第21話 金髪の死神
私は、寝ている?体が動かない、音がしない、何も見えない。
頭が痛い。
記憶が呼び覚まされる。これは何?走馬灯?
『はぁ〜、ハウル様カッコいい』
ああ、これは最近だな。ルナが来てからだ。
『キムタクめっちゃハマってるじゃんっっ』
あの日はハウルの動く城をみんなで観ていた。
『ねぇ、ナンパから救うごっこしようよ!私がソフィーね!』
『えっ、ハウル役どうするんですか?!』
私のくだらない提案にルナがツッコミつつもノってくれる。
『俺がやろっか?』
『は?おっさん分かってる?あんたおっさんだからね?キムタクはたとえあんたと同じ年になろうともおっさんにはならないし永久にカッコイイの。分かる?』
あ?やんのか?あ?
『キムタクにもこいつにも余裕で勝ってるし』
おっさんがテレビの画面を指しながらテキトーなこと言う。いい加減にしとけ?
『ああ?お前ハウル様のこと言ってんの?ああ?ハウル様をこいつ呼びするとはどういうことだ、あ?この金髪青目のスーパー魔法使いに挑むのかお前、あ?それとも何?お前は魔法で姿変えてんのか?逆ハウルで髪に色がつくのか?ハウル様はビフォー、アフターどっちも完璧だけどお前はビフォーがこれだからな』
ほーらルナがキレたぁ!!
『金髪がそんなにいいのかよっ』
本題とづれたことをついてくる。苦し紛れだな。
『あんただってセーラームーン好きなくせにっっ!!』
『お前だってバイオレットちゃんが好きなくせにっっ!!』
『二人とも知らねぇよっっっ!!!!』
完璧なノリツッコミのリズムで笑ってしまう。ひと段落したところでさらに話題を振ってみる。
『じゃ、誰が好きなの?アニメじゃなくても芸能人とかさ』
『…グレース・ケリー』
いきなり声小さくなったな。
『?誰それ』
ルナは知らないのか。説明してあげよう。ついでに今度裏窓を観せよう。
『ハリウッドの…』
あ、やべぇ、せっかく収まった笑いがぶり返して止まらない。
『え、なになに?』
『ブロンド美人』
俯いたおっさんをよそに2人で大爆笑する。ひと段落(テイク2)したところで今度はルナが口を開く。
『もーもっと観よ。おっさんも一緒に話したいんでしょ?』
『そんな暇じゃないっ!!』
別に大した思い出でもない、いや、とてつもなくくだらないやりとりなのだが、この時大切な何かが変わった気がする。ルナのおっさんを見る目が変わった気がする。言い方があれだが、純粋にただのおっさんとして見ていた気がする。死神で、
どうかそのままでいて、寅を逃さないで。
夏が少し過ぎて秋に片足を突っ込んだ頃の暑さ。お祭り特有の暑さ。これは高校の記憶。
『今日お客さんいっぱい来るといいなー』
『頑張ったもんな』
その日の文化祭は盛り上がった。お客さんはいっぱい来た。
良い人も悪い人も。
『ちょっと先生!!何ぼーっとしてんのっ、焼き鳥焦げるよ!?』
『ああ、ごめん。昔の…知り合いがいて。少し話して来てもいいか?』
そう話しながらも目線は『昔の知り合い』を追っていた。よっぽど会いたいんだと思った。
『えー。…分かった、やっとく』
『すまん』
凌ちゃん先生は乱暴に焼き鳥棒を置き、人ごみの中に消えていった。
生きて帰って来ることはなかった。
『凌ちゃん先生?』
倒れている人、本当に凌ちゃん先生なのか確かめないと。絶対違う、凌ちゃん先生なわけがない。
ドンっ。
頭を殴られて。先生の横に倒れる。
それからずっと、ずっと、忘れてた。
先生が私の中で特別になったのはこの頃。
『うっ、ぇっ、ひくっ』
猫かぶって生活するのは別に辛くなかった。クラスのみんなどこか少しづつ我慢して生きているんだと思っていたから。ミーハーな女子高生が私。だけどそんな風に過ごしてたらいざという時誰にも話せなかった。きっとみんな聞いてくれない。浮いちゃう。放課後の教室で一人、泣くしかない。
『大丈夫か?』
周りの大人全員が私を奇妙な目で見ても先生だけが信じてくれた。
『ひくっ、りょっ凌ちゃん先生、父さんがっ、殺されちゃった…』
『帰ったらジュラシックパーク観に行こう!!』
息が詰まりそうだ。目の周りが熱くなる。まだ父が生きてる。
『分かった、分かった。彼氏と行かないのか?』
大きなカバンを背負って、意地悪な笑顔を浮かべる。
『むっ。…いいもん。私にはアニメがあるから』
『はぁ、これだからヲタクは』
『何よぅ、この都市伝説ヲタクっ!!』
『父さんの場合は仕事だ』
『いーなー、趣味が仕事とかさっ。ずるいー。はぁ、漫画描きたいな、特殊メイクやりたいな、スピルバーグの弟子になりたいな』
『多いな』
『でも…最近は、ね、学校の先生に、なりたいの』
『いやスピルバーグの弟子より非現実的っ』
『ひどっ!』
『今は、の話だ。勉強しろ。色々なことを知りたがれ、考えろ。真実を見つけろ』
『私は知識に貪欲だよ。だって父さんの娘だもん』
手を振って、ドアが閉じて、父は消えた。連絡をよこさないのも、予定より帰りが遅れるのも当たり前だった。だけど今回は嫌な予感がしていた。
だからが手紙が届いてすごく安心した。急いで封を切ったと同時に母が受話器を取るのが聞こえた。
『
母の泣き叫ぶ声が聞こえた。
あの手紙は今どこにある?
名前、肝心の名前はなに?
真実を知らないと。
『僕は凌太郎だ。よろしくなぁ!!』
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