしっかり最後まで面倒を見てくれることだろう・・・とだんだん意識が薄れかけて生い茂る下草の中に仰向けに寝転んだときに、下草をかき分け近づいてくる人影を感じた。
どこかで見た顔だと思ったが、すぐに思い出した。
現れたのはリュウくんパパだ。
この男が監視役の元同僚だったのか、ということは鼓太郎を託したリュウくんママも元同僚ということになる。
意識が薄れゆく中でも、大きな後悔が私にのしかかってきた。
上空にヘリコプターの近づいてくる音が響き渡り、周りの下草が円心状にひれ伏すように倒され、ヘリコプターからロープの先に付けられたハーネスが降ろされ、リュウくんパパだと思っていた男が手際よく私に装着し、自分もロープに掴まりヘリコプターの内部に引き上げられたあたりで、私は完全に意識を失った。
目覚めたときには、私はベットの上にいた。
ベット脇に置かれていたデジタル時計の日付を見ると、私が飛騨古川駅に降り立ってから3週間あまりが経過していた。
その間、ずっと意識がなかったことになる。
酸素吸入、点滴、そして心音図も記録されているようだ。
意識が多少朦朧とするなかで、状況を把握するためにできる限り注意深く周りを観察した。
どうやら通常の病院の病室ではない。
壁で囲まれておらず、ガラス壁で囲まれた人間が入れるサイズの虫かごのような空間だ。
虫かごの周りを動き回っている人間たちを見て、自分が意識を失う前にどのような状況であったのか、ここがどこなのか理解できた。
私はアメリカのCIA本部、通称ラングレーの医療機関に収容されたのだ。
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