距離感
私たちはテーブルを買ったお店を出た後、また紫音と手を繋ぎながらベットが売られているお店へと向かっていた。
別に手を繋ぐこと自体はいいのだが、私たちは今日会ったばかりである。つまり、ほぼ初対面なのだ。
確かに、一緒にお昼は食べたし、お互いのことも話したので、完全に初対面というわけではないし、こんな大きな店に入ったことがないからという理由も聞いている。それでもこの距離の詰め方には正直驚いている。
(まぁ、確かにはぐれたら困るのも確かだし。お店にいる間だけでも繋いでおこうかな)
そんなことを考えながら歩いているうちに、ベットなどの寝具が売られているお店についた。
「紫音。ベットについてだけど、私は二段ベットの方がいいかなって思うんだけど、どう? 一人ひとり買うよりは、その方が部屋も広く使えると思うんだけど」
「んー。そうだなぁ」
紫音はそういった後、何かを考えるように静かになった。
(ん? 紫音はそれぞれでベットを買いたかったのかな? それならそれで構わないけど)
そのことを提案しようとしたとき、考え終わったのか、紫音は私の目を見ながらとんでもないことを言ってきた--
「よし! 一緒に寝よう!」
「…ん? そうだね。二段ベットだったら、頑張って広義的な意味で考えれば、一緒に寝ることにはなるかもね。じゃあ、二段ベットでいいのね?」
「違う違う! シングルを一つ買って、一緒に寝るってことだよ」
「…………は?」
この子は今なんて言った? 一緒に寝る? シングルベットで? 誰と誰が? ……って、私と紫音しかいないじゃん!!
「まってまって!それなら二段ベットでもいいじゃん!幅的にも変わらないし、一人ずつ寝れるから広いしさ!」
「でも、シングルベットの方が安いし。なんか二段ベットって私、上も下も落ち着かないんだよね。それに、一緒に寝た方が楽しそうだし!」
「いやいや。そもそも紫音。私たち今日会ったばかりだよね? それなのに、いきなり一緒に寝るっていうのはさすがに…」
「でも、どのみちこれから一緒に生活するわけだし、距離が縮まるのは時間の問題だよ。それに、私は別に白玖乃とだったら気にしないよ?」
(だめだこの子。意地でもシングルにする気だ!)
私は内心、そんなことを考えながら、どうやって一緒に寝ることを回避するか考えた。
しかし、どれだけ考えても、それらしい理由は思いつかず、一番の理由だった初対面だからというのも、今後のことを切り出されたら弱くなってしまうし、紫音が気にしていないのにそのことばかり言っても意味がない。
(確かに私も、同室のことは仲良くなりたいと思ってたけど…これはいくら何でもただ仲良くなるの枠を超えているのでは?)
もう普通に、理由とかなしに無理とだけ言って断ろうかなと考えをまとめ、紫音の方を見ると、どことなく寂しそうな表情をした紫音の顔が目に入った。
(あぁ。そっか。高校に通うために、実家から一人でこっちに来たって言ってたっけ。そりゃ、寂しくもなるし、心細いよね。……しかたない!私も覚悟を決めるか!)
「…わかった。いいよ」
「ありがとう! 白玖乃!じゃあ、さっそく選びに行こうか!」
紫音はそう言うと、嬉しそうに繋いだ手を引っ張り歩き出した。
その後、紫音と二人でベットを選び、シングルの中でも広めの木製ベットを買うことに決め、枕やシーツなども併せて買った。
「紫音、疲れてない?少し休憩しようか?」
「ごめん、白玖乃。疲れたかも。こんなに人多いところ初めてだからかな。少し休ませてもらってもいい?」
「わかった。じゃあ、フードコートに行って休もうか」
紫音が疲れたということで、私たちはフードコートで少し休憩することにした。
「紫音、私飲み物買ってくるけど、紫音も何かいる?」
「じゃあ、メロンソーダでお願い」
「りょーかい。少し待っててね」
私は飲み物が売られているお店で、紫音の分のメロンソーダと自分のコーラを買って受け取り、紫音の下に戻ろうとする。
その途中で、椅子に座っている紫音を改めてみる--
(やっぱり紫音、美人だよなぁ。あんな綺麗な子とこれから毎日一緒に寝るのか。私ちゃんと寝れるかな)
紫音の綺麗さと今後の生活のことを考えながら、彼女が待つテーブルへと向かう。
「お待たせ。はい、メロンソーダ」
「ありがとう。いくらだった?」
「いいよ別に。今回は奢るよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。…いただきます」
紫音はそう言うと、私が買ってきたメロンソーダを飲み始めた。それを確認した私は、自分用に買ってきたコーラを飲んだ。
コーラを飲むのは久しぶりで、強めの炭酸が喉にくる。
「白玖乃、この後は何買うの?」
紫音は、メロンソーダを美味しそうに飲みながら、この後の予定を尋ねてくる。
「この後は、皿とかカップ、調理器具を買う予定だったけど、紫音は疲れてそうだし、買うのは明日にして今日は帰ろうかと思ってた」
「え! 私はまだ大丈夫だよ! 予定通り買いに行こう!」
「いやいや。無理しなくていいよ。それに、この後ベットとかも届けてもらう予定だし、皿とかは今日使わないしさ。明日また買いに来よ?」
「…白玖乃がそういうなら、分かった」
紫音は了承してくれたが、自分を不甲斐ないと感じたのか落ち込んでいるようだった。その落ち込んでいる様子のせいか、自分より背が高いはずの彼女が小さい子供のように見えて少しおかしかった。
「それじゃ、今日は帰ろうか」
「そうだね。ほんと、迷惑かけてごめんね」
「大丈夫だよ。その代わり、ベットとか配置するの手伝ってね」
「それは任せてよ! 力仕事なら得意だから!」
「ふふ。なら、頼りにしてるね」
私たちは、そんなことを話しながらアパートへの帰路についた。
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