第38話 奴隷商
食事を終えた俺達はまた魔車で移動して、今度は奴隷商にやってきた。奴隷商は国からの認可がなければやってはいけない職業で、俺達が来たのはさっきの文官さんから教えてもらった信頼できる奴隷商だ。
魔車を降りて店内に入ると、すぐに従業員の男性が俺達を迎え入れてくれる。
「いらっしゃいませ。こちらは奴隷商ですがお間違えはないでしょうか?」
「はい。奴隷を雇いたいと思ってきました」
「かしこまりました。では奥の応接室にご案内しますので、こちらへお願いいたします」
そうして案内された部屋は、結構広くて居心地の良い雰囲気だった。その部屋で数分待っていると、最初の従業員に連れられて壮年の男性がやって来る。
「お待たせいたしました。私はこちらの奴隷商で売買契約を任されております、カドと申します」
「私はリラと申します」
「私はリョータです」
「リラ様とリョータ様ですね。本日はどのような奴隷を雇いたいとお考えでしょうか?」
カドさんは冊子のようなものを広げながら俺達にそう問いかけた。その冊子の中をチラッと見てみると、このお店にいる奴隷の一覧が載っているらしい。
「実は大きな屋敷を得る機会がありまして、しかし私達は冒険者で屋敷の管理ができないのです。そこで屋敷の警備を三名、庭師を二名、そして屋敷の中の管理をしてくれる人を五名ほど雇いたいと考えています。さらに魔車を引く御者を一名と、料理人も一名雇いたいです」
事前に決めていた人数をリラが伝えると、カドさんは冊子をパラパラとめくって、俺達の希望に沿う人物を後ろに控えている人に伝えている。
「まずは屋敷の中を管理する者から候補者を連れてきますので、しばらくお待ちください」
「分かりました。よろしくお願いします」
それから少し待っていると、部屋には十名ほどの男女が入ってきた。中には子供もいるみたいだ。ただ奴隷とは名ばかりというのがここにも現れていて、現れた人達は鎖で繋がれているということはなく、格好も小綺麗だった。
「端から自己紹介を」
「はい。私は……」
そこから自己紹介を聞くと、皆がいろんな理由で借金奴隷になっていることが分かる。ギャンブルにハマって破産してたり、詐欺師に騙されていたり、仕事先で高級品を割ってしまい弁償を求められていたり。
それから子供がいるのは、家族全員で借金奴隷になったからだった。父親が病気になり母親は元々足が悪く、父親は高額な治療費を払って何とか治ったけれど、治る頃には借金が膨れ上がっていたそうだ。
なのでこの部屋にいる十名のうち四人は家族のようだった。この家族はできれば一緒に雇ってあげたいな……
「リラは誰が良いと思う?」
小声でそう問いかけると、リラは四人家族と仕事先で高級品を割ってしまったという人を選んだ。
「リョータは?」
「俺も同じかな。家族は一緒に雇ったら恩を感じて精一杯働いてくれそうだし、もう一人の人は前の雇い主が悪かったんだと思うから」
俺のその言葉にリラが頷いて、その五人を雇うことをカドさんに伝えた。すると家族の方の父親と母親が感激の面持ちで頭を下げる。
「子供たちも一緒に雇ってくださって、ありがとうございます……!」
「精一杯働かせていただきます!」
「期待していますね。お子さん達はできることからで良いですから」
「本当にありがとうございます……!」
子供達は小さい子の方でも十歳は超えてるだろうから、すでにいろいろな仕事ができるだろう。数年すれば全く仕事への不安は無くなるはずだ。
「ではまずはこの五名の契約をしてしまいましょう。契約料と月々の雇用料はこちらですが、問題ないでしょうか?」
「はい、大丈夫です。契約をお願いします」
奴隷との契約は使役スキルのような強いものがあるわけではなく、そこまで強制力のない調教スキルみたいなもので契約するらしい。一応は主人に逆らわないように、逃げないようにと暗示のようなものがかけられているけれど、破ることもできるそうだ。
ただ借金奴隷が主人から逃げると犯罪奴隷に落とされることになるので、そもそも逃げようと思う人がいないらしいけど。まあ待遇も保証されてるんだし、逃げるメリットがないよな。借金奴隷って借金を抱えた人の救済制度みたいな感じだろうし。
そんな弱い契約だからこそ、犯罪奴隷は物理的に拘束されていて、一般人が雇うことはできないのだそうだ。
「五人はこちらに来るんだ」
「かしこまりました」
そうして五人と俺達との契約は数分で終わり、選ばれなかった他の人達は部屋から出ていった。
そしてそれからは同じような流れで、必要な使用人を全員雇うことができた。部屋の中は俺達が雇った人達でいっぱいになっている。これは魔車に乗り切らないし、皆には歩いてもらうしかないな。
「リラ様、リョータ様、本日はたくさんのご契約をありがとうございます」
カドさんはたくさんの契約料が入ってホクホク顔だ。俺とリラはそんなカドさんに苦笑しつつ、最後にもう一度頭を下げた。
「こちらこそ、良い人材を紹介していただきありがとうございます」
「また人材が必要となりましたら、ぜひうちへお越しください」
「はい。その時には寄らせていただきます」
俺達はカドさんに見送られ、総勢十二名の雇った借金奴隷、いや使用人の皆と共に奴隷商を後にした。
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