深町秋生「ショットガン・ロード」書評

 今回は深町秋生著「ショットガン・ロード」の書評でございます。


 あらすじをサラッと。


 物語冒頭では、元暗殺集団の構成員、汐見凌しおみ りょうがかつての仲間を暗殺します。かなりえげつない方法で。


 汐見と行動を共にするのは伊吹というアラサーのヤンチャ坊主(?)なのですが、汐見は巽会のナンバー2であった伊吹の父親を殺した、忍足おしたりという伝説の男を倒すべく日本中を駆け回っています。


 忍足は汐見にとってかつての師匠にあたる男で、汐見はその後継者と目されていましたが、とある事情で暗殺稼業から足を洗っていました。


 漁師をしていた汐見は、懇意にしていた母子を人質に、忍足殺しの旅に出ます。


 日本を舞台にしているとは思えないスケールの悪。


 飛び散る銃弾、血、肉……。


 かつて愛した師を追うごとに明らかになる真相とは?

 そして、ブランク明けの汐見は伝説の忍足に勝てるのか……?


 かなりざっくりですが、そんな話です。


 ここからは感想。


 本作みたいな作品って、日本だとあんまり無い気がします。5年ぐらい前の執筆を始める前にこれを読んでいたら「読みたい作品が無いから自分で書こう」という思考にはならなかったと思われます。つまり私はもう少しマシな人生を歩んでいた事でしょう(笑)。


 この作品は少年ジャンプ的でありながら極道映画のようなえげつなさを持っていて、色んな作家が書きたいけど、いざ書くとなるとかなりの知識を持っていないと書けないから、結果としてほとんどの人が書けないという作風なんだと思います。


 日本人の大半は銃火器を撃った事が無いからボロが出やすいんですよね。スティーブン・キングでも銃の扱い方について友人に訊いた事があるらしいですが。


 本作を読んでいて嬉しいのは、どんどん強い奴が出てくる事ですね。ここはまさにジャンプ的。


 お気に入りの敵キャラは玄羽兄弟ですかね。この二人のキャラはかなり立っていた。


 弟は斧で人の頭をかち割り、兄は邪魔者を次々と毒殺していくのですが、この玄羽兄弟との闘いはものすごくワクワク感がありました。メタルギアのスネークイーターあたりがイメージとしては近いかもしれません。


 深町秋生の作品を読んでいて毎回すごいと思うのは、よくよく見たら「ありえねー」っていう話をいかにもリアルに描くところですかね。


 沼津のラブホ前でグレネードランチャーをぶっ放したり(笑)、悪の組織を破滅に導く美少女(果てしない渇き)がいたり。それでも、生い立ちを詳細に書く事で一見「こんな奴おるかいな」という人をリアルにでっち上げる。違う人が同じ設定のキャラを書いたらギャグになりかねない。


 作風からして一気に読みたくなるのですが、勿体無いのでじっくり味わって読みました。

 まさに最初から最後まで息をつかせない展開は圧巻でした。


 強いて難を言うなら、汐見が忍足チーム在籍時に失った恋人の描写がほとんど無かったので、彼女の存在感が薄っぺらくなってしまった事。そして、忍足軍団にいた福岡の極道出身である伊志嶺が街を暴れまわってアッサリと射殺されてしまうので、忍足軍団のバケモノぶりに影を差してしまった部分があったかな、と。


 これは個人的な話になりますが、KDPで出した「悪人の系譜」で向精神薬ビジネスの話を書いてから同氏の「ダブル」を読んだのですが、ネタが思いっきりカブっていて「あらら」な気持ちになったのを思い出しました(笑)。


 しかも、書いている間に作中と同じような犯罪(向精神薬の横流しで薬剤師が捕まった)が現実で起こるという、まさに踏んだり蹴ったり。もう少し仕上げるのが早ければ預言者になれたのに。


 話が逸れました。

 前述の通り本作は同氏著の「ダブル」と似ているのですが、そこに二番煎じ感は無く、最後の敵が放つラスボス感はすさまじいです。毎回「こんなの勝てるかよ」という敵を描写で見せる技巧は見習いたい。


 ちなみに下手な作家は「奴は柔道五段だ」「そして剣道八段だ」みたいな経歴を延々と並べてごまかす手法を取ります。ですが、動きの描写で化けの皮が剥がれます(笑)。


 こういうバトル物の作品、好きなんですけどねえ。なんで日本の小説だとアクションっぽい大作が少ないのか。それとも、単に私が知らないだけなのか。


 とにかく面白いです。


 映像化すると金がかかりすぎるので無理っぽいですが(そして、いざ映像化したらすげえ陳腐になりそうな気がしますが 笑)、ダークなアクション映画が好きな人にはぜひ映像を思い浮かべながら読んでもらいたいですね。


 スケールのでかい闘いが見れてなんとも満足です。

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