第7話

 「ただいま」と言っては言ったものの、この時間はまだ誰も家には居ない。と思っていたのだが、今日は珍しく返事があった。


 「おかえり」


 「あれ?母さん。仕事は?」

 

 母が家にいたのだ。

 

 「今日は早く帰れたの。・・・それより、今日の弁当どうだった?」

 

 気味が悪い笑みで尋ねれてくる母。

 

 「・・・」

 

 正直な話、実は今日の弁当をほとんど食べていなかった。忠光にほとんど食べられたのだ。でも、俺はそれがよかったと思っている。そのおかげで、莉奈が忠光用に用意していた手料理を分けてくれたのだ。

 

 「特にコロッケ。あれは渾身の出来だったわね」

 

 「あ。美味かったって」

 

 忠光が絶賛していたのを思い出して、そう言った。


 「やっぱり!兄貴もそう思うよね」

 

 「うぁ。びっくりした」

 

 後ろから、今帰って来たであろう春が、テンション高くにそう言って近寄って来た。

 

 「あのコロッケさ。わざわざ、朝から――」

 

 「俺は食べてないんだけどな」

 

 「「・・・」」

 

 俺の言葉で母と春が固まったのに、俺は気づけていなかった。

 

 「・・・コロッケどうしたの?」

 

 春がさっきまでのテンション高めの口調とは打って変わって、静かに尋ねてくる。

 

 「忠光が食べてさ。絶賛してたよ。こんなに美味いコロッケは・・・ってどうした?」

 

 ここで明らかに春の様子がおかしい事に気付いた。

 

 「そうなんだ。うん」

 

 それだけ言い残して、春は自分の部屋へと入って行ってしまった。

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