第44話 買い出し
リラも料理ができなかったらダンジョン内での生活は絶望だ。そう思って恐る恐るリラに問いかけた。
「リラは料理って、できる……?」
「人並みにはできるよ。孤児院で料理は当番制だったからね。でも今は宿暮らしで食事を出してもらえるから、最近はやってないかな」
――良かったぁ。ダンジョン内で食べ物とは思えない食事をしなければいけない可能性はかなり低くなった。
「ダンジョン内での料理って、リラに任せても良い?」
「もちろん良いよ。ふふっ、リョータは料理が苦手なんだ」
リラは俺の弱点を見つけたのが嬉しかったのか、イタズラな笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでくる。
「ごめん……ちょっと苦手かも。いや、結構かも」
「一応参考程度に、どんな料理ができるの?」
「えっと……肉を塩で焼こうとして黒焦げになったやつとか。生焼けで次の日にお腹を壊したやつとか。卵焼きを作ろうとしたら卵カスみたいになったやつとか……?」
俺が今まで作ってきた美味しくない、いや不味い料理を思い出して列挙していくと、リラの表情が引き攣っていった。
「リョータ、絶対にリョータは料理禁止ね。ダンジョン内で食材は大切だから」
「それはもちろん。絶対に触らないようにするから大丈夫!」
「それはそれでどうなのって思うけど、リョータの場合は正解だね」
そんな話をしていたら市場に着いたようで、魔車は減速して停まった。スキル封じをかけてもらって魔車から降りると、そこにはまるでお祭りの日のような賑やかな通りがある。
「こんなに人がいるんだ……」
「さすが王都だね」
「リラさん、リョータさん、こちらでよろしかったでしょうか? 冒険者ギルドから近く、その中でも一番栄えている市場を選んだのですが」
「もちろんです。サミーさん、ありがとうございます」
たくさんのお店がある市場はいつ来てもワクワクするな。今回はアイテムバッグがあってお金も数えきれないほどにあるので、欲しいものは全て買えるというのも気分を上げる。
今までは欲しくても自重してばっかりだったから、どうせなら買い物を楽しもう。
「リラ、あの辺のお店で布を買うのが良いんじゃない?」
店先にたくさんの種類の布が広げられているお店を指差すと、リラはそちらに視線を向けて頷いてくれた。
「まずはあのお店に行ってみようか。サミーさんは大通りだけで良いので私達に着いてきてもらえますか? たまに魔車に戻って休憩したいので」
「かしこまりました。お任せください」
サミーさんは三十分に一回、スキル封じをかけに戻ってくるというのを正確に理解してくれたようで、意味ありげな笑みを浮かべて頷いてくれた。
実は使用人の皆には俺のスキルのことは伝えてあるのだ。まあ一緒に住むんだから当然だよな。
スキルのことを伝えられた皆は驚いてはいたけど、気味悪がられたりとかそういうことは一切なかった。なんてことはないように説明したけど、皆の反応に内心でホッとしていたのは内緒だ。
「じゃあ行ってきます」
そうして向かったお店には、若い女性の店員さんがいて俺達の対応をしてくれた。
「いらっしゃいませ〜。何をお探しですか?」
「ダンジョン内で野営をする時に使う敷布と、いくつかの毛布が欲しいんですけど」
「かしこまりました。まずは敷布ですが……こちらにある三つがおすすめです。特にこちらは少し高いですが皆さんに選ばれています」
そう言って女性が示したのは、茶色で毛足が長い布だった。いや、布というよりも毛皮だ。触った感じは少し毛が硬いけど直接肌に触れないなら気になるほどじゃない。
「かなり大きい毛皮なんですね」
「はい。ビッグベアの中でも茶色の変異種の毛皮です。基本的にはダンジョン内にしかいない魔物なので価格は高いですが、とても暖かくて撥水性も良いのでおすすめですよ」
リラは女性の説明を聞いてからも毛皮をよく観察し、最終的にはこれを買うことにしたようだ。
「リョータもこれで良い?」
「もちろん。リラに任せるよ」
俺は毛皮の良し悪しなんて全然分からないからな……リラに任せた方が確実なのだ。俺も頑張って学んではいるけど、やっぱりずっとこの世界で生きてきた人達にはいろんな面で劣る。
それからは毛布を二つずつ購入し、さらにユニーとスラくんにも体の大きさにあった毛布を買って、布を売っているお店を後にした。アイテムバッグの存在は知らせると狙われるので、荷物は手に持って魔車に向かう。
「たくさん買われたのですね」
「はい。ユニーとスラくんの分もありますから。ユニー、これはお前のだよ」
俺がそう声をかけると、ユニーは嬉しそうに声を上げて顔を擦り付けてきた。
「ははっ、くすぐったいって。嬉しい?」
「ヒヒンッ」
「お前は可愛いなぁ。ダンジョン内でもよろしくな」
「ヒヒーンッ」
ダンジョンは狭いからもちろん魔車は入らないけど、ユニーだけなら問題なく中に入れる狭さらしいので、今回のダンジョン攻略はユニーとスラくんも一緒なのだ。
ユニーはそれが嬉しいようで、その話を聞いてからずっと上機嫌に尻尾を揺らしている。
「リョータ、布をこっちに渡して」
「了解」
そうして布をアイテムバッグに仕舞った俺達は、それからも同じように買い物を進めた。
何かを買ったら魔車に戻って、アイテムバッグに仕舞ってからまたお店に向かう。それを繰り返すこと数回、必要なものは全て買い揃えることができた。
数週間はダンジョン内で生きていけるほどの食料品に、飲料水を確保するための魔道具。そして燃料の魔石も大量に購入した。
さらに武器屋や防具屋に赴き、俺達の装備も新調した。お金はたくさんあるので、お金を払って安全性を高められるのなら躊躇う理由はないのだ。
「これで準備は終わりかな?」
「うん、完璧だね。明日にはダンジョンに行けるよ」
明日からはしばらくダンジョン生活か……絶対無事に戻ってこよう。
「今日は少し早いけど屋敷に戻ろうか」
「そうだね。明日に備えて休みたいし。サミーさん、屋敷に向かってもらえますか?」
「かしこまりました」
そうして屋敷に戻った俺達は、早めに寝る準備をしてベッドに入った。明日からのダンジョン生活に緊張して寝られないかと思ったけど、ふかふかで暖かいベッドの中はかなり心地よく、気づいたら眠りに落ちていた。
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