クズ星兄弟の哀愁―1―
長い煙突から立ち上る細い煙を、借り物の黒いスーツに身を包んだセイはぼんやりと見上げていた。最愛の母を失った6才のあの日と同じように。
関係者と神父立ち会いのもと行った簡易的な葬儀のあと、遺族の意向もあってマリアの遺体は日本で火葬後、遺骨だけを故郷に送ることになった。
各種手続きについては彼女が働く「エンジェル」のオーナーだけでなく、歌舞伎町で顔役の一人であるセイと葛生のボスも(金銭面も含め)尽力したらしい。
葬儀を終えて以降、セイは事務所兼住居に戻ることなく、昼夜問わず歌舞伎町を歩き回っていた。
自慢のリーゼントは崩れ、尖った顎や窶れた《やつれた》頬には無精ひげが伸び、殆ど眠っていないため血走っった細い目は殺気に満ちている。まるで
マリアの死は自然死でも病死でもはない。給料を故郷に送るため郵便局へと向かう道すがら、突然バイクに乗った何者かにバックを引ったくられそうになり必死に抵抗。倒れた拍子にそのままバイクに数十メーターも引きずられた挙句、交差点で反対車線に投げ出され、運悪く対向車に轢かれたのだ。
そんな彼女の最後を知ってから、セイは一人犯人を探し、この街を歩き回っている。
別にアテがあるわけではない。
ただ、じっとしていると無力感に狂ってしまいそうになる。
だから、こうして昼も夜もなく、ただひたすら歩き回っているのだ。
マリアの葬儀から約一週間が経った夜だった。突如、セイのスカジャンの裏ポケットがブルブルと振動する。スマホの着信だ。だが、スマホは事務所に置いてきたハズだった。
訝しみながら取り出してみると、それはセイのスマホではなく、相棒の葛生のものだった。着信には「セイ」の名前が表示されている。
おそらく、葬儀のあとセイが一度だけ着替えのため事務所に戻ったあの時だ。
あの日、葛生はソファに腰掛けたまま何も言わなかったが、隙を見て自分のスマホをスカジャンのポケットに忍ばせていたのだろう。
セイは躊躇しつつスマホの通話ボタンを押す。
「……兄貴?」
『仕事だ』
相棒は、ただ一言そう言った。
「俺は……」
『お前が嫌なら俺一人で行く。だが、いいのか?』
その後に続く、葛生の言葉にセイの背中が泡立った。
『今回の相手はマリアだぞ』
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