トイレの個室

道楽byまちゃかり

公衆便所

「ウォォォォ! スライディングかましてか~ら~の~通路をカニ歩きか~ら~の~個室にカンチョー!」


 バタン!


 ふぅ、危ない危ない。危うく下半身に秘められた特級呪物によってここら一帯を汚染するところだったわ。個室全部空いてて助かった~。


 その刹那、俺が居座っている個室のドアから(ドンドン)と不気味なノック音が鳴り響く。これは『早く便所終わらせて次に譲れ』という無言の圧力。


 でもこっちもトイレに入ったばっかだし、そもそも他の個室が空いてたはず。外に居る人には申し訳ないが、この個室は暫く開かずの扉になるのでお引き取りさせてもらおう。


「すみません。入ってま~す!」

 コンコン!


 あれ? ここに入ってると意思表示のために一応声をかけてはずなんだけどなぁ。聞こえなかったのかな?


「いや、すみません。入ってま~す!」


「おい」


「え?」


「いるのは分かってんだぞ!」


「そりゃそうだろ」


「大人しく出て来い」


「展開さえ履き違えなかったら、まんま犯人に投降を促してるシチュエーション!」

 ドンドン!


「ていうかこの声は邪神坂神楽か? まだ俺入ってるから他の個室に入ってもらえます?」


「表出ろや!」


「出れるがタコ茄子! こちとら茶色のバナナを排出してるところだぞ! ていうかお前、トイレ我慢できないの? 俺以外、大の個室使ってる奴居ないはずだよ? 確か鍵なんてかかってなかったはずだからそっちに入れば?」


 俺の必死な説得によりトイレは暫しの静寂が流れる。流石に諦めて他の個室にはいったかな?




 ドンドン!




 そんな一縷の望みはついさっき絶たれた。


「なんでだよ!? なんで俺が入ってる個室に固執するの!?」



「……個室が固執……フフッ」


「そういう意味で言ったんじゃねぇんだよ」


「ここ、個室4個分あるじゃないですか」


「え? まぁ、そうだな」


「そういえば今11月なんだけど、11-10って1になるの知ってた?」


「え? はい、そうですね」








「そろそろ終わった?」


 こいつサイコパスだわ。最悪だ、なんでよりにもよって逃げ場が無いトイレの個室でサイコパスに遭遇しちゃったんだ俺は。

 しかも大の方垂れ流し中で強行突破もしばらく出来ない事実。どうする小坂一樹……


◇もうだめだ……おしまいだぁ

◇逃げるんだぁ……

◇ちんちん亭語録好き

◇俺は悪魔だぁ!

◇ケツイがみなぎった


「そろそろ出てくださいよ」


「いや出られるわけないだろ。人が目の前にいる時でも我が家のように排泄出来る身体じゃないんよ、邪神坂と違って俺は」


「いや一樹に言ってないよ」


「なんだって?」


「一樹の排泄物に語りかけてるから」


「なんだって?」


「早く出て来いよ! おい! 早く表に出んかいコラ! 便蹂躙してやるからな!」


「やめてやめてやめてやめて! 扉の外から俺の排泄活動に語り掛けないで!」


「諦めんなよ! 諦めんなよ、お前! どうしてそこでやめるんだ、そこで! もう少し頑張ってみろよ! ダメダメダメ、諦めたら! 周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって! あともうちょっとのところなんだから!」


「怖い怖い怖い怖いなぁおい! 俺の排泄物も緊張しちゃうよ? その熱量で出て来いって言われると」


「自然分泌を促してるだけだから」


「妊婦に謝れ」




◇数分後




「あーもうお前のせいで余計に時間かかったわこんちくしょう! 個室空いたからクソボケ茄子好きにしやがれってんだ!」


「ふーやっとか、よかったよかった」


「全くなんで俺が入ってる個室がいいんだよ。なら前もって左から2番目がいいですって言っとけ……」


◇邪神坂神楽は1番左の個室トイレに入って鍵をかけた。一樹が入ってた個室の隣だ。


 は?


◇俺がいた個室に入りたいんじゃねぇの?

◇ちょっと急いだ俺の無意味さが


◇どこでもいいのかよ


◇ならなぜ最初からそこに入らなかった

◇意味がわからん

◇あのノックの意味を教えろ

◇個室は3あったんだぞ

◇悪のカリスマ、諸悪の権化






 ドンドン!


「ちょ、今入ってるから。一樹よ、しっかり見てただろ赤い目になりながら!」


「いるのは分かってるんだぞ」


「そりゃそうだろ」


「大人しく出て来い」


「それが出来たら苦労しないんだよ」


「11は割り切れない数字ですよね?」


「ちょ、ホントやめて! ゴメン謝るから!」


◇その後、邪神坂は10分以上トイレの個室で小坂一樹に粘着された。


◇おわれ







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