第6話:生活環境

転移1日目:山本光司(ミーツ)視点


 まあ、いい、多少の無駄遣いはしかたがない。

 そもそも俺に風呂のない生活は考えられない。

 宿に籠ってコソコソ暮らすのではなく、一軒家に籠ってコソコソ暮らすのだ。


浴槽だけなら……

幅2000×奥行950×高さ580mmの置型が173万2500円

幅1800×奥行866×高さ559mmの置型が89万7600円

幅1000×奥行550×高さ400mmの檜浴槽が32万3190円


 絶対に足が延ばせてリラックスできる方が良い。

 だからドラム缶風呂は最初から却下なのだ。

 下から火魔術で沸かさなければいけないのならFRPの浴槽を諦めるが……


 ジャグジーもあるが……

幅1500×奥行150×高さ620mmの三角形が29万0400円

幅1800×高さ660mmの円形が9万4980円

幅2130×奥行2130×高さ920mmの円形が142万7030円

幅3960×奥行2200×高さ1470mmの円形が401万5000円


 手足を伸ばしてゆっくりしたいから、深すぎるプールのような物はいらない。

 何より金も物もあるのに狭い風呂で我慢するのは嫌だ。


「光司様、廃村周りの薬草をくまなく調べて参りました!」


 やはりそうか、調べすぎるくらい調べてきたのだな!

 思いっきり叱りつけたいのだが、聞きたい事があるから我慢だ。

 できる事なら、この子の指導を押し付けたいから我慢だ。


「ありがとう、まずはこの子が生きて行けるように薬草の見極め方を教える。

 バカ天使の声はこの子に聞こえないのだな?」


「はい、私の声は光司様にしか聞こえません」


 くそ、やはりこの子をバカ天使に押し付けるのは無理か。


「では最初に俺に教えてくれ。

 それを俺からこの子に伝えるから」


「はい、お任せください」


 俺は垢だらけの子供をお姫様抱っこした。

 

「あ、り、が、と」


「俺は精霊と話せるから、独り言のように見えるが気にするな」


「は、い」


「バカ天使、異世界間スーパーだが、入れたモノを消去できるか?」


「店舗で売りに出したモノを消去されるのですか?」


「そうだ、やれるのか?」


「異世界間スーパーで1度売りに出した物は消去できません。

 出品を取りやめて亜空間に入れるかこの世界に出すかです」


「亜空間に入れた物で不要になったモノ。

 具体的に言えば、風呂に入った後の汚水を消去できるのか?」


「無理です、時間を止めて保管できますが、削除はできません」


「だとすると、風呂と汚水を別々に保管しておいて、適当な場所に来たら捨てる方法しかないのだな?」


「そうですね、そうしていただくしかありません」


「異世界間競売で売る事はできないのだな?」


「汚水を競売にかける事はできますが、何かに入れなければいけません。

 光司様の世界で売られている水や灯油と同じように入れ物に入れて頂かないと。

 それと、飲料用の真水なら売れるでしょうが、汚水では……」


「異世界間競売で物が売れたら、日本円にもこの世界の貨幣にもできるのか?」


「はい、どちらにも変換できます。

 保証された日本円を全てこの世界の通貨にする事も可能です。

 もちろん、この世界の通貨を日本円にする事もできます」


「そういえば、俺の読んでいた小説ではモンスターも売れる事が多かった。

 俺が斃したゴブリン達も売れるのか?」


「はい、この世界でも異世界間スーパーでも異世界間競売でも売れます。

 それだけでなく、マジック・ストームで吹き飛ばした木々や岩も売れます」


「なに、本当か?」


「はい、本当です。

 異世界によっては、植物が貴重な世界や岩が貴重な世界があります。

 光司様の世界でも、時代によっては庭石がとても高価だったでしょう?」


「確かにその通りだ。

 日本庭園がもてはやされた時代や、城が建築された時代は岩が貴重だった。

 金満家が流行の庭石に大金を積んだと聞いた事もある」


「それと同じでございます。

 まずはこの世界の相場を確かめてください。

 その上で異世界間スーパーでは幾らで売れるか確認してください。

 最後に最低価格を定めて異世界間競売にかけてくださればいいのです」


「おい、こら、俺にこの世界を案内するはずだったお前が、この世界の相場を知らないと言う事か?!」


「違います、今回は違います、ちゃんと調べましたし知っています。

 ただ、国や地方によって値段の変動が激しいのです。

 塩1つを取っても、海岸部と内陸部では値段が違いますし、ここは光司様を御案内しようとしていた国とは全然違う場所なので……」


 怒るな、怒るな俺、バカ天使を怒っても無駄だ。


「分かった、風呂に使った水と浴槽を別々に収納して汚水だけ捨てればいいのだな。

 それで、水を良い湯加減に温める魔術はあるのか?」


「はい、対象物に触れてウォームと呪文を唱えたら温められます。

 対象物を真剣に思い浮かべれば遠くからでも温められます。

 ただし、相手が生きていると抵抗される事もあります」


「遠くの敵をウォームで温め殺すことはできないのだな」


「はい、ウォームは適温までしか温まりません」


「それと、水を魔術で創り出す事はできるのか?」


「できますが、場所によって必要な魔力量が違ってきます。

 一般的な水属性の攻撃魔術は、魔力に属性を付与しているだけで、実際に水を創り出したり召喚したりしている訳ではありません。

 ですからその場に木も火も土も金属も水も残りません」


「その理屈から言うと、近くにある木や火や土を利用するのは召喚魔術だな」


「はい、ですから周囲の環境に大きく左右されてしまいます」


「何もない所から木や火や土を創り出すのは創造魔術で、桁外れの魔力が必要だと言う事だな?」


「はい、その通りでございます。

 創造魔術で創り出した木や火や土は、まじりっ気のない純粋なモノです。

 特に水などは、超純水と呼ばれるものになります。

 ですが召喚魔術で呼び出された水は、その場所の不純物を含みます」


「意識して元素や分子を集める場所を選べるのか?

 大気中なら埃やゴミが混じるだろうし、土なら雑菌や微生物が混じるだろう?」


「その通りでございます。

 ですから、地中から水分を集めると破傷風菌や風土病菌が混じる事もあります」


「……これから魔力の消費などを調べてみるが、創造した水を使う方が良いのか?

 それとも、召喚した水をピュアやディスィンフェクションで飲めるようにした方が良いのか?」


「1番安全なのは、創造した水を使う事です」


 こう言っているが、失敗の多いバカ天使は信じられない。

 自分自身で色々試した方が安全だな。

 それに、超純水なら薬草から医薬成分を抽出するのに最適だから無駄にならない。


 魔力は、美味しいモノを食べたらいくらでも創り出せると分かった。

 ただ、まだ色々食べる事のできない子供の前で、自分だけ御馳走を食べるほど無神経にはなれない。


「分かった、まずは浴槽を確かめてみる」


 実験用だから、足が延ばせるビニール製の安いジャグジーで良いだろう。

 幅1800×高さ660mmの円形を9万4980円で購入。

 直ぐに部屋の中にジャグジーを出して置く。


「うっ、わ」


 子供が驚いている。

 ちゃんと説明しておけばよかった。


「ごめんね、今からお風呂に入ってもらうから」


「は、い?」


「身体が垢だらけだし、虫も沸いているから清潔にするよ」


「は、い?」


 よく分かっていないようだが、この子の気持ちを多少無視しても清潔が大事。

 昔飼っていて猫が蚤をわかした事があるが、もう2度とあのような痒い思いはしたくない!

 

「ウォーター」


 召喚魔術で空中から水を1リットル集めるのに魔力が1必要なのか。


「ウォーター」


 召喚魔術で土中から水を1リットル集めるのに魔力が1必要なのか。

 このジャグジーにある程度の水を貯めようと思ったら、魔力が1200もいる。


「バカ天使、俺が水を召喚する魔術を使い続けたら、レベルは上がるのか?」


「……モンスターを斃したらレベルが上がります」


「生活魔術や召喚魔術、創造魔術を使ったらレベルが上がったり習熟度が上がったりするのかと聞いている!」


「……モンスターを斃したらレベルが上がります」


「バカ天使、お前はこの世界に何をしに来る予定だったのだ!」


「……光司様が何不自由ない生活ができるように、案内する予定でした」


「レベルアップ基準も知らずに何を案内する予定だったのだ!」


「申し訳ございません!

 全て私が悪いのです!」


「悪いと思ったら、今直ぐ近くの町か村に行って調べて来い!

 俺がこの子を洗い終わるまでに調べてこい!」


「はぃいいい」


 バカ天使の気配が消えたので、今更だが子供の相手をする。

 先に精霊と話せると言っていたから我慢してくれていたようだが、色々と聞きたい事があるだろう。


「放っておいてごめんよ。

 バカな精霊が一杯失敗したせいで忙しかったんだ」


「だ、い、じょ、う、ぶ」


「名前は何て言うんだい?」


「ネ、イ」


「ネイか、良い名前だね。

 念のために聞いておくけれど、女の子だよね?」


「う、ん」


 女の子をお風呂に入れて洗うのか……

 5歳くらいだし、大丈夫だよな。

 異世界だし、児童福祉法違反にならないよな?


「これで洗いなさい、自分で洗えるだろう?」


 俺は事前に買っておいた石鹸とタオルは渡した。

 この世界で転売する事を考えると、ビニール袋に入っている石鹸は買えない。

 1個ずつ紙箱に入っている85g10個入り1198円の石鹸だ。


「わ、か、ら、な、い」


 100枚7799円で買った綿パイル生地のフェイスタオルを持ったネイが、強張った表情筋でも悲しそうにしているのが分かる表情で答える。


「だったら洗ってあげるけど、いいかい?」


 これは犯罪じゃない、これは犯罪じゃない、これは犯罪じゃない!


「う、ん」


 ほんのわずかな表情の違いで喜んでくれているのが分かる。

 伊達に30年も患者さんを診続けてきたわけじゃない。

 遠くから歩いてくる人の動きを見てどんな症状か判断する訓練も続けていた。


 こんなに喜んでくれているのなら、それなりにもてなしてあげよう。

 お風呂から上がったら清潔で着心地の良い服が必要だ。

 タオル生地の子供用バスローブ、1500円を2着購入。


「ウォーター100リットル、マジック・リカバリー」


 いや、まずは柔らかくて肌触りの良いバスタオル100枚4万4000円を買っておかないと、濡れた身体で寝間着を着る事になる。


「痛かったり痒かったりこそばかったりしたら、我慢しないで言いなさい」


「は、い」


 バカ天使、こんな時こそこの場に居て実体化しろ。

 そもそも俺の補助をするなら実体化できて当然だろう。

 ほとんどのラノベで女神が実体化しているのだぞ!


「ふく、そうだ、どんな服が着たい?」


「ふ、く?」


 くっそぉオオオオオ!

 5歳児の、女の子の服など分かるか?!

 特に下着なんて全然わからないぞ!

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