真夜中にかかるラジオ

 高校二年生になったばかりの高橋輝たかはしあきらは、学校と部活が終わったあと、夜十時まで飲食店でアルバイトをしていた。朝早く学校へ行き、サッカー部の練習を朝と放課後にこなしてからアルバイトに行っていた。休む暇もなく職場へ行ってしまうので、学校で行う授業の予習や復習は帰ってから深夜にやっている。だから、寝るのは深夜の十一時半を回ってしまう。

 同じ家に住んでいる母親もパートに出ていて、朝早くから夜遅くまで仕事をしている。輝ほど派手な仕事ではないが、電子部品を組み立てる工場の勤務は毎日忙しかった。

 父親は、輝が幼い頃に交通事故で亡くなっていた。母は再婚はしていないが、たまに知らない男性と付き合っていることがある。しかし、付き合う以上になることはなく、すぐに別れていた。

 輝は、いつものようにバイトを十時に上がってきて、母が作っておいてくれたおにぎりを持って自分の部屋に行った。真夜中のラジオを音量を抑えめにしてつけると、そこからは、軽快な音楽とともに、少しテンションを抑えたパーソナリティーのアナウンスが聞こえてくる。真夜中、普通の人間ならば眠りに落ちているこの時間が、輝はなんとも言えず好きだった。

「母さん、いつもありがとう」

 ふと、感謝の言葉が出てくる。いつも忙しいのにおにぎりを作ってくれる母。彼女には、懸命に勉強して恩を返していこう。

 ラジオを聴いていると、一日の疲れが吹き飛んでいくようだった。なぜかその、一人で過ごす深夜の時間に安心を覚える。

 そんな真夜中のラジオは、輝にとって特別なものだった。

 しかし、ある日から、輝は、真夜中のラジオを聴かなくなった。

 それは、ある女子高生との出会い、そして、そこから広がる人間たちとのつながり、そのつながりがきっかけで発覚したある事件が発端だった。

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