幼馴染のバイト先で「とりあえず生で」と言ったらそれ以来二人の関係がぎこちなくなってしまった
華川とうふ
幼馴染が居酒屋でバイトをはじめるようです
「バイト決まったの。サービスするから絶対に来てね♪」
幼馴染のルカは大学に入ってすぐにそんなことを俺にいった。
大学入学のために一人暮らしを始めた俺は、なんとなく先を越されて寂しいような気がした。
家が隣同士で、親が仲良し。
俺たちは当然のように、いつも一緒だった。
俺の方が一年年上だけれど、小さなころからずっと一緒だった。
思春期で気まずいころもあったけれど、ルカのことは妹のように大切に思ってきた。
いつも甘えん坊で俺の後ろに隠れていたようなルカが俺よりも先にバイトを始めるというのはびっくりした。
俺よりも先に進んでいくなんて……。
驚くと同時に焦りを感じていた。
ずっと、俺のそばにいると思っていたのに、自分でアルバイトを見つけてくるなんて。しかも、俺になんの相談もなかった。
こんな風に俺たちは別々な道に進んでしまうんじゃないかと不安になった。
気が付いたら、彼氏ができていたりして……。
そう思うと、いてもたってもいられなくなった。
そしてアルバイトの初日にルカがバイトをする居酒屋に向かった。
だけれど、俺はまだ酒を飲んだことがなかった。
そもそも一年浪人しているといっても誕生日はまだなので未成年だ。
酒の種類なんてわからない。
だけれど、ルカがバイト先の男にとられるのが嫌だった。
そもそもルカは客観的にみるとかなり可愛らしい。
アイドルみたいに清純なポニーテールに、真っ白な肌、高校時代はテニス部で引き締まった脚がすごく健康的な美少女だ。
ああ、これはおっさんに受けるだろうな。
というか、年上からめちゃくちゃ好かれるタイプの美少女だ。
居酒屋の着物風な制服もとてもにあっていた。
「いっらしゃいませー」
笑顔で元気いっぱいに挨拶するルカ。
そんなに可愛い笑顔をだれにでも向けるなんて無防備だと思った。
勘違いする男は大勢いるだろう。
「何になさいますか?」
メモを片手に注文をとろうと、上目遣いでじっとこちらを見つめてくる姿に思わず惚れそうになる。
頬が少し熱くなって顔が赤くなった気がした。
メニューで顔を隠そうと必死で読んでいるふりをしている間に、ルカは何か喋っていた。
だけれど、さっきとは比べ物にならない小さな声だからよく聞き取れない。
きっと季節のメニューでも説明してくれていたのだろう。
最後は素がでたのか敬語じゃなくなっている。
やっぱりちょっと頼りない妹のようなルカだなと思って安心する。
俺はルカの方をあまり見つめないように、あえてそっけなく言った。
「とりあえず生で」
仕方がないだろう。
まだ酒を飲んだことも、居酒屋も初めての俺は何を注文すればいいのかさっぱりわからなかったのだから。
だけれど、カッコ悪いところなんて見られたくなかった俺は、まるでいつもそう言っているという顔をして、テレビでおなじみのセリフを言ったのだ。
「えっと、生? 本当に生で?」
ルカは今度は、驚いた声をあげて何度も確認する。
何もおかしなことなんて言っていない。
俺は余裕のある大人らしく、ゆっくりと頷いた。
浪人したとはいえ、俺の方が一歳年上なのだ。だてに年は取っていない。
「わかった。じゃあ、バイト終わったら」
なぜだかルカは顔を真っ赤にして言った。
そして、なぜだか俺のところにビールは来ないで、お通しの枝豆だけが運ばれてきた。
ビールを待つこと三時間。
気が付くと俺は眠っていた。
「ねえ、起きて」
ルカに揺り動かされて目覚める。
子供のころから何度も繰り返した心地のいい目覚め方だった。
目の前の姿はバイトの制服から、私服へと着替え済みだった。
紺色の着物風な制服から、清楚な水色のワンピース姿への変身はまぶしかった。
見慣れているはずの妹のようなルカがいつもより大人っぽくみえた。
だけれど、注文したビールは来なかった。
まだまだ、ちょっと天然で頼りないところもあるかけがえのない妹のような存在だ。
ルカが困るとかわいそうなので、ビールが来なかったことはお店の人にはだまっておくことにした。
バイト終わりのルカと俺は一緒に帰る。
「ねえ、コンビニよろう」
ルカは俺の家の近くまできてそんなことをいう。
「そうだな。初バイトのお祝いにハーゲンダッツおごってやる」
「わーい」
ルカはぴょんぴょん飛び跳ねてよろこぶ。
やっぱりまだ子供だ。
女子の方がませているなんていうけれど、それは小学生のときまでくらいの話だ。
コンビニでルカはなぜだか、アイスの他に化粧水とか洗顔料のちっちゃいやつがはいったセットも買おうとしていた。
うちにも石鹸くらいはあるのだが……。
そのことを指摘するとルカは、「女の子にはね、身だしなみにこだわりがあるの!」なんて言っていた。
その化粧水のすぐ近くにはコンドームも売っていることに気が付いた。
傍からいみれば俺たちは
バイト先のチャラいやつと付き合うことになってしまうのなら、いっそと手が伸びかけた。
だけれど、俺にとってルカは大切な存在で、そんなことはとてもじゃないけれどできる気がしなかった。
アイスを食べながら、二人で俺のアパートまで歩く。
「今日は遅くなったから泊ってくるってお母さんにいってある」
ルカは母親とのLINEの画面をみせながらいう。
相変わらず大量のスタンプでにぎやかであると同時に子供っぽい。
「はいはい、分かってるよ」
化粧水の入ったポーチを買っている時点でわかっていた。
きっと、今後もルカはバイトで遅くなったとき俺の家に泊まるのだろう。
それは彼氏ができて実際には俺の家には泊まらなくなっても、ルカとルカの母親の中では俺の家に泊まっていることになることまでも予想ができた。
冷蔵庫にあるもので簡単に夕食をつくって二人で食べる。
そして、夜寝るとき事件は起きたのだ。
「ねえ、生でするといったよね」
俺の布団にもぐりこんできたルカはかすかに震えながら、俺にキスをしたのだった。
幼馴染のバイト先で「とりあえず生で」と言ったらそれ以来二人の関係がぎこちなくなってしまった 華川とうふ @hayakawa5
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