夢にまで見た異世界転移だけど、勇者に成る気はありません。引き籠って生きたいのです。

克全

第1話:プロローグ

 ゴォオオオオ!

 目の前に迫ってくる大型トレーラー!

 前にいるクソガキ共の会話に怒りを感じ、注意力が散漫になっていた。


 同級生を虐め殺した話を自慢げにしていた連中がはねられていく。

 俺に力があればぶち殺してやりたいと思っていた男の頭が破裂した。

 虐め殺した同級生の死に様を嘲笑った女がタイヤに踏み潰される。


 他の連中も1人残らずはね飛ばされひき殺されていく。

 こんな連中に天罰を与える神様によくやったと言ってやりたいが、ダメだ。

 なんで何の関係もない俺を巻き込む?!


★★★★★★


「申し訳ございません!

 全て私が悪いのです!」


 気がつくと奇麗に土下座する金髪が目の前にいた。

 土下座する背中には1対2枚の羽が生えている。

 キラキラと光るありえない空間から考えて、死後に天使に会っているのだろう。


「何が悪いと言っておられるのですか?」


 想像しているだけでは何も始まらない。

 ちゃんと事情を説明してもらわなければ何もできない。

 大型トレーラーにはねられたのも、ここにいるのも、夢という事もある。


「私、元々失敗が多くて、位階をどんどん下げられるほどのドジでして……」


「そのような事を聞いているのではありません。

 どうして俺がここにいるのか聞いているのです。

 大型トレーラーにはねられたのは間違いないのですか?!」


「ハィイイイ、間違いありません、私の手違いで光司様を死なせてしまいました!」


 なるほど、死んだ事に間違いはないのか。

 謝っているということは、生き返らせる気はないのだな。

 だが、交渉を有利にするために、この点を突いておこう。


「天使殿、貴方のミスで死なせたと言うのなら、生き返らせていただきたい。

 天使ならそれくらいの力はあるのでしょう?

 天使に生き返らせる力はなくても、神様なら生き返らせられるでしょう?

 天使がやった事でも、神様にも使用者責任というものがあるでしょう?」


「光司様の申される通りなのですが、残念ながら今回はむりなのです。

 光司様の身体は多くの人の前でグチャグチャに潰されてしまいました。

 それを無かった事にして再生復活させる事はできないのです」


「私は神様の人選ミスと天使の失敗で殺されたのに、何の保証もされないのですね。

 このまま泣き寝入りして死ななければいけないのですね?!」


「その事に関してなのですが、異世界で人生をやり直すという保証が……」


「バカな事を言わないでください!

 嫌々勉強や仕事、円形脱毛症ができるほど嫌いな人付き合いを終えて、ようやく独り静かに余生を送ろうと思っていたのだぞ!

 何が哀しくて大嫌いな仕事や人付きをもう一度やらなければいけないのだ!」


「ヒィイイイ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


「謝っていないで、神様に俺の余生に匹敵する賠償を約束してもらってこい!

 若返らせろとか、長生きさせろとか、強くしろとか、ハーレム寄こせとか言わん!

 本来俺に残されていた寿命と貯金、殺された賠償金。

 前世で楽しめるはずだった食事と娯楽だけ保証してくれればいい。

 勇者になりたいとか、大賢者になりたいとか、無理難題は言わん。

 ささやかな保証だけしてくれればいい」


「それが、その、もう光司様の転生先は決まっておりまして……」


「なんだと?!

 神と天使の失敗で勝手に殺しておいて、元の世界で輪廻転生もさせないのか?!

 おい、こら、聞いているか、氏神、仏!

 それでも俺の氏神か?!

 仏、俺の家は先祖代々仏様を信心してきたぞ!

 先祖代々信心してきた仏は信徒をそんな扱いするのか?!

 紅毛伴天連の神に好き勝手やらせて泣き寝入りするのか?!」


 え、なに、とんでもなく圧倒的な気配がするんだけど?

 大自然の強大さに、自分の矮小さを思い知らされたのと同じ感覚なんだけど!


「よくぞ申した我が氏子」

「本当によくぞ申した我が信徒」

「「お前を巻き込んだ異国の神に鉄槌を下さん」」


 ★★★★★★


「申し訳ございません!

 全て私が悪のです!」


 また目の前に1対2枚の羽根を生やした天使が土下座している。

 俺は気を失っていたのだろう。

 天使との会話に氏神様と仏様が介入したのまでは覚えている。


「謝るなら保証しろ!

 氏神様と仏様は、お前の神と話し合われたのか?!」


「ハィイイイ、今回の件にかかわっていた異界の神様と一緒に話し合われました」


「で、俺への補償はどうなった?

 元の世界に復活できるのか?」


「それは……残念ながら、元の世界はもう少しすると滅んでしまいますので……」


「……核戦争でも起きると言うのか?」


「はい、その通りでございます」


「じゃあ俺の寿命も本来それまでなのだろう。

 だったら、それまでの間、誰もいない所に復活させてくれ」


「残念ながら、日本ほど治安の良い国は滅多になくて。

 光司様の求められている食生活やネット環境を維持するのは不可能でして」


「ほう、日本の水準で食事やネット環境を保証してくれる気があるのだな?」


「はい、異世界にはなりますが、異世界間スーパーを使えるようにさせていただきますので、それでご容赦願います」


「それって、今までのようにお金さえ払えば好きなだけ取り寄せできるんだよな?」


「はい、光司様がこれまで使われていた通りに取り寄せできます」


「だけどそれにはお金が必要だよな?

 生きていた頃に溜めていた貯金や不動産はどう評価してくれるんだ?」


「貯金は全額保証させていただきます。

 土地は路線価の3倍か実勢価格の3倍の高い方。

 家と店舗、家具家電や衣服に関しては再取得価格で保障させていただきます」


 うん、これだけ保証してくれれば十分だ。

 異世界に魔獣や魔族がいたとしても、寿命までは殺されないはずだ……よな。


「異世界で何があっても元の寿命までは殺されないんだよな?

 拷問される事もなければ監禁される事もないんだよな?」


「はい、4柱の神様の間で十分話し合われました、大丈夫です」


「念のために聞くけど、賠償金はもらえるの?」


「はい、光司様が元々持っておられた財産に加え3億円が与えられます」


「そうか、それはありがたいな。

 だが、異世界と日本じゃ通貨も違えば物の価値も違うだろう?

 どうやって円と異世界の通貨を交換するんだ?

 まあ、ずっと家や部屋に籠って世界間スーパーで買い物すれば済むが……」


「その点はご安心ください。

 異世界で買い物する時も、現地の金額の後に日本円の価値が浮かびます」


「そうか、それならな安心だな。

 それと、異世界で死んだ俺の魂はどうなるの?

 元の世界の輪廻転生に戻れるの?」


「はい、氏神様と仏様の強い要望で戻れることになりました」


「他に心配な事があるとしたら、これから行く異世界の常識だな。

 常識がないと異世界で問題を起こしてしまうかもしれない。

 人付き合いをする気などないが、常識くらいは知っておきたい。

 頭の中に常識をインストールしてくれるのか?」


「あっ、いけません、もう時間になってしまいました。

 アアアアア、設定が、設定がまだ終わっていないのに!」

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