第3話 いつかはお別れする運命

「愛しています」



 当然のようにジュール様……お名前を呼ぶのはもうやめましょう! 王子殿下に愛していると言った。


 幼い頃から一緒に過ごした王子殿下を愛するようになるのは自然の流れだった。


 初めてお会いしたのは私が四歳、王子殿下が五歳の時でした。お母様に連れられて知らないところに行く不安から、大好きだったウサギのぬいぐるみを抱いていった。


 お母様に連れられて行った先はお城で、王妃様にお会いした。



 王妃様がミシェルちゃんのお母様のお友達だから緊張しなくて良いのよ。と優しく声をかけてもらった事を覚えています。



「おうひさま、はじめまして、ミシェルといいます」



 スカートを摘んで覚えたてのお辞儀をしたら、よく出来ました。と褒めてくださいました。その時にお会いしたのが王子殿下でした。



 金髪は日に透けてキラキラしていて、深い海のような青い瞳の男の子でした。


 とても優しくて本を読んでもらったり、お菓子を食べたりして過ごした。



 王子殿下の剣術の稽古を見学していた時に、知らない男の子に髪を引っ張られて泣いていたらすぐに助けに来てくれました。



 ミシェルをいじめるな! って少し年上の男の子だったけど、怯まずに助けてくれたの。


 汗を拭いたタオルで涙を拭かれて少し汗の匂いがしたのも今では良い思い出。




 王妃様に仲が良いのは分かるのだけど、いずれお互いに結婚相手が出来るかもしれないの。そうしたら相手の方に失礼だから、それまでのお付き合いよ。と言われました。


 王子殿下はきっと、賢くて美しい人を将来お嫁さんに貰うんだろうなって思いました。



 王子殿下はミシェルと結婚する。と言ってくださいましたが、うちはしがない伯爵家で国にとって重要な家ではありませんからもちろん反対された。



 だから王子殿下のご婚約が決まるまで、そう決めていた。



 いくら愛していても子供同士の初恋の話ですもの。

 大きくなる前にお別れするのが正解だと思っていました。


 大きくなればなるほどお別れは辛くなるから。たった十二歳の私でもこんなに悲しいのに、歳を重ねていくともっともっと辛い。


 思い出が増えれば増えるほど辛くなるんだって知ったの。



 王妃様とお母様はお友達で、私もお茶会には参加させてもらっていたから、もうすぐ王子殿下の婚約者が決まる。って知っていた。


 でも王子殿下の口から聞くまでは、聞かなかった事にして欲しい。と言われました。大人の都合という事でしょう。


 だから知っていて知らないふりをした。でも王子殿下の口から聞いたからには、お別れでした。






 あれから三ヶ月が経ちました。私はお父様の妹の叔母様の家にお世話になっています。



 叔母様は隣国である南の国の侯爵家に嫁がれました。


 侯爵様が我が国に来た時に一目惚れしたんだそうです。



 この南の国は気候が穏やかで、一年を通して温暖で過ごしやすい土地で、フルーツが美味しいので、つい食べ過ぎてしまいます。


 お父様にどこかに行きたいの。と相談すると渋々ですが叔母様のところへ行かせてくださいました。


 侯爵様も娘ができたみたいで歓迎だ。とおっしゃってくださって家族として迎えてくださいました。


 でもずっとお世話になるわけには行きませんので、十五歳になるまで限定と言う約束です。


 十五歳になると学園に通わなければいけませんから、仕方ありませんわね。



 国へ帰るまでの三年間でこの心の傷が癒せれば良いのですけど……。


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