第45話 ダンジョンへ

 朝起きてしっかりと朝食を食べた俺達は、支度を整えて屋敷のエントランス前にいる。昨日の夜に最低でも数日間はダンジョンに潜ることを伝えたからか、屋敷の警備を任せている三人以外は全員が見送りに来てくれたようだ。


「皆さん、数日は留守にしますがよろしくお願いします。何かあったらフルールさんが判断してください」

「かしこまりました」

「リョータお兄ちゃん、気をつけてね」


 俺に駆け寄ってきてそう声をかけてくれたのはルイーズちゃんだ。ルイーズちゃんにはなぜか懐かれたようで、リョータお兄ちゃんなんて嬉しい呼び方をされている。


「ありがとう。ルイーズちゃんには屋敷を頼んだよ」

「うん!」

「ちょっ、ルイーズ! すみません……馴れ馴れしく。リョータさんって呼びなさいって言ってるでしょ!」

「いえ、良いんですよ。俺達と皆さんは雇い主と使用人って関係はありますけど、同じ平民でほぼ対等ですから」


 俺が思い浮かべる一般的な奴隷とその主人だったらもっと明確な上下関係があるのかもしれないけど、この世界の奴隷はそういう存在でもないからな。


「ありがとうございます。お気をつけていってらっしゃいませ」

「もちろんです。じゃあ行ってきます」


 そうして皆に挨拶をして、俺はリラと共にユニーの背中に跨った。魔車は使えないけど王都は広いので、街中もユニーに乗って移動することにしたのだ。


「ユニー、街の出口まで向かってくれる?」

「ヒヒーンッ!」

「うわっ」


 ユニーは久しぶりに俺達を乗せるのが嬉しいのか、前足を少し浮かべて喜びを露わにして、意気揚々と歩き出す。


「ふふっ、ユニーちゃんは可愛いね」

「ちょっとやんちゃなところもあるけど」

「まだ子供なのかな?」

「どうなんだろ。そもそもユニコーンってどのぐらい生きるの?」


 俺のその疑問に、俺の後ろに乗っているリラが首を傾げたのが気配で分かった。


「ユニコーンはあんまり人前に姿を見せないから、その辺はよく分かってないんじゃなかったかなぁ」

「そうなんだ。確かに従魔として飼ったりしない限り分からないよな」

「うん。でもユニーちゃんは若い気がするよ。だって体毛がふわふわで柔らかいし。動物って歳を重ねるほどに硬くなることが多いから」


 へぇ〜そうなんだ。確かにそう言われるとユニーの体はふわふわで気持ちが良い。


 それからもリラとそんな話をしながらユニーに揺られて街中を進んでいると、一時間ほどで街の外に出ることができた。ここからはさらに十キロぐらいらしいから、ユニーに乗っていくのなら十分ぐらいで着くかな。


「ユニー、向こうの方向にまっすぐ進んで」

「ヒヒンッ」

「リョータ、途中でダンジョンから出てくる魔物の見張りをしてる騎士さん達がいると思うよ」

「そっか。じゃあユニー、騎士達がいたらその手前で止まってな」


 俺のその言葉に首を縦に動かして肯定を示したユニーは、街から出てのびのびと走れるからか、さっきまでよりもかなり早いスピードで草原を駆け始めた。森の中も障害物を器用に避けて、スピードをほとんど落とさずに進んでいく。


 そうして五分ほど走ると、これ以上進めないようにと塞いでいるのか、木々を渡すように縛り付けられた縄が現れた。その縄の前にユニーが止まって周囲を見回すと、遠くから慌てた様子で騎士が走ってくる。


「お前達は誰だ? ここから先は立ち入り禁止だぞー」

「こんにちは。俺達はこの先のダンジョンを潰す依頼を受けた冒険者です。これが冒険者ギルドカードで、こっちが依頼書です」


 駆け寄ってきた騎士は俺のその言葉を聞いて訝しげな表情を浮かべたけど、依頼票とギルドカードを見てすぐに態度を改めた。


「え、Aランク!? ……の方でしたか。お止めしてしまって申し訳ないです。どうぞお入りください」

「ありがとうございます」

「中にも騎士がいますので、私が入り口までご案内いたします」

「本当ですか? それはありがたいです」


 騎士の案内に従って立入禁止区域に入ると、その奥では騎士達が魔物と戦っていた。見渡せる限りだけでも何体もの魔物がいるみたいだ。やっぱりダンジョンからたくさん排出されるんだな。


「谷底から上がって来られる場所があそこでして、あそこで待ち伏せして魔物を倒しています」

「では私達はあそこから降りないといけないんですね」

「そうなりますが……谷底にはたくさんの魔物がいます」


 上に上がってきてる魔物がこれほどいるのなら、下は魔物がひしめいているのだろう。これは並大抵の冒険者や討伐隊じゃ無理なことは明白だ。


「すみません。今ここにいる魔物は私が火魔法で牽制するので、その間に騎士の皆さんは下がってもらえますか。最低でも私達から十メートルは離れてください」


 リラが案内してくれた騎士さんにそう告げると、近くに人がいると使いにくいスキルを使うと分かってくれたようで、すぐに戦っている騎士達に伝達してくれた。


 そして騎士達が下がって俺の魅了の範囲内に誰もいなくなったところで、リラがスキル封じを解除する。


「動きを止めろ!」


 俺の言葉によって、目に入る全ての魔物がピタッと動きを止めた。そのあり得ない光景に、俺達から離れたところにいる騎士達から驚きの声が上がるのが聞こえてくる。


「ファイヤーボール」


 それから約十秒ほどで、リラのファイヤーボールによって魔物は全て地に伏した。俺とリラのコンビって……魔物からしたら本当に凶悪だよな。


「ではダンジョンに行ってきます! 私達が潜っている間にもダンジョンから魔物は出てくると思うので、よろしくお願いします!」

「あ、ああ、分かりました。ダンジョンをよろしくお願いします!」


 騎士達に向けてリラが発したその言葉に、呆然としていた騎士がなんとか言葉を返してくれて、俺達は大勢の騎士達に驚愕の面持ちのまま見送られて谷底に向かった。


「ふふっ、凄く驚いてたね」

「やっぱり俺達って普通じゃないよな」

「普通では全くないね。魔物の動きを止められるとか、あり得ない力だよ。でも騎士達にもあんなに驚かれるんだなってちょっと楽しかったかも」


 リラはそう言って楽しそうに笑っている。確かに騎士ってこの国の武の頂点ってイメージがあるし、そういう人達にも驚かれるほどのスキルだと思うと少し気分が良い。

 あり得ないほどに大きなデメリットを受け入れてるんだから、たまにはこうして優越感に浸れないとやってられないよな。


「じゃあダンジョンをさっさとクリアして、もっと驚かせようか」

「そうだね!」


 そうして俺達は気負いなく、ユニーの背に乗ってダンジョンの入り口に向かった。

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