クズ星兄弟の旅路-2
1
「ニュース等でご存じかと思いますが」
と、男は切り出した。
俺たちの度肝を抜いた巨大な正方形の建物の前には数台のパトカーと、青地に白い2本のストライプが入ったバスが一台、道路を塞ぐように止められ、その手前には「通行止め」の看板と警備と思われる警官が立っていた。
その警官に依頼主の名前を告げると、警官や機動隊員を縫うように銀縁メガネを掛けた痩せぎすの、いかにも神経質そうな男が現れ、「柳田です」と抑揚のない声で名乗った。
柳田について建物の前まで行くと、入り口の前に「大創世界本部」の金文字が浮き彫りされたバカでかい看板が目に飛び込んでくる。
大創世界と言えば、1980年代後半に衆目を集めたカルト教団だ。
教祖自身を生き神と崇め、信者の数と彼ら彼女らから巻き上げた金銭を駆使。芸能界や政治の中枢にまで入り込み勢力を拡大した。
多数の有名芸能人が信者になった事が話題になり、高額な壺だの掛け軸だの水だの、まぁ、そんな怪しげなグッズを洗脳した信者に売りつけて金を巻き上げ、有り金全部を献金させたうえに消費者金融で借金までさせたなんて話もある。
そのせいで莫大な借金を背負って自ら命を絶った元信者や信者の家族も多いらしい。
一時はマスコミや世論の集中攻撃によって解散したかに思われてたが、ひと月ほど前、元信者に襲撃された教祖が死亡したというショッキングなニュースによって再びその名が浮かび上がってきたというわけだ。
柳田が言っているのは、その襲撃事件の件だった。
「あの襲撃事件以降、教団が今も多数の反社会的行動を行っているという告発が何件もあり、昨晩、この本部に家宅捜査を行うことになったのですが――」
中に立てこもった教団幹部は捜査を拒否。
捜査員が強硬突入を試みるも、踏み込んだ直後、意識不明に陥ったのだと、柳田は言った。
「意識不明?」
「先頭に立って建物に踏み込んだ数名が、その場に倒れ込み意識を失ったため、後続の捜査員が彼らを連れて建物から脱出したのです」
「中にいる信者が何かしたとか」
セイの言葉に、柳田は眉根を寄せ「当然その可能性は調べました」と呆れたような声で言う。
「意識を失った捜査員を医師が調べましたが、物理的攻撃はもちろん、毒物やガスなどの痕跡も検出されませんでした」
「本人たちは何て?」俺の問いに柳田は
「化け物に襲われた――と言っています」と答えた。
突如恐ろしい化け物が目の前に現れ、気がついたらここにいたのだ。と、捜査員たちは口を揃えたと言って、柳田は鼻を鳴らした。信じていないのだろう。霊も、俺たちの事も。
しかし、これで俺たちが呼ばれた理由は分かった。化け物退治は役人の仕事ではないし、目の前の男にすれば、マスコミが押し寄せる前に、出来る限り速やかに家宅捜索を終わらせたい。
むろん柳田が幽霊だの霊能者だのを信じていない事はその態度からも明らかだが、今回の一件を知り、俺たちを呼ぶように進言した“誰か”がいたわけだ。柳田では逆らえず、うちのボスと繋がる誰かが。
「話は分かりました。それじゃぁ早速仕事にかかりましょう」
そう言って、俺がセイの腹に一発肘を入れると、セイはウゲッと呻き声をあげた。頭に?マークを浮かべるセイに、顎でついてくるように即すと、俺たちは巨大なガラス張りの入り口に向かう。
「何すんだよ兄貴」
「バカ野郎。仮にも依頼主にガン飛ばす奴があるか」
「だってあいつ――」
言いかけるセイを手で遮る。
「分かってる。だが今は仕事に集中だ」
そう言って俺は、巨大なガラスの前に立ち霊を見えづらくするグラサンを外すと、真っ暗なロビーとその先に伸びる廊下を視る。
「こいつはちょいと、厄介だぜ」
つづく
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