第36話

*  *三階の女子トイレ*  *

 「はぁはぁはぁ」

 

 全力疾走をして、息切れで胸が苦しい。

 思わず冬也から逃げてしまった。

 

 「だって、だって」

 

 トイレの鏡見ると自分の目が赤くなって涙が溜まっているのが分かる。 


 「・・・ふぅー」

 

 バクバクの心臓を落ち着かせるために深く息を吐いた。

 また、ファミレスで告白しようとした時の様な不安に駆られて、私は逃げた。今回の事で間違いなく冬也の私に対する印象は悪くなってしまったと思う。

 

 「だって。怖いから」


 鏡の自分に向かって言い訳を、ぼそりと呟いた。

 

 「あんな思い二度としたくない。だから・・・」

 

 思い出すのは、幼き日の冬也の言葉。

 その言葉があって私は冬也に告白するのを躊躇してしまっていた。

 

 『女として、見ていない』

 

 こんな言葉を冬也から突きつけられた。

 突き付けられる前から、ずっと冬也を想っていた私のショックは大きく。聞いたその日は一晩中ベットで泣いた。

 だから、努力した。こんなキツイ言葉を突き付けられても、冬也の事が好きだったから。女として見て貰えるように、お洒落に敏感になったり、お洒落をする為のお小遣いを親からもらう為、学校の成績を常にトップに入れる様、必死に勉強したりと頑張った。そして、要約完璧だと思って告白しようとしたら気付いた。自分磨きしか出来ていなかった事に。

 

 「・・・冷たい」

 

 水道水で顔をバシャバシャと洗った。

 涙で崩れた化粧よりか、普通にすっぴんでいい。

 化粧と言っても、先生から注意されない程度にしている極薄メイクである。そこまで差はない。

 

 「莉奈いるかー?」

 

 冬也が私を呼んでいる声が聞こえた。・・・え?!まだ、冬也まだ、帰ってないの!!

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