1話

「な、なななっ…!」


あまりに動揺しすぎて、変な声しか出てこない私。


一方、女性の方は先程までの苦しそうな表情が消えていて。


「ふぅ…。なんとか助かりましたぁ。」と安堵する女の子だったのだけど、私の様子に気づくと慌てて。


「ご、ごめんなさい!いきなりのことで驚かせちゃいましたよね!」


そう言うとなにかを説明しだすのだけど、正直混乱しすぎてなにも頭に入ってこず、とりあえずこの場から離れようと考えた私は立ち上がる。


その時。


グシャッと音がして足元を見てみると、さっき私が頑張って買ったケーキの箱を見事に潰していて。


絶望する私は潰れた箱を手にして、その場を離れようとしたのだけど。


「ま、待ってください!」と腕を掴まれ。


「せめて!せめて恩返しさせてください!」と後ろから抱きつかれて身動きが取れず。


「い、いえ…。いいです…。」と断るも「だーめーでーすー!」と離してくれず。


気づくと周りの人達の注目を浴びていた私は諦めて受け入れることにした。


…のだけど。


私は自宅のマンションへと女の子と帰ってきていた。


なぜこんなことになっているのかというと、恩返しをするのに必要なことらしくて。


正直、怪しさがあったけど女の子の強引さに負けてしまったのだ。


さて、リビングのテーブルに向かい合いニコニコしている女の子と顔を逸らしている私。


そしてテーブルにはさっき潰してしまったケーキの箱が置かれている。


(うぅ…。私なにやってるんだろ…。っていうかこの子強引すぎるよ…。)


なんて後悔していると「えっと。改めて自己紹介と説明をさせていただきたいのですが。」と話しだす。


私は顔が見れず、対面しているこの状況に緊張で声が出せずコクッと頷く。


「わたし実は…女神なんです!といってもまだ候補生なんですけどね!えへへ!」


(女神?突然何言ってるんだろ…。)


「それでですね!ちょっと事情があって地上に来たんですけど、困ったことに女神の力が残り少なくてピンチだったんです!そこにわたしのことが見えるあなたがやってきて力を分けてもらったんです!そのおかげで周りの人にも見える様になりました!」


(うぅ…。聞いても理解できない…。)


「といってもこんなこと急に言われても信じられないですよね!なのでまずは恩返しも兼ねて証明しますね!」


女の子はそう言うと右手をケーキの箱へとかざす。


すると、突然ケーキの箱が光だし潰れていたはずの箱が戻り元の形へと戻っていく。


女の子が箱を開けると中のケーキも元通りになっていて。


そんな信じられない光景を目の当たりにした私。


「これが女神の力の一部なのですが。どうですか?信じてもらえましたか?」


という質問にコクッと頷く。


「信じてもらえてよかったです!あ、ちなみにこんなことも出来るんですよ!」


そう言うとまた右手をかざす。


すると今度は一つだけだったケーキが二つに増える。


「さぁどうぞ召し上がってください!」


そう言われ私はお皿を二つ用意して取り分ける。


そして、一つは私の。


もう一つは女神様の元に置く。


「え?わたしは大丈夫ですのでお二つとも召し上がってください。」


「い、いえ…。め、女神様も…。」


「優しいんですね。では、わたしもいただきますね。」


そうしてケーキを一口食べる。


口の中に甘いケーキの味が広がり、今まで緊張していた私だったけど自然と笑顔になり。


私を見てニコニコする女神様。


「えへへ。笑顔かわいいですね。」


褒められ慣れていない私はその言葉に思わず咽せてしまう。


「わわわ!ご、ごめんなさい!だ、大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫です…。」


そんなやりとりをしながらまたケーキを食べ始め。


「そういえばまだお名前を聞いていなかったですね。」


「た、立花凛々です…。」


「凛々さんですか。良いお名前です!」


と、また褒めてくれる女神様に今度は顔を赤くしながらケーキを食べる。


それから完食をして、片付けようと思った時だった。


「凛々さん。実はですね。お願いがありまして。」


と言うと立ち上がる女神様。


「お、お願い…ですか…?」


「はい。ほんとはもっと恩返しをしたいのですが今はまだ力が足りなくて…。」


「は、はぁ…。」


「なので申し訳ないのですがまた力を分けていただきたいのです!」


「ち、力と言われてもそんなの持ってないです…。」


「あっ!そうでした!まだその説明をしていなかったですね!」


そう言うとまたイスに座り話し始める。


「えっとですね。わたし達女神は愛の力を源としているのです。」


「あ、愛ですか…?」


「はい!愛です!そしてわたしは百合のみを力の源としていまして。」


(百合…?お花のことだよね…。)


「その百合の記憶を読み取ることでわたしの力とすることができるのです!」


「で、でも私お花のことは詳しくないですよ…。」


「…え?」


「知ってはいますけど詳しくは…。」


「あ、あの…。凛々さん…?」


「は、はい…。」


「も、もしかして百合を知らない…ですか…?」


「だ、だからお花のことですよね…?」


「違います!そっちの百合じゃなくこっちの百合です!」


そう言うと女神様はどこから取り出したのか一冊の本を取り出すと中を私に見せる。


そこには女の子同士が仲良さそうに話したり、手を繋いだり、抱き合ったりしていた。


(え…。な、なんで女の子同士で…!?)と驚きながらも顔を赤くして見ている私。


「これわたしのお気に入りの一冊なんです!よかったらお貸ししますよ!」


「い、いえ…。だ、大丈夫です…。」


「えー!なんでですかー!凛々さんもきっとハマりますからー!」


なんだか興奮している女神様に戸惑っていると私。


そんな私に気づいたのかコホンと咳払いをすると冷静さを取り戻した女神様。


「すいません。百合の話で興奮しすぎちゃいました。」


「は、はい…。」


「それでですね。わたしの力の源は百合なんです。なので凛々さんが体験した百合の記憶を分けてほしいのです。」


「分ける…ですか…?」


「はい。さっきみたいにキスをすることで記憶を読み取れますので。」


「キ、キス…。」


(そういえば混乱しすぎて忘れてたけど私女神様とキスしたんだよね。)


そう考えると恥ずかしくてまた顔が赤くなってしまう私。


「お願いします!凛々さんしか頼れる方がいないんです!」


「わ、私だけですか…?」


「はい!凛々さんとキスしたことで。凛々さんの百合の記憶でしか力を戻せないみたいで。勝手な話なんですが凛々さんだけが頼りなんです!」


そう真剣な表情で見つめられた私。


すごく悩んだけど了承することにした。


知らなかったけど、どうやら私押しに弱いみたい…。

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