亜人保護人

ボウガ

ある店

 ある料理店にて。

「ふーん、調査ね」

 料理をしながら、料理人は答える。チャーハンがいい色にやけていて、その匂いと見た目がすきっ腹に堪える昼頃のことだった。

「それで、あんたらあの子のなに?」

「で、ですから、私は行政の“亜人省”“亜人遺産保護調査部門”の調査員で」

「ええ、お願いします、少しでも情報を、“火事”に関する情報を」

「先輩」

 と後輩かつ友人である“クラノ”に呼びかけられて、エランがうしろをふりむくと店内の全員がこちらをみている。

「よくも悪くも根が深そうね」

「あの子はこの町になじんでいる、今更どうにかしてあの子を連れ戻そうとか考えているのか?」

「場合によってはありえるわ」

「……まったく“亜人省”なんて、結局素直に賠償したくない国がごまかすためにつくった機関だ」


 かつて、この世界は、いくらかの悪しき研究を葬りさった。その一つが“亜人”研究だった。かつて最後の戦争が起き、強大な独裁国家“離異国”が生まれ、その国が非人道的な実験を行った。彼らとの戦争にまけた国々は彼らの言いなりになり、彼らの研究のために同胞をさしだした。

 その国のひとつが私の国“イェラ”。やがて国々とレジスタンスの秘密作戦によって離異国の体制は崩壊し、ほぼすべての国の所属する国際機関“国際平和同盟”の監視下におかれたが、かの国の重大な人権無視の研究のすべてて、“行き過ぎた文明”の結果だとして、そのいくつかの科学技術は封印された。ほとんどが封印されたため、どのような技術や科学知識を蓄えていたか、その全貌を知ることはできないが、噂では封印された科学技術や知識は“異次元に関する知識”だといわれている。


「大将、ありがとう、またくるわ」

「もうこなくていいって」

 店内にギャハハハと笑い声がひびく。“クラノ”は小声で悪態をつき、口をとがらせる。彼女のボブのオレンジの巻き髪が、周囲をみわたしふわふわとゆれた。彼女の困り眉は一層こまっているようにハの字に歪んだ。

「感じの悪い場所ね、いくらさびれた街とはいえ、ここまで非協力的なんて」

「さあ、どうかな」

 その後、いくつかの聞き取りと“彼女”の様子を調べると、私たちはその料理店をでた。外に出るとビルや都市がまるで森林のように下から上までそびえたっており、中空道路が、そのはざまを縦に横に行き来していた。

 エランは黒い髪をたばねると、そのうつろでしかし透明感のある堀の深い顔とか細いまゆ、長いまつげと青い瞳で遠くをみて、ペットボトルの水をゴクリのみほした。

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