膝枕
高校に入学してもうすぐ一か月。明日からゴールデンウィークでお休みになるため、朝からとてもだるい。
「ねぇ、紫音。私思うんだ。どうせ明日から休みなら、今日から休んでも誰も文句なんて言わないんじゃないかって」
「んなわけねーべ!馬鹿なこと言ってねーで、はよ飯食ってけろ!このままだと遅刻すっがら!」
訛りながらも紫音に怒られた私は、仕方なく食べるスピードを少しだけ上げることにした。
食べ終えた私は、紫音に髪を整えてもらいながら制服に着替える。
「白玖乃の髪はサラサラでいいね。整えやすいから楽だよ」
「紫音もサラサラじゃん。そんな大差ないでしょ」
そんなことを話しながら準備を終えた私たちは、カバンを持って部屋を後にし、アパートを出た。
学校に到着して教室に入ると、一花と雅が話していたので、私たちも二人のもとへ向かう。
「おはよ、二人とも。今日も早いね」
「おはよ白玖乃。それと、私たちが早いんじゃなくて、君たちがいつもギリギリなだけだからね?」
「ちょっと待って一花。私たちがギリギリなのは白玖乃のせいだから!」
「えー、そんなことなくない?」
「いやいや、今朝も明日から休みだから今日休むとか言い出したせいで遅くなったんでしょうが!」
「まぁまぁ、紫音ちゃん。少しお着きなさい?そんなに朝から元気だと、このあと疲れるわよ?」
そう言って雅は、少し興奮気味の紫音を落ち着かせようとする。さすがに私も、迷惑をかけたことに多少の罪悪感はあるので、謝ることにする。
「ごめんね、紫音。明日からはもう少し頑張るから」
「もういいよ。私も怒ってごめんね。それと、頑張ってくれるのは嬉しいけど、明日からは休みだから、ゆっくり寝てていいよ」
無事に紫音に許してもらい、意気込んで明日から頑張ると言ったが、明日からは休みのため意味がなかった。
なので、この意気込みはゴールデンウィーク明けから発揮していこうと心に誓った。
午前の授業が終わり昼休み、各々ご飯も食べ終わってしゃべっていた時、私はトイレに行きたくなったので、みんなに一言声をかけてからトイレに行く。
トイレから帰ってくると、紫音と目があったので、なんとなく彼女のことを見ていると、彼女から手招きされた。
(どうしたんだろ?)
意味はよく分からなかったが、どうやら紫音に呼ばれているようだったので彼女のもとへ行く。
彼女の目の前まで行くと、そこで立ち止まり彼女のことを見る。紫音は今、椅子に座っているため、私が見下ろす形だ。
すると、突然紫音に手首を掴まれて引き寄せられると、そのまま私は彼女の膝の上に座らせられた。
そして、そのまま腰に腕を回されて固定され、後ろから抱きしめられる形になる。
「……紫音、突然どうしたの?びっくりしたじゃん」
「んー、なんとなく。白玖乃見てたらそんな気分だった」
「そっか」
こんなことをされれば、普通はドキドキするものなのだろうが、紫音の距離感は元々バグっていたし、最近では私も慣れてきていたため、特にドキドキするということはなかった。
ただ、他の二人は当然こんな私たちを見たことはなかったため、唖然としていた。
「…え、二人とも何してるの?」
「さぁ?紫音が気分だったからこうしているらしいけど、私自身もよくわからない」
「違うわよ白玖乃ちゃん。確かに突然抱きしめた紫音ちゃんには驚いたけど、普通に受け入れている白玖乃ちゃんにも驚いているのよ?」
「あぁー、なるほど。最近ではこういうのが普通になりすぎてたけど、確かに二人の前でこういうのはおかしいか」
「いや、場所とか私たちの前だからって話ではないんだけど……てか、白玖乃と紫音さんってそういう関係なの?」
「いや、違うけど?」
やはり私たちの距離感は、一般的に見たらだいぶ近いようだ。私も最初は紫音の距離感に戸惑っていたが、一緒に生活していくうちにそれらが普通になってしまった。
それに、紫音からこういうことをされるのは嫌ではないし、むしろどこか安心している自分がいる。
ただ、付き合っているのかと言われれば、明確にそうだと言えないのが現状である。
(私は紫音と付き合いたいのだろうか。紫音のことは好きだし、一緒に居たいとは思うけど、これが友愛なのか恋愛感情なのかは分からないな……ま、なるようになるでしょ)
その後もお昼休みの間は紫音の膝の上に座りながら過ごし、お昼休みが終わると午後の授業が始まる。
午後の授業はお昼お食べたことによる満腹感で眠くなるが、明日から休みになるので、何とか寝ない様に意識を保って乗り越えた。
翌日。今日からゴールデンウィークによる長期休暇中で、しばらく学校はお休みだ。私たちは朝食を食べながら、今日の予定を話し合う。
「紫音、今日は何しようか?」
「んー、出かけたりするのは明日以降にして、今日は部屋で映画でも見ながらゆっくりしない?」
「それもいいね。わかった」
今日の予定というか、何をするかは決まったので、私たちは朝食を食べた後、皿洗いや部屋の片づけ、洗濯などの家事を済ませてパソコンの電源をいれる。
このパソコンは、紫音がアニメや映画を見るために持ってきた物で、彼女が契約している動画サイトで色々見ることができる。
私たちはベットを背もたれにしながらクッションに座り、横並びで何を見るか話し合う。
「白玖乃は何か見たいのある?」
「んー、恋愛ものが見たいかな」
「恋愛ものかぁ。少し待ってね」
紫音はそう言うと、恋愛映画を検索し始め、何かいいものはないかと探し始める。しばらく待っていると、面白そうなものがあったのか、顔を上げて私の方を見てきた。
「紫音、これなんてどう?」
彼女にそう言われて見た映画のあらすじには、趣味で小説を書いている高校生の男の子に、クラスでも人気者の女の子が話しかけて仲良くなり、次第に男の子が恋をするというものだった。そして、女の子は彼が趣味で小説を書いていることを知り、自分を題材にした小説を書いてほしいという。彼は彼女のお願いを聞き入れ、彼女を題材にした小説を書くという内容の様だ。
私は何となく興味を引かれたので、その映画を見ることにした。
映画を見始めてから一時間と少し経った頃、物語はいよいよ終盤に差し掛かろうとしていた。
(なんとなくで選んだけど、結構面白いな。まさか彼女が病気で余命僅かだったとは。自分が生きた証を残したくて、彼に小説を書いてもらおうとしたんだろうな)
ここまで見た映画の内容を思い返しながら見ていると、突然私の方に紫音が寄りかかってきた。
私はどうしたのだろうかと彼女の方を見てみると、どうやら紫音は疲れのせいか眠ってしまったらしい。
(紫音寝ちゃったのか。まぁ、いつも早起きしてご飯作ったり家事をしてくれているから、疲れるのもしょうがないよね)
このまま寝かせてあげたいが、この態勢で寝るのは辛いだろうと思い、紫音の頭を私の太ももあたりに持ってきて横にする。
(膝枕なんてしたことなかったけど、紫音をこうして見ていられるなら、こういうのもいいかもね)
そんなことを思いながら、私は紫音の頭をそっと撫で、気持ちよさそうに眠る彼女を見て自然と微笑む。
そんな紫音を見ていたせいか、私も少しずつ眠くなり意識が遠のいていく。
(悲恋の映画も面白くていいけど、やっぱり私は、二人が幸せになれるハッピーエンドの方がいいかな。好きな人と離れるのは辛いしね)
そんなことを思いながら、私にとって離れたくない好きな人を思い描いた時に紫音が浮かんだが、果たしてこれはどちらの好きなのだろうかと考えようとして、そこで私の意識は途切れて眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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『人気者の彼女を私に依存させる話』
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