4章 神津市の怪談 ~向日葵のかけらと腕だけ連続殺人事件~
ナナオさんの友人
その怪異の話はナナオさんの一言から始まった。
「なぁトッチー。最近腕だけが発見されるって事件が起きてるの、知ってるよな?」
「うん、もう5件目でしょ?」
このトッチーというのは僕の名前、
僕はこの春先に、
まだまだセミの声には遠いけど、太陽が少しずつ勢力を増していく季節。空は青く晴れ渡り、木々は瑞々しく太陽を照り返している。そんなさわやかな夏の到来を予感させる朝、不似合いなうわさを持ち込んだのは、同級生の
ナナオさんは怖い話好き仲間のギャルっぽい同級生で、たまに一緒に肝試しや探検をする。それからとても情に厚いくて、困っている人は見過ごせない。今日も明るい金色の髪を高く結い上げて、座る僕を見下ろしていた。
腕だけが発見される事件。通称『腕だけ連続殺人事件』。
それはついさっき、僕も朝のニュースでも聞いた内容。
ナナオさんはギュッと小さく拳を握りしめ、返事を待たずに話を続ける。
「共通点が、わかったんだ」
真剣な目が僕を見つめる。
これはいつものただの噂じゃない。そう直感する。
「ダチを助けたいんだ、手伝ってほしい」
「友達? ……とりあえず話を聞かせて?」
ナナオさんの話の概要はこういうものだった。
腕の持ち主はいずれも先月、
朝のチャイムが鳴ると同時にナナオさんは『詳しくは昼休みに』と告げて、ざわついた教室の中をつっきって自分の席に戻っていった。
「おい東矢、アンリには絶対話すなよ」
隣の席で机につっぷしながら僕を見つめる藤友君の声が聞こえた。
そりゃぁもう固く。
夏の風が雲を吹き散らすように時間が過ぎて昼休み。
早速やってきたナナオさんに、ここじゃなんだから、と学校の屋上に誘う。僕の昼ごはんの定位置だ。
僕らが通う新谷坂高校は新谷坂山の中腹にあり、晴れた日には広く新谷坂町が見渡せた。観光地にもなっている
「それでナナオさん、友達を助けるってどういうこと?」
「ダチは神津に住んでんだけど、怖い話が好きでさ。『腕だけ連続殺人事件』のニュースを神津ナビで検索したんだ。それで切り取られた腕の写真がアップされたらしい。ダチはその腕が知り合いのだって気づいた。それが一昨日のことだ」
神津ナビは神津市が作ってるイベント情報や飲食店情報なんかが登録された街アプリで、その他にも交流用の掲示板がたくさん設えられていて、色んな情報や噂が書き込まれている。
ナナオさんは卵焼きをつまんでいた箸の手を止めて僕を見る。
「その画像自体はすぐ消されたらしいんだけどさ、その腕がつけてたブレスレットが『くまにゃん』のだったらしい」
「『くまにゃん』?」
「えっと、一緒にオフに行った子のネーム?」
「単に似たブレスレットだった可能性は?」
ナナオさんは手元を見ながら首を振る。
「『くまにゃん』のブレスレットはイニシャルをデザインにした特注品なんだって。占いの文字をもじった独特の珍しいデザインだったらしいんだ。それからダチは『くまにゃん』に何回電話しても電話に出ないんだって」
ナナオさんは悲痛な面持ちで眉を下げる。
なんと返したらいいかわからない。
「その、それでどうしてそのお友達が狙われるっていうの?」
「朝に言った肝試し。ダチは5月の土曜に神津ナビで肝試しオフの募集を見つけて参加したんだよ。そしたら『くまにゃん』もそこに来ていたらしい。全部で8人参加したって聞いたかな」
急に日が少し陰る。新谷坂山から吹き下ろす冷たい風におされて、薄い雲が静かに広がっていく。
ナナオさんは不安げに隣に座る僕を見た。
「ダチは連絡用に交換したLIMEに『見つかった腕が『くまにゃん』のものじゃないか』って書いたんだ。でもLIMEのメッセは3人からはレスがあったけど、『くまにゃん』を含む3人は未読スルーだって」
「たまたまじゃないの?」
「未読のうちの一人に電話したんだけど親が出て、行方不明って言われたんだって。丁度腕が発見された前日から」
「でもその人が腕の人かはわからないんでしょう?」
今朝のニュースでも、警察も腕の持ち主は特定できていない、はず。
「うん、でもさ。人数が会うって言ってた。8人のうち1人はもともとLIMEに登録していなくてその連絡先はわからない。連絡が取れないのは4人で、その時点で発見されていた腕は4本分」
指を折って数えて見ても、たしかに連絡がとれない人数と、腕の数が一致する。
それでも、それにしても偶然じゃないのかな。
「連絡用のLIMEって?」
「現地で3組に分かれて探検したんだってさ。その時に合流用のためにLIMEグループを作ったって言ってた。既読になった3人のうちの1人にも電話したんだけどさ。『サニー』っていう人」
「その人もハンドルネーム?」
「多分そう。そしたら『サニー』も同じ神津ナビを見てブレスレットに気付いてたらしい。『サニー』も腕は『くまにゃん』のだって言って、すごく怖がってたって」
漠然としていた事件との繋がりがだんだん具体化されていく。
想像して、背中に一筋、冷や汗が流れる。
ネットで見かけた切断された腕の画像が、一緒に出掛けた子のものだった。そんなものを偶然見かけてしまったら。
ちょっと前には生き生きと動いていて、暖かくて、手を繋いだりしたものが、冷たく死んで物になる。写真というのは残酷に、淡々と生々しく事実を映すもの。
それはどれほど恐ろしいことだろう。
「そいでね、他の2人の既読はLIMEを信じてなかったみたいだけど、そのうち1人、男の人から昨日の真夜中にLIMEに「助けて」っていうメッセが入った」
「助けて?」
「うん。ダチはすぐに『何があったの』ってメッセしたけど、返事はなかったって。それで昨日の夜中に新しい腕が見つかったじゃん? それでやっぱりこれは肝だめしに行った人が狙われているんじゃないかって今朝電話が来たんだよ」
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