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 シャワーを浴び終えて学生寮の自室に戻る。どうせならこの格好のまま外を出歩きたいと思うけれど、そんなことは絶対に許してもらえない。

 ベッドの上に倒れ込み、レモングリーンのカーテンを引いた。はめ殺しの窓からは夜の街並みが見えたけれどマンションの明かりよりも赤い警告灯を光らせた警戒用ドローンのそれの方がずっと多くて、あまり心地良いものじゃない。


 私は寝返りを打つ。床には脱ぎ散らかしたままの防護スーツが、転がったヘルメットの下でくしゃくしゃになっていた。

 学習机からノートを手に取って続きのページを開くと、そこには現代では全く見られなくなったフリルの付いた服や装飾の多いドレス姿の女性が何人も描かれていた。全部昔の写真や映像を見て写したものだ。リアルに描いてあるものも一部あったけれど大半はアニメ調だった。

 漫画――という文化だと父からは教わっている。

 でも今は誰もこんな古い表現手段で創作をしていない。全てがデジタルでプログラムで、鉛筆を手にすることも大半の人間には経験がない。そんな時代だ。けれど私はカリカリと黒鉛が削れてそれが真っ白な紙の上に新しい生命を形作っていく瞬間が好きだった。

 私の端末の中にはサエキさんとは違い、中古で購入した昔の漫画が大量に並んでいる。中には今から五十年も昔の作品もあって、でも全然色あせてなんて見えなくて、私にとっては教科書と同義だった。


「やっぱ、実際に見てみたいな」


 鉛筆の芯の先をじっと見つめ、私はそれをノートの上の古い学生の制服に当てる。斜めに寝かせて塗りつぶしていく。本物の制服を彼女が着たならどんなに似合うだろう。そんな思いばかりが鉛筆を走らせた。

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