銭湯で番台の仕事をしている俺。シフトに入ると、なぜかエロ可愛い女の子達ばかりが訪れるんだが?

さばりん

第一章

第1話 駅前にいた制服JK

 とある日の休日。


 俺、常本恭吾つねもときょうごはとある予定を済ませて、地元の駅へ戻ってきた。

 空はオレンジ色に染まっており、徐々に街の明かりが煌びやかに辺りを照らし始めて、夜の街へと変化している。

 改札口を通り抜け、駅前のバスロータリーに差し掛かると、前にある謎のモニュメントのベンチに、数名の人だかりが出来ていた。

 見れば、見覚えのある制服を着た一人の女子高生が座っており、それををガラの悪そうな男三人が取り囲んでいる。

 女子生徒は、背中辺りまで伸びるオレンジ色の髪を揺らしつつ、面倒くさそうな表情を見せていた。


「あれは確か、同じクラスの……上田さん?」


 ベンチに佇んでいる女子生徒は、クラスメイトの上田彩瀬さん。

 どうやら、変な輩にナンパをされているらしい。

 俺が様子を覗っていると、三人のうちの一人である、迷彩柄のタンクトップを着た筋肉もりもり男が、ニヒルな笑みを浮かべて何やら上田さんに話しかけていた。

 嫌な雰囲気を感じて、一応様子を窺ってることにする。

 だが、少し距離があって声が聞き取れない。

 俺は気づかれぬよう物陰に隠れ、会話が聞こえる位置まで移動した。

 耳を澄ませてみると、タンクトップ筋肉ナンパ男のダミ声が聞こえてくる。


「なぁ、暇ならいいじゃんかよ。少しぐらい俺達と遊んでくれたってよぉー」

「はぁ? なんで私がアンタなんかと一緒に遊ばなきゃいけないわけ?」


 タンクトップ男に対し、上田さんは敵対心をむき出しにして、高圧的な態度を取っている。


「それに、さっきから言ってるでしょ? 私は待ち合わせしてるの。アンタたちに構ってる暇ないわけ」

「そんな事言って、本当は誰とも待ち合わせなんてしてねぇんだろ? もうかれこれ三十分以上は経ってるぜ?」

「……遅れてるだけだし。もうすぐ来るっつーの」


 上田さんは言い切るものの、どこか煮え切らない表情を浮かべていて、彷徨わせている視線は、誰かに助けを求めているようにも見える。

 駅前を行きかう人々は、上田さん達の様子を興味本位でチラチラ見るものの、誰も上田さんのSOSに気づいている人はいない。


「あぁもう面倒くせぇんだよ! まどろっこしい小細工はもうやめて、とっととついて来い」

「きゃっ⁉」


 ついに、堪忍袋の緒が切れたタンクトップ男が、上田さんの腕を強引に掴み上げる。

 上田さんは身体をびくっと震わせて、軽く悲鳴を上げるものの、恐怖からか、大声を上げることは出来ない。

 そろそろ頃合いだと思い、俺は物陰から飛び出して、上田さんの元へ駆け足で向かって行った。


「ごめん、遅くなった!」

「⁉」


 俺は、わざとらしく走ってきたように膝に手をつき、上田さんに対して謝罪の言葉を口にする。

 ふぅっと息をついて、呼吸を整えるふりをしてから顔を上げると、上田さんの腕を掴んでいたタンクトップ男が、こちらをぎろりと睨みつけてきた。


「えぇっと……彩瀬に何か用ですか?」


 俺が動揺せずに尋ねると、タンクトップ男は興ざめした様子で「けっ」と唾を吐き出した。


「今日はこの辺にしといてやる。運がいい奴め……」


 タンクトップ男は、上田さんへ捨て台詞を吐き捨てると、踵を返し、ポケットに手を突っ込みながら大股で去って行く。

 側近と思われる男二人も、恨み節を嘆きつつ、タンクトップ男の後を追うようにして、夜の街へと消えていった。

 ナンパ野郎共の姿が見えなくなったところで、俺はようやくふぅっと安堵を息を吐き、上田さんに優しく微笑みかけた。


「大丈夫だった? 怪我とかない?」

「……何で」

「えっ?」


 すると、上田さんがきぃっと鋭い視線を向けてきた。


「なんで私の事なんか助けたわけ? 余計なことしないでくれる?」


 まさかの逆上に、俺は困惑しつつ頭の後ろに手を置いた。


「えっと……ごめん。困ってたみたいだったからつい……」

「別に困ってなんかないし。ってかアンタ誰?」

「常本恭吾。ほら、上田さんと同じクラスの……」

「常本……? あぁ、隣の席の。制服姿じゃないから、一瞬誰かと思ったわ」

「あははっ……目立たないからよく言われるよ」


 俺が頭を掻きながらへらへら笑っていると、上田さんのしゃくに障ったのか、さらに眉間のしわが寄った。


「言っとくけど、いい気にならないでよね。ほんと、次からこういう余計なことしないでいいから」


 そう言って、上田さんは踵を返して歩き出してしまう。


「あっ、ちょっと。どこ行くの?」

「どこだっていいでしょ。アンタには関係ない」

「でも、夜道は危ないし、家まで送っていくよ」

「うっさい! これ以上余計なことすんなって言ってんでしょ。ついてこないで!」


 上田さんはベーっと舌を出して俺に威嚇すると、そのまま夜の街へと走り去って行ってしまった。


「……大丈夫かな?」


 後追いしてもよかったのだが、これ以上強引に追いかけたら、さらに上田さんを怒らせてしまいそうだったので、心配ではあったものの、ここは大人しく引くことにした。


「おっと、ヤバっ。急がないと遅刻しちまう!」

 上田さんに、何事もないことを祈りつつ、俺は急いで次の用事へと向かうのであった。

 その予定とは――

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