第2章 仲間と挑む新たなダンジョン

第18話 最強の探索者たちに喧嘩を売るために

 畳が敷かれた和室の中央に、俺と天神、そして御堂が座っている。

 ここはどこかといえば、何と天神の家である。

 これぞ和風のお屋敷といった感じの家屋、そして剣術の道場まで敷地内に立っているという大豪邸だ。


「とっとぉ……とっとぉ……とっとぉ……。お茶をお持ちしました!」


 湯呑が載ったお盆を慎重に持って、天神の妹――愛莉が部屋に入ってくる。

 救出から1週間。

 特に異常が見られなかったのですぐに退院し、もうすっかり元気になったようだ。

 意外とメンタルが強い。姉とそっくりだな。


「はい、陽哉お兄ちゃん」

「ありがとう」

「はい、有栖お姉ちゃん」

「ありがと~。愛莉ちゃんは偉いね~」

「えへへ。はい、お姉ちゃんのお茶」

「うん。ありがとう、愛莉」


 ひとりひとりにお茶を手渡すと、愛莉は出口まで行って一礼した。


「ごゆっくり~」


 ちっちゃな女将さんみたいだ。

 かわらしい。


「それで御堂さん。今日はどういう理由で集合をかけたの?」


 お茶をひとくち飲んでから天神が尋ねる。

 そう。今日こうして俺たちが集まったのは、御堂の号令によるものなのだ。

 そして天神が会場を提供した。

 俺は……今のところ、ただ来ただけだ。


「まあ用件はいろいろあるんだけど……。ひとまず、その御堂さんって呼び方はやめない? 滝くんの御堂も。何か仰々しい苗字に思えて、個人的には下の名前で呼んでほしいかなーって」

「まあ、それなら構わないけれど。有栖さんと呼ぶことにするわ」

「うん。滝くんもね」

「有栖、な。分かった」

「どうせなら、みんな下の名前にしてしまいましょう。私のことも渚と呼んでちょうだい」

「じゃあ俺も陽哉で」


 呼び方が改まり、何だか親密さがちょっと増したような気がする。

 少し場の雰囲気が和んだところで、御堂……じゃなくて有栖が本題を切り出した。


「ここからは大事な話。これから私たちは《新世界の宝物ザ・ニューワールド》を目指して戦っていく。それにあたってギルドを組んだわけだから、ギルド名とか活動方針とかいろいろ決めないと」

「ギルド名か……」

「うん。《新世界の宝物ザ・ニューワールド》に近づけば近づくほど、ギルド名も多くの人の目に触れるようになっていく。だからちゃんと考えて付けないといけないよ」

「私たちの目的がはっきり分かるものが良いわね」

「そうだな」


 3人そろって、腕を組み頭をフル回転させる。

 俺たちの目的。

 それを達成するために必要なこと。

 これを上手く組み合わせなければいけない。


「代表的なギルド名だと……やはり頭に浮かぶのは五天と称される5つのギルドよね」

「渚ちゃんの言う通り。最強の5つのギルドである五天の『黒竜師団』、『ゲリエ』、『黄金の新風』、『アイス・ライヒ』。そして唯一、超極大ダンジョンを攻略している……」

「『東方旅団』ね」

「ああ、俺の父さんのギルドな」

「そう。あなたのお父さんのギ……」

「「は?」」


 渚と有栖の声が重なる。

 なるべく隠すように言われてたんだけど、この2人にはむしろ言っておくべきだろう。

 これから共に戦っていくのだから。


「『東方旅団』のリーダー、咲井玄優が俺の父さん。それで副リーダーの咲井紅羽が俺の母さんだ」

「「はああああああ!!!!????」」

「といっても、両親は俺が生まれてすぐに探索者として旅立ったんで、ばあちゃんが育ててくれたんだけどな」

「いやいやいやいや! 衝撃の事実すぎるんだけど!?」

「陽哉くん……まさかそんなすごいご両親をお持ちだったなんて……」


 渚と有栖は、目を見開いて呆気にとられた様子で座っている。

 正直、俺としては父さんがどうとか母さんがどうとかあんまり関係ないんだよな。

 もちろん尊敬はしてる。

 超極大ダンジョンを『東方旅団』が攻略したと聞いた時は、何とも言えない興奮を感じた。

 でも俺だって《新世界の宝物ザ・ニューワールド》を目指すと決めた以上、ただすごいと感動するだけじゃ終われない。

 むしろ、同じ宝物を目指すライバルと考える必要がある。

 例え今は、まるで足下にも及ばなかったとしてもだ。


「ギルド名を決めるんだろ。俺たちの目的は《新世界の宝物ザ・ニューワールド》を手に入れて、この新世界を変えること。そしてそのためには、今ちょうど名前が挙がった五天をはじめとする猛者たちを超えなくちゃいけない。これを盛り込めばいいんだ」

「そうだね。それに私たちはみんな、ダンジョンがある世界に生まれた新世代。これも特徴だよ」

「なかなか要素が多いけれど、まとめると……」


 渚が思いついたギルドの名前を口に出す。


「『覇天の新星』」


 五天を覇し、新世界を変える新世代の星となる。

 うん。良いギルド名だ。


「良いと思う」

「私も賛成だな~」

「じゃあ決まりね。私たちのギルド名は……」

「「「『覇天の新星』」」」


 3人の声がそろった。

 父さん、母さん。

 絶対にたどり着いて、そして超えてみせる。

 俺は静かに心の中で誓った。


「次は活動方針か」


 俺が次の話題に移ろうとしたその瞬間。

 ズガガァァンという激しい音と衝撃が襲い、建物が大きく揺れた。


「地震か!?」

「陽哉! あれ!」


 有栖が窓の外を指差す。

 その先にまばゆい光を放つ大きな光の球があった。

 何か異常事態が起きている。


「行くぞ!」

「ええ!」

「もちろん!」


 渚は日本刀を、有栖は大鎌を手にとる。

 そして何も持たない俺を先頭に、新たに『覇天の新星』と名付けられたギルドの3人は駆けて行くのだった。

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