第11話 中華思想の国
ここは―――ガルバディア大陸を巡っている、主要街道の一つ―『ウェンティア街道』。 その街道を、馬車が一台揺られていくのが見受けられます。
そしてこの馬車の行き先は『フ国』であり、その首都でもある『ウェオブリ』なのです。
――――と、言う事は、この馬車に乗っているのはアリエリカ…と、共としてついてきているシオン、コみゅ、乃亜…それとキリエ婆の計五人…
「わぁ~~ー--い! ぅわぁ~~ー--い! あたしたち今、馬車に乗ってるんだみゅ?!」
「キセキ…みぅ。」
「あらあら、コみゅちゃんたら。」
「けれど…余りはしゃぎすぎてもらっても―――私達は別に遊ぶ目的で行くわけではないのですから。」
「まぁまぁ…よろしぃじゃあないですか。 一生に一度、あるかないかの都見物なんだ…この婆めにも、ようやくにして、その機会が巡ってきたんだ、ありがたや~~~ありがたや~~~。」
「ちょ―――ちょっとお婆さん、何もそんな…縁起でもない。」
当時をしての、中華の都へ出向くというのは一生に一度あるかないか…と、言われていただけに、コみゅと乃亜の姉妹は文字通りのはしゃぎっぷり、しかも
それよりも、実はこの五人のうちアリエリカとシオンは、とある目的のために大都会のウェオブリに向かっていたのですが―――では他の三人、コみゅ・乃亜・キリエ婆はどうやら都見物だけにとどまっておくようです。
それでは一体どのような
* * * * * * * * * *
これより――――二日前の話し…
どうやらシオンがフ国へのお使いを
「只今―――戻りました。」
「おお―――ご苦労、で…首尾はどのようであったか。」
「はっ―――ショウ王様は公主様のご意見、広く用いて下さるようにございます。」
「うむ、そうであるか…。 よいよい、これでよいのじゃ…こんな掃き溜めの如き処へ姫君のような清楚な花は根付くべきではない…もっと、条件の良い土壌でこそかの大輪の花を咲かせるべきよ、そうであろう、シオン。」
「は―――ですかしかし…」
「うん?なんじゃ…」
「『ここを掃き溜めの如き』とは――――それではここにて君臨されておられるアルディアナ様…
「フフ―――
「これは痛いところを…。 それでは、アリエリカ様がこちらに参った折にはよろしくお願いいたします。」
「うむ―――ようやってくれた…今はゆるりと休むがよいぞ。」
シオンは―――実の上司(と言うよりは主)のアルディアナに事の
そうこうしているうちにアリエリカがコみゅと乃亜を伴い、アルディアナのいる執務室を訪れたのです。
「お早うございます―――」
「おお、これは姫君丁度よいところへ…ちょっとこちらへ来て下され。」
「は、はい―――あの…なんでございましょう?」
「うむ、実はですな、妾の
「(
「(フフ…)それはの―――」
その行き先こそは、当時をしての『中華の國』。 ありとあらゆる“物事”の中心――――文化・経済・軍事・流行…そのどれをとっても他の追随を許さない、まさに『粋』の頂点に到達した場所『フ国』、しかもその都の『ウェオブリ』だと言うのです。
「(そ…んな―――)あ、あの、よろしいのですか?こんな田舎出のわたくしが…よりによって大都会のウェオブリ―――だ、なんて。」
「ほ…ほえぇぇ~~~」(ぱちくり) 「し…しごいでし。」
「(フフフ)何も、そう驚かれることではありますまい。 姫君ほどのお方なら遜色なさいませぬよ。」
「そう…ですか、アルディアナさんからそう言われると、心なしか自信がついてまいりました…ありがとうに存じます――――」
「いえいえ―――何の何の、ですよ。」
「それで―――出立の日時は?」
「うむ、二日後の午前中でいかがですかな?」
「そうですか―――分かりました。 それでは早速、身支度を整えてまいります。」
「うむ―――あ、そうそう一つ大事なことを言うのを忘れておりました。」
「なんでございましょう?」
「今回は、供は二人まで…それと道案内はシオンがやりますので―――」
「お供が…二人? それに、シオンさんまで?」
「ええ―――何しろあやつはあなた様のお世話をしており、かの地にも詳しゅうございますからな。」
「は―――はぁ…。」
「では、そう言う事でよろしく頼みましたぞ?」
この時決定した事項とは、アリエリカがアルディアナの代理としてフ国は都のウェオブリに赴く―――と、言う事。
しかしこれは、捉え方を間違えでもすると単なる『都見物』に終わってしまうのですが…実の処アルディアナは、その真の目的を未だに話さないでおいたのです。
* * * * * * * * * *
それよりもアリエリカ、今は自室(とは言ってもアルディアナの部屋でもある)に戻り旅支度を――――そして足りないモノを求めに街中を出歩いていたところに…なんとも意外ともいえる人物がアリエリカの前に――――けれどそれは…
「どうも、こんにちは。」
「はい――――あら、お婆さん。」
「はい、そうですよ…。」
「どうもその節は―――」
「いえいえ、どういたしまして。 それよりもあなた―――今度は大都会へ行きなさるようですねぇ?」
「はい…そうですが―――でも、どうしてキリエさんがそのようなことを?」
「不思議ですか―――?」
「みゅ―――!」(ひょっこり)
「あっ…コみゅちゃん?! 道理で…いないと思っていましたら。」
「てへへ。」
「と、言う事は…そうですか、コみゅちゃんからこの
「えぇ~~ところで…厚かましいのを承知で申し上げるのですが…その『都見物』、この婆めもついて行ってかまいませんかな?」
「えっ―――でっ、でも…今回の供は二人まで―――と、言う事になっていますし…」
「あのぅ…」
「はい―――なあに?乃亜ちゃん。」
「あい…あたちたちふたりだけだったや、ここよぼそいかや…」
「それであたしがキリエさんに声かけたのみゅ。」
「そうだったの…。 (うぅ~ん)そうですね…コみゅちゃん・乃亜ちゃん二人だけだったらわたくしの目が行き届かないこともあることと思いますし…それに事前にアルディアナさんに『三人で―――』と言う事で許可を頂きましょう。」
その人物こそが『キリエ堂』の店主キリエ婆だったのです。
それにしてもキリエ婆―――今回の『姫君、都へ行く』の報をどこで聞いたのか…その事を疑問に思うアリエリカだったのですが、とある者―――コみゅがキリエ婆の背後からひょっこりと顔を出すにつれその疑問も氷解したようです。
そう…つまりキリエ婆はコみゅからこの事を聞き出し、また自分もこの世の名残りとばかりにアリエリカについていくことを志願したのです。
* * * * * * * * * *
そして粗方の旅支度を終え、ある事の承諾を得にアルディアナの執務室のドアを叩くアリエリカとキリエ婆。
「お邪魔いたします―――」
「(ん?)おや、どなたかと思えば、姫君――――に、そちらのご老体は?」
「初めまして…私は、ここの街の隅のほうで、商いをさせてもらっておる、キリエと申しますじゃ。」
「ほう…キリエ―――とな?と、なると、『キリエ堂』の?」
「はい…いつぞや、あなた様が、ここの頭領格に収まった時分に、私の孫娘が、お祝いを持っていった…と、思ったのですが?」
「ああ…確か
「それはわたくしから…近日中にフ国へと赴く際に、わたくしの供は二人まで―――と、申されていましたですよね?」
「はぁ―――その通りですが…それが何か?」
「そこで、その供の枠をもうお一つ増やして頂けないものでございましょうか?」
「―――と、申されますと?」
「二人は―――コみゅちゃんと乃亜ちゃん達とですぐに決まったのですが…
「(フフフ)成る程―――そう言う事でしたら一向に差し支えありませぬよ。」
「そうですか―――ありがとうにございます。」
「確かに――――幼い子供というのはその興の深さ、行動力も
「はいはい―――子供をあやしつけたり、躾けたりするのは、年寄りの役目…ですからねぇ。 その大任、謹んでお受けいたしますよ。」
そこでなされた決定事項とは、アリエリカの供の枠が一つ増えた…と言う事。
アリエリカについていく二人の幼い子供の
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして―――今は馬車の車中…滞りなくフ国は都のウェオブリに着き、その宿にてこんな事があったようです。
「わぁ~~い! わぁ~~い!♪ 明日から都見物みゅ~~♪」(ピョンこ・ピョンこ)
「わぁ~~い! わぁ~~い!♪」(ピョンこ・ピョンこ)
「まぁっ―――二人ったら…」
「あぁ~~これこれ、もうはしゃぐのはおよし。」
「はぁ~~―――い」(てへへ♡)
「てへへ♡」
「それにしても―――余程に仲が好いのね、あなた達。」
「はいっ!です、みゅ♡」 「うんっ♡」
「それはそうと―――明日の日程の確認をしておきましょう。」
「そうですね。」
「ささ―――コみゅ、乃亜…こっちへおいで。」
「えっ? でもぉ…」 「みぅ…。」
「お二人はね―――これから大事なお話があるんだって。 だから…私らは関係ないんだから、隣の寝室に行ってようね、その代わりに、昔話でも聞かせてあげるから―――ね?」
「はぁーい。」 「わかりまちた。」
どうやらご多分に漏れず、コみゅと乃亜乃二人は大はしゃぎ―――余程に大都会に来ていると言う事が嬉しかったのでしょう、けれどもそこはそれ――――キリエ婆が上手く
そしてそれからというものは、アリエリカとシオンは明日の段取りを…キリエ婆とコみゅ・乃亜は隣の寝室で二人の邪魔にならないように、そして明日の事に備えて早目に床に就くようです。
ですが―――― この時… 老婆の口からは、実に若々しい声でこんなことが……
「コみゅ…乃亜、明日手筈通りにあの場所へと赴くわよ…。」
「分かっています―――」 「キリエ様―――」
それはそうと――――どうやら明日の段取りも終え、宿の寝室で休息を取るものと思われていたアリエリカは…
「(はぁ…それにしても…驚きましたわ、よりによってこのわたくしが明日赴く処って、ウェオブリにあるマーヴェラス城だったなんて…。 でも―――アルディアナさんほどの方なら、あのお城にどなたかお知り合いがおられるのでしょうね。 そうであったとしても、不思議ではございませんから…ね。)」
そう…明日の段取りをシオンから聞くに及び、今回のお使いの目的が明らかとなり、その目的もウェオブリにあるマーヴェラス城にあると聞かされた折には正直戸惑いはしたものの、あのアルディアナ女史ならば…と、不思議に納得はしていたようです。
* * * * * * * * * *
そして一日が明け――――今日はシオンと共に明日の下見を兼ねて街中へときたようです。
そんな彼女達とはまた別の場所で、恐らくこの人物はこの国の重臣なのでしょうか…とにかくも
「(イク=ジュン=スカイウォーカー;前回も出てきたこの男性こそ、この国に重きを成す臣である『宰相』)
あぁ~~これこれ、皆、務めに精を出しておるかな?」
「あっ、これはイク様…えぇ、それはもう。 お殿様のお蔭で安心して商いが出来ますよ。」
「ははは、そうかそうか、では――――どれ、この果物の品定めでもしてみるかな?
んん~~旨いっ! 噛んだ時の歯触りと言い、その後口の中に溢れ出すこの甘味の強い果汁といい…どれをとっても申し分がない!」
「あの~~イク様?」
「ぅんっ?何かの。」
「その品物のお代金、ウェオブリ銅貨50と、なっておりますが…」
「(あ゛~)ま、まぁよいではないか。 あとで城の者に持ってこさせるから。 それよりどれ―――もう1個。」
彼―――イクの身分は、この国の内政務官の中でも最高位である『宰相』という立場でした。 その彼自身が
その一方――――アリエリカとシオンは…
「下見のはずですのに…なんだか、とっても緊張してきましたわ。」
「何もそう緊張なされずとも、街中では畏れるような方々はおられない事ですし。」
「そう…ですよ、ね? いけないことだわ、わたくしったら。」
どうやらアリエリカは、今更ながらに『今、自分はひょっとしてとんでもない場所に来ているのでは?』と、思うようになってしまっていたのです。
でもそこはそれ、シオンが上手く
――――すると…まさにその時だったのです。
アリエリカの横を駆けるように行き過ぎようとした子供が…
「うっ―――うぅぅっ…いたぃ、痛いよぅ。」
ナニを―――そんなに急いでいたのか、道端にある石に
しかしこれは、よくよく起こりうる日常茶飯事の光景なのですが…注目すべきはこの後のやり取りなのです。
まず初めに、転んだ子供を見たシオンは、その子供を起こしてやるべく手を差し伸べ、それから
なんとこの時アリエリカはシオンがそうすることのないように一時制したのです。
どうして……?
すると今度はアリエリカがその子供に近付いたようなのですが、これが何もシオンと同じコトをする…と、言うわけではなく、その子供に近付き膝を屈めた後、その口から出た言葉とは――――
「さあ、お立ちなさい。」
「え…?」
「一人で立つのです。」
やもすれば少しばかり厳しい言葉、しかも表情の方も心無しか厳しい面持ちで言ったその言葉は、『一人で立つ』―――と、言う言葉だったのです。
しかし子供は少しぐずつきながらも、一人で立ち―――それを見たアリエリカはいつものように微笑み、
それを見た紫苑は……
「(こ…っ、このやり様―――私がやろうとした事と結果的には同じであっても、それを自力でやれるように促せるとは。 確かに私がやろうとしたことも
「あら、転んだ時に擦り剥いてしまったのね、膝から血が…ちょっと待っててね? はい出来た…しばらくは痛いかも知れないけど、男の子だもの、我慢できるわよね?」
「うんっ! ありがとう、お姉ちゃん!」
手を差し伸べて倒れた子供を起こそうとするのは、実は子供にとっては自立心というのを損なうものではないのか…だからこの姫君はそうはせずに自力で立てるように促したのだ…と、そうシオンは思ったのです。
そして更には、膝を擦り剥いてしまった子供の為にと手持ちの手ぬぐいを裂き、患部に巻いて応急処置をした――――ここまでがアリエリカのやり様だったのです。
それを見るにつけ…
「あら?いかがされたと言うのです?シオンさん…わたくしの顔に何か?」
「いいえ―――それよりも今、私は恥ずかしい気持ちで一杯です。 あの転んでしまった子供起こさずに何をするものか―――と、思っていましたら自発的に促せるようになされるとは…。」
「ですが、それはわたくしの母がそういう方でしたから…」
「お母様が―――?」
「ええ…とても優しくて、でも、その中に厳しさの見え隠れする方でした。 もう――――亡くなってしまいましたが…」
「そう―――でしたか…。 では、今のその優しさと厳しさ…」
「はい、これでまた一つ母に近づけたならと、そう思っております。」
優しさの中の厳しさ――――それこそはアリエリカが自分の母より密かに受け継いだもの…だったに違いはなかったことでしょう。
* * * * * * * * * *
そして―――この一部始終を離れて見ていたこの人物の反応は…
「(あの方は―――確か、アルディアナ殿下の側近でもあるシオン卿…と、言う事はあの方に傍にいるあの女性こそが渦中の人物…と、言うわけか――――
いやはや…それにしても素晴らしきお方だ、我々にも果たしてあそこまで出来うるかどうか…)おっと――――それより今は巡回の途中であったよな。」
そう…この国で一番に重きをなす彼は、総てを見通した上でアリエリカの人物像を
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