選択

会社の判断

この話を聞いた白翔は許せなかった。碧波のスマホを借りて平川さんに電話をかけて話がしたいと翌日、ファミレスに来てもらうことにした。


担当の人を打ち合わせでもないのに呼び出すのは申し訳ないと思ったがこの様な事情になったからにはそうも言ってられない。


落ち込んで覇気のない中、聞くのは心苦しいが何があったかを碧波から聞いて紙に書きとめる。


そしていつものファミレスに白翔は向かった。

平川さんがやって来てこれは事実なのか?本人が望まないのに書かせるのはどうなのかと尋ねた。

すると机を叩いて激高した。


「この業界で何年もやっているんだ。このやり方で順位が上がった作品もある。偉そうなことを言うな、クソガキが」


「中学生のクソガキに指摘されていることが問題じゃないのか。こんなやり方をしなくても赤松碧波の作品は上にいける。担当を変えてください。このままではマンガ家、赤松碧波は描けなくなる」


公共の場でケンカをするのはよくない。歳上の人に口の利き方はどうなのかという人もいると思うが間違っていること、してはいけないことをした場合は年齢は関係ない。


白翔も平川さんも自分の主張を曲げず、埒が明かない状態で平行線のまま。

どちらが正しいか決着をつけましょうと言い残して白翔はファミレスを後にする。


家に帰って碧波の様子を見るといつものニコニコ笑顔とは程遠く、元気がなくてその姿はまるで抜け殻のみたいになっていて声をかけたくてもそれすら出来ない。


編集者に電話をして休載させて欲しいと一連の流れを説明をすると編集長と平川さんとともに翌日、北海道のファミレスに来ることが決まったことを碧波に伝えた。


翌日、ファミレスに行って中で待っていると約束の時間にやってきて編集長が今回の件について謝罪をする。


「赤松碧波さん、担当の平川が失礼なことをして心身ともにつらい思いをさせてしまい申し訳ない。平川は担当から外すことを考えている。出来れば引き続きうちでマンガを描いて欲しい」


「その気持ちは嬉しいですが、リフレッシュするのも含めて休載させてもらえませんか? 他のところで描くとかしないので」


編集長は休載を認めてくれて戻る時は前の担当でもあった河島さんが務めることも併せて約束してくれた。

この話を聞いて白翔も休載するべきだと思っていた。


とてもじゃないがマンガを描けるような心身ではなかったため、休んで普通の女子校生として友達と遊びに行ったりしてもらえたらなと考えていた。

彼女、赤松碧波を支えようと心に誓った。


気分転換

休載を決めた碧波はしばらくペンを置いてどこにでもいる普通の女子校生としての生活を送ることになる。


かわいい制服を着て同じクラスやマンガ家としてファンだった子と学校帰りにショッピングモールで服を見て買ったり、プリクラを撮ったりと満喫していた。家に帰ってきて服を買ってきたけどかわいくない?と笑顔で見せていた。


「白翔、デートしよう。かわいいお洋服とかわいい制服、両方でお出かけしたい。何も気にせずにデート出来るのは今だけだからさ」


彼女に太陽のようなかわいい笑顔でお願いをされたら断るわけにもいかず一緒に出かけることを決めた。


夏休みの初日、碧波は制服を着て長い髪を束ねてツインテールにする。行きたいところがあるから付き合ってと言われ、場所はどこなのか気になりつつ家を出る。


まずポップコーンとオレンジジュースのセットとともに恋愛映画を観ている。隣に座る碧波を見ると泣いている。よほどこの映画を観たかったのかな。


お昼ご飯を食べてゲームセンターで燥いだりプリクラ撮ってカフェでお喋りをしていると夕暮になる。周りからはもしかして碧波ってもしかしてマンガ家赤松碧波じゃない?


との声が聞こえてきたが当の本人は全く気にしていないような感じ。また一緒に出かけようと家に帰ってきたかと思ったら幸せそうな顔をして寝ていた。


8月に入って各地で花火大会や夏祭りが開催される。


両方を楽しみたい碧波は夏祭りが行われていて花火が見れるところを虱潰しらみつぶしして行われる日、浴衣を着て電車に乗って函館から小樽まで向かう。電車の中で手を繋いで車窓を眺める。


少し早めに着いて暑いからと水着とバスタオルをレンタルして数時間プールで過ごして近くの神社で行われる夏祭りに向かう。出店で幾つか食べていると花火が上がる。軽くキスを交わして電車に函館に戻る。


年明けにはまた連載を再開しようと思うから冬には一緒にイルミネーションに行こうね。まだ暑い夏だが半年後の予定を決めていた。


夏が過ぎ、秋には紅葉狩りに行ったりハロウィンで仮想をしていると肌寒い季節になって来た。函館のイルミネーション以外にも電車で各地にも足を伸ばしていた。


クリスマスイブ、碧波はワンピースにダッフルコートを着て夕方に白翔とともに家を出る。電車で札幌の大通公園や小樽運河の水面に映るイルミネーションを眺めていた。函館に戻って五稜郭タワーに行ってから函館山に登って夜景を楽しんだ。


碧波は立ち止まって話があると口を開く。


「白翔、年が明けて成人の日過ぎたあたりからマンガ家として再開しようと考えていてさ。この半年、友達や出かけたりデートしてリフレッシュ出来たからよ。だからまた1位を目指したいから協力して欲しい」


再びマンガ家赤松碧波が再開すると聞いて出来ることは何でもしよう。休載の時の約束では前の河島さんが担当してくれると言ってくれたが確約ではない。いい担当の人に当たりますようにと願っていた。

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