第13話 古都にて…
さても、アリエリカとショウ王の謁見が粛々と行われていた
それが一行は愉しみにしていたはずの都見物には興じてはおらず、代わりにウェオブリから南西に外れること一里余りにあるという、とある
それでは―――その
言い伝えによると、過去にそこを中心に栄えた或る国…
「(ふ、う…)ここに来るのも、実に7万年ぶりとは…年は取りたくないもの、だねぇ。 ご覧よ―――私達が植えた庭木、全然手入れしてないもんだから、
「あの辺りでしたかね―――あたし達が植えたの…」
「どれもおなしにみえますみぅ。」
そこは―――まさに森の中の都…匂い立つような若葉に囲まれた、癒やしの森の中にひっそりと佇む
「ほら―――あそこで『お方様』が…」
「あそこでアタシと顧問様が…」
「あそこで…あたちとじょかりぃぬさまが…」
想いは、巡っていたようです……
* * * * * * * * * *
それはそうと、彼女達がここに来たのも何も昔の遺構見物などではなく、ある処――――この
そして―――その遺構の『正門』『中庭』『正面大門』と抜け…今は城内『大ホール』の中。
大ホールより通ずる
そして、彼女達が、その部屋に一歩入るなり―――
それまで彼女達にかかっていた何かしらの呪縛が強制解除され、キリエは老婆の姿から、うら若き娘の姿に…コみゅと乃亜は幼い子供から大きな動物耳と尻尾をつけた姿に…そう、彼女達本来の姿になったのです。
「元に…戻ってしまいましたみゅ。」 「……。」
「仕方がないわよ、だってここはあのお方が居られた場所、『玉座の間』なんですもの。」
そう、その場所こそは皇が玉座に座り、諸官に対して法の布令や意見の交換、賞罰の見定めなど、あらゆる行事が行われた場所だったのです。
でもしかし――――かつては眩いばかりに輝いて見えた黄金の玉座も
ですが――――…
「それにしても―――さすがにちょっとこれはひどいわね。」
「キリエ様ぁ…ここぉ――――」
「はいはい、判っているわよ。」
7万年という、気の遠くなる時間はかつてはあんなに栄華を誇っていた王国を
それでも往時の
しかしここで一つ勘違いして欲しくないのは、何も彼女が手にハタキ・ホウキ・チリトリの類を持ってすると言う事ではないと言う事。
では、どうしてこの
それは…キリエ自身がこの部屋のほぼ中央に来た時―――そして彼女自身の『言の葉』によって出てきた或る物体に対し、自分達が昔よく使っていた『言の葉』を用いる事でそこは往時の色を取り戻し始めたのです。
〖来たれ―――光よ甦りて我が言の葉に耳を傾け給え〗
それこそは彼女が唯一…いえ、当時の官吏を目指す者ならば最低限は覚えておかなければならない『言の葉』だった、そしてその言の葉の一つによりこの
「わぁぁ~~っ!すぐに綺麗になったみゅ!」
「うんっ…。」
「(ふふふ…)さ・て―――それでは早速この宝珠に、これまでの
〖我は皇の
キリエは―――自身の目の前に存在する、とても不思議な七色に輝ける宝珠に向かい、当時からの官職名と自身の官姓名を述べ、今までの
するとそんな
ではその異変とは…
「え…? あー--っ!」
「どうしたの、乃亜…今はキリエ様がご報告の最中なんだから邪魔しちゃダ…あ―――ああ、あああっ!」
「どうしたの、二人共騒がしいわよ。 今はご報告の最中なのだから…」
「キ、キリエさまぁ―――」
「ぎ、玉座のほうを―――」
「玉座に? 一体誰…が―――」
スピリッツの仲良し姉妹の一人である乃亜が、普段なら
それを
そしてその二人に対し、背中越しに『騒がしい』と注意するキリエも、この姉妹二人に釣られてようやく玉座のほうを見てみれば…
「えぇ?! あ…あなた様―――は!」
玉座にて鎮座する見覚えあるお姿…頭上には黄金作りの冠を頂き、頭髪は小豆色をなし―――その慈愛のこもった瞳は瑠璃色、その身にも紫を基調とした衣服を纏っているそのお方こそ………
「ジ――――ジョカリーヌ様!」
{(ジョカリーヌ=シャラソウジュ=イラストリアス;約7万年前にこの大陸に君臨していた『皇』であり、今までに述べられてきたところの『伝説上の仁君』…しかし、亡くなられたはずなのでは?)
やぁ―――…}
そう、そのお方こそが今までに数多くの逸話を遺し、
「あっ―――あぁ……わ、我らが君主様が―――」
{永い間―――本当に苦労をかけたねキリエ、すまなかった。}
「いえ――――いいえ!どうして済まなかったなどと…勿体の無いお言葉でございます。」
「ぅわわ~~ん! ジョカリーヌ様ですみゅー--!」(←抱きつき攻撃)
「ふぇえ~~ん」(←連られて…)
{あぁ――――っ、これ、お前達…}
「いっ…たいですみ゛ゅ~~~☆」
「すりぬけてしまいまちた…。」
{もう―――仕様のない子達だね、今の私は
「あッ、そうでしたみゅ。」
「ねぇちゃまおっちょこちょい。」
「それより―――陛下、どうして今こちらに? 私はてっきり
{ぅん? うん―――ちょっとね、これの
「『カレイド・クレスト』…・陛下が一時的に亡くなられる直前に、ご自身の総てを凝縮された宝珠ですよね…でもどうしてこの宝珠の
{それは―――…言い
「『北』の? あの…『ハルヴェリウスの
{うん、そこに安置されているはずのあの宝珠の気配が、今はなぜかしらコキュートスの位置から漂ってきているんだ。}
「コキュートス―――どうして
{判らない…だが、今はそのことを憂慮すべきではない。}
「―――と、申されますと?」
{うん、実は近々私の
「アリエリカ様―――に、ですか。」
{うん…これ以上騙し続けるのはさすがに忍びなくてね。}
「『騙す』―――だ、なんて…それはさすがにご自身を卑下しすぎでございます!」
{いや―――違うよ、キリエ。 私の時代で決着のつかなかったことを、それを違う時代の関係のない者までを巻き込んでしまっている。 しかも今に於いてさえも本来の目的すら語っていない、これを『騙していない』とでも言えるだろうか?}
「―――…。」
{それに…こんな頼り甲斐のない者が『皇』で『仁君』だって? 全く…聞いて呆れる。}
「ジョカリーヌ様…」
{だって、そうじゃないか。 『種族平等法』にしろ、『私田法』にしろ…あれらの法の数々は私の姉でもあった最高顧問の提案を私が受理しただけで――――}
「いいえ、いいえ! そんなことはありません! 『良策も取り上げてもらわねば愚策にも劣る事』―――と、最高顧問閣下も常々そう申されていたではありませんか!」
{そうか―――そう、だったな。}
「申し訳…ございません。 曲がりなりにも私如きが意見をするなど、差し出がましいことを…」
{いや、いいんだよ、キリエ…お蔭で目が覚めた気分だ。 それに思えば私は恵まれ過ぎている…最高顧問やお前達のような優れた良臣―――そしてこんな私でも親しんでついてきてくれた民達…こんな恵まれ過ぎていることに私はもう少し慎まなければならないだろうね。}
そこには―――
何分にも驕りもせず、ただ―――ただ―――慎ましやかなる者が…
そして、その昔からのなされように古来からの臣下は、『ああ…やはりこの方こそ、我らの主であり、あの姫君こそがこの方の魂を―――崇高なる意志を継ぐに相応しいのだ』と、思っていたのです。
* * * * * * * * * *
ところ変わってアリエリカは…
「(昨日は大変な一日でしたけれど、今日は平穏無事でなりよりでしたわ。)それにしてもあの声の方、一体どなたなのでしょう?」
未だに諸事情が上手く飲み込めていないアリエリカは、姿は見えないけれど声だけはする存在に、今更ながら…のようですが、少なからずの興味を抱き始めたみたいです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして―――明けて翌朝。 朝の支度をしている時に、またもやあの声が―――
「{やあ、お待たせ、昨夜はよく眠れたかな?}
(あっ、あなたは…わたくしの、気の所為ではなかったのですね。)
{ははは、頼むからそう邪険にしないでおくれアリエリカ。 実は…今日君に頼みがあるのだが、聞いてもらえるかい?}
(また、わたくしの身体を借りる―――と言うご相談なら丁重にお断りさせて頂きとうございます。)
{相変わらず厳しいね、アリエリカ。 実は―――君も
(あなたが…ご自分が何者であるか語って頂けるのですか?)
{『語る』―――か…まあ確かに私自身から何者であるかを語ってもいいんだけれど、それでも君は納得いかない部分が大半にはあるだろう。 そこで―――だ、君に…いや、君の曇りのないその
(わ、わたくしが何者で―――これからしなければならない事?何の事を…言っているのか、さっぱり――――)
{その事を
(或る…『場所』?一体、どこの事なのです?)
{それは―――…}
それは――― 紛れもなくの、あの場所――――
「(『シャクラディア』?!でも…それは
{異論は、あると思うよ。 けれどその事なら『学術調査』と称しておけば、事足りるのじゃあないかな。 現に最近全く同じ事を三人が行ったことだしね。}
(『学術調査』に…『三人』?!はっ!そ、そういえばキリエさんは?コみゅちゃん、乃亜ちゃんは? あぁ―――いけないわ…わたくし、自分の事ばかり気になってしまって、あの人たちの事をすっかり―――)
{そのことなら何も気に病むことはない。}
(ど、どうしてそんなことが言えるのです?キリエさんや…
{なぁに大丈夫、あの三人の事に関してもその
(そうですか…分かりました。 でしたらシオンさんにそう申し上げておきましょう。)
{ああそうそう、あの人に言うのだけはよしてくれないかな。}
(どうしてでございます?第一今、頼りにせざるを得ないのはあの方をおいて他は…)
{あの人は…君のお目付け役でもあるだろう?それにもし、こんな事をあの人が聞いて御覧、絶対君に付いて行くというのじゃないかな。}
(そ、それは確かに…)
{それに、この事は君と私との問題だ、だから―――関係のない人間を巻き込みたくはないんだよ。}
(そう…ですか、分かりました。)」
その声だけの存在は、今にしてようやくアリエリカに自分の事を語りたいと、そう言ってきたのです。
けれども、それはアリエリカ一人にだけであって、アリエリカ以外の人達に自分の事を知られるのを極端に嫌っていたようにも思えたのです。
その事に、『それほどまでに大事な事なのでしょうか』―――と、そう思ったアリエリカは、自分のお目付け役を通さずにこの国の役人の一人であるセキに、この事を申し出たのです。
「は―――あ…『シャクラディア』、あの遺跡に興味がおありとは、中々勉強熱心にございますな。」
「い―――いえ…」
「そう言えば…先日もあの遺跡の中へ入りたい―――と、申されていた御仁がおられましてな?いやはや昔を
「は、あ…それで、その方は?」
自分よりも年若い―――それも女性が、この国が保有している最重要文化財を見学したいのだと言う。 けれどアリエリカと同じ年頃の若い女性は『
「確かー--ご老体で、二人の小さなお子を連れておりましたなぁ、名を確か――――」
「キリエ――――」
「ああ、そうそう―――その、キリエというご老体でしたが…はて?どうしてあなた様がその御仁の事を?」
「わたくしの…連れの一人だった方ですから。 そうでしたか…分かりました、それで、許可を出していただけるのでしょうか?」
「ええどうぞ、この事に関しましては私のほうからイクに伝えておきますので…では。」
「(キリエさん…コみゅちゃん、乃亜ちゃん―――あの三人が昨日あそこを訪れている?それに―――昨日から宿に帰ってきていない…と言う事は!?)
そう―――それは未だに遺跡の中へ留まっているという事。
その原因として何らかの事故に巻き込まれ、そこから出られないでいるのか――――はてまたは幼い二人が広い遺跡ではぐれてしまって、それを探すのに三人とも未だ遺跡を彷徨っているのではないのか――――などと、ついよからぬことばかりが頭の中を
しかし―――そのいずれもが杞憂に過ぎてしまった事だと、アリエリカは知ることとなったのです。
* * * * * * * * * *
そして今は―――かの
「(こっ―――これは!? わたくしも故国テ・ラでは、その存在が遺跡であるとしか知らなかったのですが、これはまるで―――)
{古代王朝のお城みたいかい? まぁ―――とにかく中に入ってみよう。}
(は―――はい…)」
声だけの存在に促されるまま、その遺跡の中奥深くへと入り込んでいくアリエリカ。
すると―――そこでアリエリカを温かく迎えに出たのはなんと…
「ああっ! あ、あなたは!」
「ようこそ、『皇城シャクラディア』へ。」
「あたし達は、アリエリカ様を
「いたしますみぅ―――♪」
そこにいたのは―――年老いた老婆でも、幼い子供でもなく、うら若き女性とスピリッツの三人だったのです。
「ど―――どうして…あなた達が…」
{それよりキリエ、早くこの人を玉座の間まで案内してあげてくれないか。}
「
「今の声は―――わたくしの頭の中で聞こえていた『影の人』の声…それがどうして、この空間に響いて聞こえるの…?」
「その事も、今から足を向かわせて頂く事となる場所にて明らかとなる事でございます。 さあ、こちらへ…」
今までは―――頭の中へ、思念に直接語りかけているような感じだったものが、それが今となってはその空間を通じて直接耳に入ってくるものに代わった事に著しく驚いてしまったのです。
そして若くなったキリエに案内されるままにこの遺跡…いや、城の中核ともいえるべき『玉座の間』までその足を向かわせる事となったアリエリカは―――
「こ―――この扉の向こう側に、なにが…」
「しばしのお待ちを…
〖我は皇の
「え―――? キリエ…クォシム??」
そして、今までにも聞いた事のない肩書き…名前―――これがどうしてあの老婆と同一人物であったと思えたでしょうか。 しかし今はそのキリエに促されるまま『玉座の間』に入ってみれば…そこには黄金造りの玉座と―――部屋の中央に置かれた『宝珠』があるだけ…そして――――
「あの…これは?」
「それに触れられて下さい、あの方の魂をお持ちでいらっしゃるあなた様なら可能なはずですので…。」
「あの方の魂??」
アリエリカはキリエが促すままに、しかし畏る畏るながらもその宝珠『カレイド・クレスト』に触ったのです。
するとその宝珠は虹色に光り輝き出し、アリエリカの目の前に信じ難い光景を映し出し始めたのです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そこには―――今現在に於いて『中華の国』と
それから、あの玉座の左隣にはひときわ巨きな存在が…
そして何よりも一番に驚いたことには、その玉座に鎮座していたのは、自分の夢の中に出てきていたあの存在…小豆色の
それにこの時は、丁度何かしらの合議の最中なのか…激しい議論のやり取りがなされていたのです。
今―――余り見慣れぬ真紅の鎧をその身に纏った女性の将校が、自分の意見を申すべく、立ち上がったようです…
「そんな―――! 何を於いて今更講和などと…虫の良過ぎる話です―――!もう一度お考え直し下さるよう!」
しかし、それを一喝し打ち鎮める存在が…それこそあの玉座の左隣にいる者だったのです。
「お黙りなさい―――!これは皇、
「し…しかし、最高顧問―――!」
「もう、よい…お前はもう座りなさい、龍騎師団師団長―――」
「っっ――――くうっ!」
「申し訳ございません、陛下…この事は絶対口出しせぬよう堅く言って聞かせていたのですが…。」
「しかし―――皆にも申し訳ないことをしたと思っている…。 折角大陸にある諸侯を説き伏せ優勢に持ち込めたものを…だけど判って欲しいんだ。
私も或る人からよく言って聞かされた事がある…『勝つ事、それ自体そのものは問題ではない、ただそれが余り持続しすぎると
「し―――しかし! あやつら…カ・ルマ共がこの期に及んで和議を申し立ててくるなどというのは、新たなる防衛線の構築…それと崩れた軍の立て直しを図るためのものなのでは…」
アリエリカは…ただ、ただ―――驚くしか他はありませんでした。
自分自身見覚えのある顔が玉座に鎮座し、またその者を前に頭を低くする者達…その者達を纏め上げている『最高顧問』―――そして何よりも驚いたのは、自国テ・ラを襲い滅ぼしたカ・ルマという存在―――その事に、ただ驚くしかなかったのです…。
* * * * * * * * * *
そして、場面は流れ――――その者と最高顧問と呼ばれた者とが親しげに会話をしている場面に遭遇したのです。
「ところで姉様は…マエストロは、此度のカ・ルマの申し出―――どのように思っているので?」
「そのことは―――あなた様がもうお決めになられた事でございます。 私如きがとやかく言う筋合いは…」
「そう、言わずに…」
「そうですか…でしたらば―――今少しばかりその時期は尚早だったように思われます。」
「だったら…どうしてそのことを―――」
「言えば、お取り上げになってくれたでしょうか?」
「(うっ―――)そ、それは…」
「この永きに
ですが…あなた様は以前に非戦論者の
「――――…。」
「申し訳ございません…少々口が過ぎてしまいました、お怒りでございましたならこの最高顧問めをお罰し下さいますよう。」
「いや―――この私の思慮のなさが招いてしまった誤解であり、失策だったようだ…それに怒るべきはマエストロ以下の臣下の者達へではない、この―――至らない皇…私自身にだ!」
「いえ、この私の口の足らなさにも因があったように思われます。 皇に於かれましてはもう少しご自愛頂かれますよう…。」
そこでまた、その者―――『皇』は言っていた…『自分の思慮のなさが招いてしまった、誤解に失策だ』――――と、そのことにアリエリカはあの時の事…そう、ショウ王に招かれた宴の席にてこの人物が漏らしていた事にある共通点を見出していたのです。
そして…『優秀な官』と『何もしていない施政者』―――その事が判ったところでまた場面が流れたのです。
* * * * * * * * * *
しかし今度の場面は、今までのとは違い慌ただしさが見て取れたのです。
「ご注進にございます!」
「何事ですか、騒がしい―――」
「お畏れながら、申し上げます――――」
「カ・ルマ、再軍備の件――――ですか…」
「な―――なんと…ご存知だったのですか?!最高顧問!」
「昨晩天文を見ていましたら、北西の空に暗雲が立ち込めるのが見て取れました…あの者達が何か企んでいると睨んでいたのですが…それがこれほどまでに早かったとは―――」
「で、では―――至急諸官を
「いえ、それはしてはならぬ事です。」
「(な…)ど、どうして―――」
「もしそれをなさろうとすると、またもや非戦論者からの横槍が入り遅きに失する
「そ―――そうか…ならば、どのようにすれば…」
「なに、ご心配なさらずとも、それにはうってつけの策を用意してありますゆえに…」
和議はなった――――しかし、その後一年を待たずして龍騎師団師団長からもたらされたカ・ルマ再軍備の一報…けれどその有事をも最高顧問は見通していたのです。
そして今度は後手に廻らぬよう―――最高顧問は取って置きの秘策をもってあたったのです。
では、その秘策とは…
病でもないのに皇を偽りの病で倒れた事にし、他の者(これは非戦論者とカ・ルマの両者)を牽制しようとする策だったのです。
そして皇の自室には皇と最高顧問が…
「しかし―――なんだか後ろ髪が曳かれる想いだ…」
「そうは申されずに―――万が一はこの私めが総てをひっ被ればよいまでの事…」
「で―――でも、それでは姉様に…」
「それよりも、早くお支度を――――」
「(ん?)こ…これは!」
「今より私と共にコキュートスへと乗り込むのです。」
「(!)で…でも、私達二人だけでどうにかなるものなので?」
「いえ…すでに先遣隊として『槍』と『盾』に先行させております。」
「あの子達が―――?!」
「そうです…それに奇襲を行うのなら、敵も―――
「(………)よし、判った! 姉様がここまでお膳立てをしてくれたんだ、それにここでこの私が出ないわけには行かない、ここで…総てを終わらせるんだ―――!!」
* * * * * * * * * *
そして、ここでまた場面が流れ――――今度は敵陣の、それも本拠と目される城塞の中のようです。
するとそこでは既にあの見慣れぬ真紅の鎧を纏った猛将が―――
その猛将…『槍』の最終極奥義とも取れるその技を喰らい滅していくその敵将…と、ここで後から現れた皇と宰相が合流したようです。
「あっお師様、見てやって下さい、この人が――――(あら?)」
「(ね、姉様?!)」
「(最高顧問―――?)」
敵国カ・ルマの名のある武将―――それを倒したとしても最高顧問は喜ばずにいた…しかもこの時最高顧問は実に思いも寄らぬ行動に打って出たのです。
それは…今猛将の一人『槍』が打ち倒した敵将の
ナゼ―――? それは……
「(クッッ!)どうやら遅きに失したようです…。」
「えっ? お、遅きに失した―――って、どう言う事なんですか? 現にこいつはこの人の槍に貫かれて…」
「それは―――この者の残骸から出ている残留瘴気濃度が余りにも低いからです。」
「な…にぃ?! 瘴気濃度が?」
「と、言う事はつまり――――」
「そう―――お前達はこの者達の抜け殻と闘っていたに過ぎないと言う事…考えても見なさい、今までに苦戦を強いられてきていた相手が奇襲を受けたにせよ、こうも容易く滅せられることの出来る存在だったのか―――を!」
「な―――で、では、
「恐らく…もう既にこの時代には存在していないのでしょう…。」
「そ―――んな…」
「ですが―――ここで手を
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そしてここで総ての映像は途絶え、元のままの『玉座の間』が、あったのです。
しかしここでアリエリカの目の前で映し出されたものとは、その所々が途切れながらも史実として知られているところの『カ・ルマ平定戦』であり、最後の映像も敵の総大将サウロン
そして―――今、この信じ得難い事を目の当たりにしそこにへたり込むように座るアリエリカ…
{驚いたかいアリエリカ…今君が見たのが真実―――本当にあった出来事なんだ。}
「これが―――真実? で…では、現在わたくしたちに語り継がれているあの伝承は――――」
{あれは―――後の世に最高顧問が都合のいいように
「で、では…この映像でも見た、あのカ・ルマと申す者達は―――」
{残念ながら…今君が見たものと、現在この世に存在し君の故国を滅ぼしたる者も…その存在性は全くに於いて同じなんだ。}
「そう…ですか、では、あなた様は――――もしかすると。」
{いかにも、もう君にも判ってしまったように君達の時代に『皇』として語り継がれている存在だよ…君には―――アリエリカには本当にすまないと思っている。 私達の時代で起こしてしまった不祥事を…それをこの時代まで持ち込んでしまい
「(…)いいえ、わたくしはそうは思っておりません。」
{(え?)ア、アリエリカ?}
「あなた様は、確かに
{そうか―――すまないな…}
「どうしてすまないなどと、お止めになって下さいジョカリーヌ様。」
そう―――そこでアリエリカは自分の身体を借りている存在と、先程自身の目で確かめた『皇』としての存在がジョカリーヌであることを
しかしれそれで終わったわけではなく、ではなぜ太古の偉人がこうして復活しているか―――なのですが…
{それでは、いいんだねアリエリカ…この私が君の身体に留まってしまっても。}
「はい…。」
{でも、それは言ってしまえば君の自由を束縛してしまうことにもなるんだよ?好きな事をすることも…
「わたくしは―――これも宿命と思っております…。 わたくしの故国テ・ラがカ・ルマによって滅ぼされたのも宿命なれば、あなた様がわたくしを
{アリエリカ…有り難う―――本当に、有り難う!}
こうして、ここで改めてジョカリーヌとアリエリカは、運命共同体としての契約をしたのです。
アリエリカは今後一切の自らの自由・倖せを放棄し、始めて自らの胸中を語ってくれたその存在――――ジョカリーヌとその運命を共にする事を誓ったのです。
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