俺の家が爆破された件
面
第1話 プロローグ
自分は何の為に生まれてきたんだろう。
生まれてからそう思う人がどれくらい、いるのだろうか。
最低でも僕は何度も、何度もそう思っている。
他の人はどうなのだろうか。そんなことを思うのだろうか。
もし、思ったとしてそれがまるで蛇にまとわりつかれるように、そのことについて 考え続けることはあるのだろうか。恐らく、ほとんどの人はそうではないだろう。
勉強、遊び、会話、別なことに夢中になる。
そしてその答えを探すことなど頭の中からすっぽり抜けている。
多分、みんなそうなんだろう。
だってそうだろ? そうじゃなきゃ世界に笑顔なんて生まれていない。
僕みたいに笑顔が消えたりする人間なんて存在していないんだから。
きっと、先延ばしなんだ。いや、先延ばしできるんだ。他のみんなはその答えを。
毎日の目まぐるしく感情を揺さぶられる出来事に
他人と話して、からかいあって笑ったり、時々ケンカをして泣いたり、そうじゃなければ怒ったり、不意な芸能人のゴシップを見て驚いたり、世界の自分たちとは遠い世界の悲劇を見て他人事のように哀れんだりしている。
ほら、もう忙しい、僕もこんなことを考えるだけで答えが先延ばししそうになってしまう。
自分が何のために生まれてきたのか。
最低でもそんなことを考えている幼稚園児なんていない。断言できる。
だってそうだろう? そうじゃなきゃ僕のことをこんなに楽しそうに嘲笑う子どもなんて生まれていないはずだ。僕に泥やら石を投げてくる子どもたちなんていうのは。
他人のことを考えろっていう道徳はどこに言ったのやら。
まあ、その子たちからすれば、僕はやっても良い存在ということなんだろう。
僕が、道徳とはほど遠い人間から生まれてきた子どもだから。
道徳が無い人間に道徳を求めないように、道徳がない人間から生まれた存在にも道徳を求めない。
つまり何が言いたいか。
それは、僕は犯罪を犯した両親の息子だから、こんなにも世の中が生きづらいということだ。
日々、他人との関わりが無い僕は笑ったり、ケンカして怒ったり泣いたり、そういった普通の感情を持つことさえも許してはくれない。
誰も僕の心に近づく人はいない。
みな、後ろ指を指して噂をしているか、それかいじめるかのどちらかだ。
給食に虫を入れられても、幼稚園の先生は無視をしている。
僕はその時に、自分は道徳が適応される範囲の人間には入っていないことを知った。
つまり、何をやられてもお前が悪いから仕方が無い。そう言われている気がした。
僕の中には、ただ停滞した感情が頭の中を渦巻いている。
だから僕はずっと考えていた。
自分は何で生まれてきたのだろう、と。
「ねえ、どうしたの?」
「え?」
その日、もう四月近く、だんだん桜がほんのりと桃色になっていく頃であった。
突然、僕は一人の女の子に話しかけられた。
背中まで届く程の金髪のロングで、ピンクのワンピースを着ていて、目はくりくり大きくまるで宝石みたいに輝いていた……多分、僕の女の子は誰でも綺麗に見える補正が入っているのかもしれないけど。
「ん?」
「え? うひゃあ!!!!!」
いつの間にその子は僕の顔付近に近付いてきたので僕は両手を挙げて身を飛び退いてしまった。
心臓が止まるかと思った。こんなに僕に近付いてきた女の子は、いや子ども、人間はいなかった。両親ですらどこか遠慮して近付くことがなかった。だから初めてだったのだ。
こんなに僕に近付いてくるのは。
キョトン、と女の子は目をまん丸にした。
「あ、ごめ」
いきなり叫んで驚かせてしまったのかな、と思ったので僕は謝ろうとした。
「っぷ」
でも、突如、そんな吹き出す声に僕は虚を突かれる。
「あは、あっはっは!!」
女の子は少し身を屈め、目をくしゃっとさせて、大口をあけて笑い始めた。
よっぽどおかしかったのか、やがて腹をかかえて体を反らし始めて初めよりも口を大きく開けて笑っている。
そんなにおもしろかったかな? と思っていると女の子は「はは……うひゃあ……って……あはは……」どうやら僕の驚き方がツボに入ったようだ。
そのまま女の子はしばらく笑い続けていた。僕は呆然とそれを見ている。
こんなに僕に笑顔を見てきたのは初めてだった。
今までの人々がどういう風に僕を見てきたか思い出す。
まるで小蝿(こばえ)や泥だらけの布など、薄汚い物を見るような目。陰口を叩いて後ろ指を指すような目、僕がそうしている人たちの方向を見るとその目はたちまち恐怖の目に変わり目を逸らす。
そして両親は僕のことを哀れむような目を向けている。
ごめんなあ、ごめんなあ、と言いながらそんな目を向けてくる。
誰も僕に笑顔なんて向けてはくれなかった。
この女の子が初めての笑顔だったのだ。
女の子は笑いすぎたのか、目からうっすらと涙が零れていた。
そんなに面白かったんだ。そんなことを思っていた時だった。
「ねえ、君の名前は?」
「え!?」
突然、女の子は僕の名前を聞いてきた。僕はまた驚いてしまった。
女の子は今度は両手を握ってそのまま口に移動させてクスクス笑った。
「そんなに驚くこと? フフフ」
かわいい
初めて僕はそう思った。
この世にこんなに可愛い女の子がいるとは今まで思ったことはなかった。
「じゃあ私から名前を言うね?」
そんなことを思っていたからか、自然と女の子の声で緊張してしまう。
「私の名前は夜比奈 桃子(よるひな ももこ)、良く変わった苗字って言われるんだ。桃子ってよんでね」
そう言って、ニッと歯を見せて目を閉じて笑顔になった。
その笑顔は陽光に照らされ、一層、輝きを増していく。
ドグン
心臓が大きく高鳴った気がした。この鼓動は病気じゃない、でも苦しみと高揚感が体に襲いかかってくる。
「それで? 君の名前は?」
「え……」
桃子ちゃんに聞かれて僕は少し戸惑った。自然と手をもじもじさせてしまう。
桃子ちゃんは、名前を言わないのが不思議に思っているのか、口を少しすぼめて小鳥のように首を捻っている。はてなの疑問符が浮かんでるような顔をしている。
「えっと……僕の……僕の名前は餓鬼道 写鳴(がきどう しゃなく)……です」
「餓鬼道……」
桃子ちゃんはそう口の中で繰り返した。
失敗した、また失敗した。
今まで僕に声をかけてきた人は僕の名前を聞くと、顔を引きつらせた。
餓鬼道、この名前を聞いて一番最初に思い浮かべるのは僕の両親だった。
僕の両親は昔、人を殺した。それも計画的にだ。
父親が浮気をして相手の女性を妊娠させ、子どもを生んだことを聞かされて、父親は母親がいるから一緒にすむことは出来ない、と言ったら、このことを黙る代わりに相手の女性から多大な養育費などを相手から要求されていたことから計画的に殺した。
そんな犯罪者の息子だ。僕の名前を聞くと大人は勿論、僕より上の子ども、または僕と同じくらいの年齢の子どもですらギョッとして僕を避ける。
「餓鬼道……写鳴……うん……うん!!」
てっきりこれまでの人と同じように顔を引きつらせて身を引くかと思ったら、なんと桃子ちゃんは逆に大きく身を乗り出した。頬いっぱいの笑顔だった。
「うん!! すっごいカッコイイ!!!!」
その目は宝石よりも輝いて、太陽よりも暖かい目をしていた。
僕の感情が目まぐるしく変化した瞬間だった。
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