第2話 愛しているって言ったのに

【ジュール視線】



 ミシェルが王宮に来なくなった。バッタリと! 胸にぽっかり穴が空いたような感覚だった。


 幼い頃から僕の遊び相手として王宮に来ていた。母である王妃の友達の娘だった。


 初めて会った時は僕が五歳でミシェルが四歳だった。


 ふわふわのシルバーの髪に、大きなピンクの瞳、白くてふっくらした頬はマシュマロのようでつい触りたくなるような可愛らしさだった。



 エプロンドレスに身を包み、ウサギのぬいぐるみを抱いていた幼いミシェルは恥ずかしがりながらも挨拶をしてくれたっけ。懐かしい思い出だ。



 お菓子を食べてお茶を飲み一緒に遊んだ。時には一緒にお昼寝をする事もあったけど、十歳を超えた頃からは一緒に寝るのは禁止となり怒られた。


 あのふわふわの髪の毛を触りながらする昼寝は気持ちよかったのにな。



 いつか結婚をしなくてはいけない。ミシェルと結婚できれば良いのだけれど、身分的にそれは叶わないらしい。


 ミシェルの家は伯爵家。せめて侯爵家だったら……と思うととても残念でならない。



 結婚なんかしなくてもこのまま、ミシェルと居られれば幸せなのにな……そう思った。



 僕が十三歳になった時、とうとうその日はやってきた。


 そろそろ婚約者を迎えなくてはならない。父である陛下にそう言われた。


 東の国の第三王女との婚約……年齢的にも同じ歳で隣国とは仲良くしていかなくてはいけないから、お互いの国にとってメリットは沢山あるんだそうだ。



 僕には兄が居て、兄は公爵家の令嬢と婚約をしている。二人はとても仲が良い。



 気分転換に庭を散歩していたら兄と婚約者の令嬢にバッタリと会った。



「兄上、ブリジッド嬢、相変わらず仲が良さそうで……」



 ピリッと胸が痛んだ。いつもこう言う場面の時はミシェルが居たから。




「ジュール殿下ご機嫌よう」


「ジュールか、どうした?」



 気遣うように話をしてくれる二人に感謝をしながら僕は言った。




「少し外の空気を吸いたくて、散歩に来ました」


「お、おう。そうか、日光に当たるのは良い事だな、一日一回は外に出た方が良いと思うぞ、なぁブリジッド!」


「そうですよ。ジュール殿下は散歩が好きだったではありませんか! ねぇセルジュ様」



 ミシェルが花が好きだったからよく散歩していたことを思い出した。


 そう言えばあれから外に出てないかもしれない。



「そうでしたね……ミシェルは散歩が好きだったものですから、よく来ていましたね」



「えぇっと……! もうすぐ王女様が留学にこられるのでしたわね。姿絵を見たらとても美しい方でいらしたわ」



「そうだ! 王女がおいでになったら一緒に茶を飲もう。 ブリジッド用意できる?」


「えぇ! 喜んで」


 名案を思い浮かんだかのような顔の兄とブリジット嬢だった。



「お二人のお気遣いに感謝致します、それでは僕はお邪魔でしょうから失礼しますね」


 また城へ戻った。ここにもミシェルとの思い出が多すぎる……。



******



「ねぇ、セルジュ様……ジュール殿下は大丈夫ですか? あんなにお痩せになって」


「自分では気がついてないのかもしれない。聞くところによると、まず朝はお茶だけだ、昼も夜も今までの半分以上残しているんだそうだ。母上が心配しているよ」



「ミシェル様は本当に身を引いてしまわれたのですね。今はどちらに?」



「伯爵に聞いても答えてくださらないそうだよ。母上が人をやらせて聞いても領地にも居ないそうだ」



「そう……」



「ミシェルは素直だから、母上との約束を守ったんだ」



「ジュール殿下に婚約者が出来たから身を引くって……。確かにセルジュ様のお近くにわたくし以外の令嬢がいたら嫌ですもの。しかもお互い愛しあっているんでしょう? みんなが辛いわよ。誰も幸せになれないわ」



 セルジュの腕を組んで悲しそうな顔をするブリジッド。



「辛い立場を理解して、沼にハマる前に別れを告げるなんて中々出来たことではない。たった十二歳の令嬢がな……。この先ミシェルには幸せになってほしい」



「そうね、ジュール殿下も早く傷が癒えると良いけれど」

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