満喫

水遊び

碧波の家に1本の電話がかかってきた。


自宅からで碧波から電話を代わるともうすぐ7月も終わるからそろそろ函館に戻ってくるように。それだけ告げられて電話が切れた。


カレンダーを見ると明日から8月、数日いて戻ってくる予定でいたが気がついたら1週間以上も滞在していた。


我に返ってこのままだと夏休みの間ずっといるような気がした。再び家にかけ直して明日帰ることを伝える。


碧波に何て伝えようか、首を傾げてこっちの様子を伺っていてとても帰るとは言い出しづらい。


あくまでも家族や居候している身ではなく、泊まりに来ているだけ。その事すら忘れてしまうくらい楽しい。言わずに帰る、そんなこと出来るはずもなく伝えた。


「碧波、明日の電車で函館に帰ろうと思う。旭川に来て沢山思い出が出来てよかった、前に来てくれたお友達にもよろしく伝えておいて」


しばらく碧波は何も言わず黙り込む。

そうだよね、元々はお見舞いで旭川に来てくれたってことを忘れるくらい毎日楽しいよ。


距離は遠くて中々会えないかも知れないけどいつでも会えるよと微笑む。じゃあ最後いっぱい思い出作ろうね。


とはいえ碧波と一緒に行きたいところはプール、さすがにそれを提案するには……。地元のお祭り?そんな上手いことあるわけないし……。さてどうするか。


すると碧波から提案される。

ねぇ白翔、今日暑いしここから歩いてすぐのところに市民プールあるから一緒に行かない?中学生以下なら無料だしさ。


笑顔でそのように言う。こっちの考えていることが分かるのか、それとも単純に暑いからプールに行きたいと思っているのか。


無料ならプールに行こうかな、どこか他人事だった。


水着を持ってきてない事を伝えるとレンタル出来るから大丈夫だよ。バスタオルも借りれるから手ぶらで気軽に行けることで有名でさ。


早く行こうと腕を掴み家を出ていく。歩いてすぐの市民プールに行って水着を借りて着替えて碧波か出てくるのを待っていた。


5分くらい経っても碧波が来る気配がない。すると目の前が真っ暗になる。耳元で待った?と囁く。


白翔は顔を真っ赤にして恥ずかしいから止めてと大声で叫ぶ。どうして碧波はこうイタズラをするのか。まぁその姿すら愛おしくすら思ってしまう。かわいい。


ウォータースライダーや流れるプール等数種類あって遊んでいると碧波の友達と遭遇をする。中学生以下無料とあって友達も来てるのかな。


せっかくなら友達と思い出を作ってほしいと考えて碧波のもとを離れようとした。すると腕を掴まれる。


ねぇ白翔、どこ行くの?一緒に思い出作るためにプールに来たんでしょ。みんなで遊ぼうよ。


白翔は悩む。自分は今日で旭川を後にするが会おうと思えばいつでも会える、


でも友達とは今度いつ遊べるか分からないなと天秤にかけていてそのことを伝える。


すると1人の女の子が名案があるよと言い出した。

それなら一緒に遊ぼうよ、そうすれば碧波との思い出も作れるし、私たちも小学校最後の夏も楽しめるうえ白翔君との思い出を作れるよ。


白翔は碧波の顔を見ると微笑んでいる。じゃあ迷惑じゃなければと歳上の女の子たちに囲まれるようにプールを満喫する。


優しくてかわいい碧波、接してくれるお姉さんたち。帰るのが名残惜しく感じる。


すると女の子たちからお祭りに行くかどうかの議論をしている。旭川に来てから行先は碧波に決めてもらっていた。


だから最後くらい自分の気持ちに正直になって行きたいことを伝えるとみんな快く受け入れてくれた。

仲間に入れてくれて夕方、神社に待ち合わせることになる。


夏祭り

お昼ご飯を食べてしばらく部屋でゆっくりしつつ夏休みの宿題をやっているとそろそろ待ち合わせ時間に近づいてきたことをした碧波に伝えると箪笥たんすを開けて何かを探して取り出そうとしている。


ん〜、今日はこれにしようと言って水色の浴衣にピンクの帯と何ともかわいい組み合わせで着る前からどんな感じなのかと妄想してしまう。


浴衣に着替えるなら部屋から出ていこうとすると部屋の鍵を締められる。


浴衣着たことないから手伝って欲しいの。そう言って手際よく着るが上手く帯が縛れずにいた。何度やっても出来ず手を貸してとそれとなく縛った。


どう?似合うと太陽のような笑顔で聞いてくる。もうかわいすぎて何も言えずにいた。


下駄を履いて家を出ると碧波は歩きずらそうにしている。女の子たちはみんな浴衣を着て集合していた。お祭りでは露店に出ている金魚すくいや的当て食べ物をお互いに食べあいこしている。


しばらく歩いていると花火セットが売られていてみんなで持ち寄って買う。夜に碧波の家でやろうと決まった。


午後7時、みんなで碧波の家に行って準備をする。お母さんに見てもらいつつ線香花火や手持ち花火を終えたあとは鉄板で焼きそばを作って食べてともう思い残すことはないと女の子たちの帰りを見送る。


碧波とともに部屋に戻る。部屋着に着替えて疲れたから寝ようとする。充実した旭川での生活だったな、いい夢が見られそうだなと思っていた。

白翔、ちょっと目を閉じてと小声で言う。


次の瞬間、感じたことのない胸の高鳴り。動揺のあまりすぐに状況が飲み込めず何をしたのか確認をする。今のって……。まさか……。


「うん、キスだよ。白翔のファーストキス奪っちゃった。優しくてかわいくて慕ってくれる白翔が好き。だからキスしたの。でも見られるのは恥ずかしいから目を閉じてって言ったの」


こんな刺激的なことが起きて寝られるはずもなく朝を迎えた。函館までの長旅、ここで寝ようと決心をする。


駅まで碧波がバスで送ってくれて手紙を渡される。そこには旭川での生活とパソコンのアドレスが書いてあり、お互いに携帯を買ってもらうまでこれで連絡を取り合おうと綴られていた。

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