第11話 王妃様からの手紙

「ウェズリー様、良かったらお茶でもいかがですか?」


 ドレスの採寸や食事に連れて行ってくださったのでお礼がしたかった。


「もうこんな時間だしなぁ……」


「明日はお休みですよ?」



「……少しだけお邪魔しようかな」


「はい、用意しますね」

  



 もうお別れするのかと思うと離れがたくてちょっと強引にウェズリー様を誘ってしまいました。



 馬車から降りて執事にその旨を伝えるとメイド達が動き出した。



 応接室に用意をされたティーセットで、お茶を淹れる。



「ミシェルおかえりなさい。ウェズリー殿下いつもありがとうございます。今日もミシェルに付き合っていただいたようで、申し訳ございません」


 お父様はまだ帰ってきていない様子で、お母様がウェズリー様に挨拶をしに来た。



「夫人、遅くにお邪魔して申し訳ございません。ミシェルと離れ難くて、つい」


「私がお誘いしたの! ウェズリー様は悪くないの」




「あらまぁ、仲が良いのね。ウェズリー殿下もおられることですし、お話ししたいことがありますの。よろしいですか?」



 お母様がそう言われると言うことは何か重要なことがあってのことでしょう。お母様の分のお茶も用意して、席についた。


「王妃様からお手紙をいただいたの」



「お手紙をですか?」



 お母様は申し訳なさそうな顔をしているのが気になりました。




「えぇ。その前にもミシェルが南の国の侯爵様のお屋敷でお世話になっている時に、王妃様からお茶会のお誘いがあったの。はじめは無理をしてでも行っていたのだけど、ミシェルのことを聞かれたり、ジュール殿下の話を聞くたびに疲れて……足が遠のいてしまったの」



 少し言い淀む所が気になりました。



「ジルベールも季節の変わり目で体調を崩すことが多くなって、お断りをすることが増えたのよ」



 ジルベールと言うのは私の弟です。今年十歳になる弟は生まれた時から体が弱かったのです。


 成長するうちに治りますと医師に言われて、健康にはなってきてはいるけど、季節の変わり目に熱を出したりするのでまだまだ目が離せないと言ったところです。



「夫人、失礼ですが手紙の主旨をお聞かせいただいてもよろしいですか?」


 ウェズリー様も気になるようでした。



「お茶会のお誘いなの。ミシェルに婚約者が出来たことを祝わせてほしいっておっしゃるの。あなたたちの婚約の手続きで知られてしまったのね」




「王妃様ですか……」



 最後にあったのはジュール殿下とお別れをしたあの日……

 帰ってきたと言う報告をした方がいいのかもしれません。



「そうなの。ウェズリー殿下も一緒にと言うことなのだけど」


 お母様がウェズリー様を見ると


「王妃様からのお誘いを断ることは出来ませんね。ミシェルどう?」



「そうですね、行きましょう」




******



 ウェズリー様と王妃様に会いに行った。久しぶりの王宮は気が乗らない。



 なんと案内役には三年前にお別れを言ったメイドのアガサさんだった。わざわざ手配をしてくれたのだろう。



「お久しぶりですね、アガサさん」



「ミシェル様! またこうしてご案内出来る日がくるなんて夢のようです」



 ミシェルさんは三年前に渡したブローチをつけてくれていた。ウェズリー様にも挨拶をしていて、アガサさんは昔と変わらなかった。



「私が王宮に来るといつもこのアガサさんが案内をしてくれていたんですよ。また会えるとは思っていなかったので久しぶりの再会です」


 ウェズリー様に説明をした。



「三年振りだといろいろと懐かしいのではないか?」


 ウェズリー様の腕に手をかけて歩き出す。


「まさかウェズリー様と来ることになるなんて思いもしませんでしたね」


「そうだね」



「仲睦まじいようで何よりです」


 アガサさんは涙ぐみながらも笑ってくれた。心配してくれていたんだろうと思うと、心苦しかった。

 ジュール様とお別れした日にアガサさんにもお別れしたから。





「……王妃様はこちらのお部屋でお待ちです」




 案内された部屋はサロンでも応接室でもなく、なんと防音室で楽器などを弾くときに練習をするような部屋だった。




「こちらですか?」


「……そのようでございます」




 南の国の王子殿下を招くには些か不似合いの場所に思えました。


 不安がよぎる……


 ウェズリー様に気づかれないようにしなきゃ。顔に出そうになったので下を向いて堪えた。王妃様は一体何を?





「ウェズリー殿下、ミシェルようこそ」



 中はちゃんとお茶会仕様に飾られていた。ウェズリー様と王妃様に挨拶をして席についた。



「ミシェル、帰ってきたならちゃんと言ってほしかったわ。心配していたのよ」



「ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。王妃様お久しぶりでございます。お元気でいらっしゃいましたか?」



「あら? 心配してくれるの。偉くなったものねぇ。ジュールがダメだったものだから、南の国の王子殿下を捕まえたのかしら?」



 何を言って……!



「貴女のせいでジュールが大変な思いをしていたのに、よくもまぁ平気で帰ってこれたものだわ!」



 大きな声が響き渡るような感覚でした。あぁ……だからここで?

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