眠気

ヤヤヤ

第1話

 ニキビ跡が、未だに消えない。

 小鼻の右脇にできたそれは、じわじわと丸い輪郭をつくり始め、小さなシミになりつつあった。

 鏡を見ながら、その赤黒くなった部位を人差し指で撫で回してみた。しかしそうしたところで何かが変わるはずもなく、逆に赤みが増したように感じる。

 裕子は鏡を見るのをやめ、棚の中からシャンプーを取り出した。最近近くのドラッグストアで購入した新しい薬用シャンプーだ。ボトルには小さめではあるがはっきりと「薬用」と表記されており、それだけで他の商品とはまるで別物のように思えた。もちろんそれなりの値段はしたが、一度くらい試してみる価値はあるはずだ、と購入を即決し、今日までに二度、そのシャンプーを使用している。

 効果の程は、今のところ残念ながら裕子の期待を上回ってはいない。もっと正確に言えば、他のシャンプーと明確な違いがわかる程、充分な効き目は感じられない、といったところか。

 軽く蛇口を捻る。シャワーヘッドからひんやりとした冷たい水が流れ出し、裕子の足元を濡らしてゆく。

 裕子は全裸で突っ立ったままシャワー水が適温になるのを待った。この家では始め一分ほど待機しないとまともなシャワー水を浴びることができない。

 ぼんやりと足元を流れる水を眺めていると、ふともう一度鏡に映る自分の顔を確かめたくなった。それはある種の衝動からだったのだが、裕子がそうせずにいられなくなったのは、よく考えてみれば至極当然のことだった。

 翌日、裕子は三十代に別れを告げる。

 目の前の鏡は、しかし裕子に何の遠慮もせずに、ニキビ跡が確実に濃い黒色に変化しつつあることを、しっかりと裕子に伝えていた。

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眠気 ヤヤヤ @kojjji

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