第22話:交渉
転移11日目:山本光司(ミーツ)視点
俺は前日準備した肉と乾燥粉末香草を店に持ち込んだ。
全種類の肉と香草パウダーは完璧に準備してある。
美味しく焼き上げた完成串焼きも大量に亜空間にしまってある。
だが、串焼き、それもバーベキューとなると、香りも美味しさの内だ。
商品としているのなら、香りも見た目も価値、価格の内になる。
だから店の中でも外でも大量の串焼を焼く事にした。
原価が比較的高く、商品数が少ない獣を慣れない寡婦には焼かせられない。
1番数が多く、要塞都市内でも狩れるスズメなどの小鳥を中心に焼く。
カラスやハトの中型鳥は素人ではなかなか狩れないが、小鳥は子供でも獲れる。
スズメは京都の錦市場や伏見稲荷大社の門前町で食べる事ができた。
ただ俺は日本で生きていた頃に食べた事はない。
だが、戦中戦後の食糧難の時には、多くの人が食べたそうだ。
稲作をしている人からすれば、スズメは大切な米を食べる害鳥でしかない。
退治して殺すのは当然だが、奪った命を食べるのは最低限の礼儀だ。
好きか嫌いか、美味しいか不味いかは別にして、食べなければいけない。
「ほう、これが噂の乾燥粉末された香草ですか?」
「色々な食材にあわせて配合しています。
100g銀貨10枚と決して安い金額ではありませんが、塩と併せて香草塩にされれば、売値を安くする事もできます。
使い方は買われた方しだいでしょう」
「ほう!
塩と併せて量を増やせと言われるのですか?!」
「絶対のそうしなければいけないと言う訳ではありません。
ただ、単に乾燥粉末香草をかけても美味しくないのです。
塩を加えて初めて美味しくなるのですが、その塩の量に好みがあるのです」
「なるほど、強い塩味が好きな人もいれば薄い塩味が好きな人もいるのですね」
「はい、こうして実際に露店でお客さんの反応を見ても、強い塩味が好きな人が多いのですが、中には顔をしかめる人もいるのです。
得意様の好みを知る方が、相手によって配合を変えられるべきでしょう。
それと、獣の種類によって分けましたが、これもお客さんによります。
お得意様の嫌いな香草は避けるべきでしょう」
「……お得意様の好みを知っている者が勝ち残れると言う事ですか?
ですが、店主が独自の配合をされているのですよね」
「はい、私が1番美味しいと思う配合をしています。
ですが、人にはそれぞれ好みがあります。
嫌いな香りのする香草だけ抜いて欲しいと言うのであれば、お客様だけの特別な配合の香草を作らせていただきます。
お得意様と相談の上、またいらしてくださいますか?」
「おおおおお、そうしていただけるなら、それに勝るものはありません。
他のどこにも売られていない、自分だけの配合が買えるのなら、貴族の方々もよろこんで買われるでしょう」
「もしもっと高くても良いのでしたら、胡椒を混ぜた香草を作らせていただきます。
1割も胡椒を入れると、100gで銀貨20枚になってしまいますが、それこそ貴族の方に相応しい特別な調味料になる事でしょう」
「おおおおお、そのような事までできるのですか?!
分かりました、試しに全てのブレンド香草を買わせていただきましょう。
10種で銀貨100枚でしたな?
金貨1枚で支払ってもよろしいかな?」
「ありがとうございます、銀貨でも金貨でも大丈夫です」
「ところで、貴方様が商売で訪れる都市や街に違いがありますか?」
「違いと申されますと?」
「住みやすさですね。
税金が高いか安いか、治安が良いか悪いか、景気が良いか悪いか。
このロアノークは領主が変わったばかりですから、気になるのですよ」
「……移住を考えておられるのですか?」
「このままここを拠点にできれば1番なのですが、他の領主様や国王陛下が攻めて来られるなら、どこかに逃げなければいけませんからねぇ~」
「確かに、領主様をはじめとしたほとんどの貴族の方々が滅びましたね。
店主殿が心配されるのも当然でしょう。
何を基準にするかで大きく違ってくるでしょうが、商人が拠点にすべきなのは王都でしょうね」
「やはり王都ですか、ですが、理由をうかがってもよろしいですか?
これを食べてみてください、鹿肉に香草をまぶした串焼きです」
「ほう、開発者が最高の塩加減で焼いた物を食べて見たかったのです。
遠慮なく食べさせてもらいます」
「どうぞ、どうぞ、10種全て試食していただくつもりですから、ゆっくり話しながらお食べください」
「そういう事でしたら、私の舌も滑らかになりますね。
私が王都を選んだのは、戦争の心配がない事が1番の理由です。
国境から遠く、敵対するほど強力な国内貴族もおりません。
主要な都市までの馬車道が作られていますから、商売にはとても便利です。
元からあったダンジョンだけでは10万を超える民を養えないのも大きいです。
商人が集めてきた商品は、仕入れ値さえ間違えなければ必ずもうかりますから」
「商人にとっては良い事ばかりのように聞こえますが、悪い点も有るのでしょう?」
「はい、新たに市民権を手に入れる事はほぼ不可能です。
王都市民以外は、城門を出入りするたびに1人銀貨2枚が必要になります。
よほど魅力的な独自の商品がない限り、よそ者には厳しいです。
人が多いので水は汚いし、物価は高い。
貴族が多いので、運の悪い平民は踏み潰されてしまう事もあります。
貧民街とその周辺は治安も悪い。
ですが貴方様なら、莫大な富を手に入れられるかもしれません」
「そうなれば良いのですが、危険や問題も多いのですね」
「はい、危険や問題は多いですが、それはどこも同じでしょう?
ようは自分が解決できる問題かどうかではありませんか?」
「貴方様の申される通りですね。
私も状況を見極めて、決断しなければいけませんね。
おお、もう皿が空になっていますね。
これを試食してもらえませんか?
猪肉を香草で焼いた物なのですが、お得意様は喜ばれるでしょうか?」
俺はやってくる商人全てから情報を集めた。
マイルズに俺が移住情報を集めている事を知られてもかまわない。
いや、むしろ知られるように動いたと言ってもいい。
俺の動きを知ったマイルズがどう動くのか知りたかった。
下手に出るのか反発して攻撃的になるのかを知りたかった。
それによって今後の方針を決めたかったのだ。
薬草部門の売り上げが金貨26枚(2600万円)銀貨6053枚(6053万円)となった。
調味料部門の売り上げが金貨98枚(9800万円)銀貨4176枚(4176万円)となった。
食肉部門の売り上げが、銀貨42枚(42万円)銅貨6594枚(65万9400円)となった。
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