第7話―① 刻(とき)の外に棲まう者達

ひょんな事から夜ノ街の外れにある小間物屋―――『キリエ堂』に姿を現せたギルドの構成員の一人サヤ。

実は…彼女は、この店に用があってここに現れたのではなく―――ここの店主であるこの老婆に用があって、その顔を覗かせていた…と、言う事なのです。

見るからに年齢の差に隔たりがありすぎるこの二人…この二人の間には一体なにが―――?


「ところで…さぁ――――」

「……。」

「もう…そんなお芝居なんか、やめなよ。 元の姿に、戻っていいんだよ?」

「はあー--?あぁんだってぇー--?! 元の姿あァー--?! あんたねぇ~、若いからって、あんまし年寄りをからかうもんじゃぁぁ~~~~ないよ。」


「(フッ)もういいんだよ。 ここに来る時、半径三里(約12km)に渡ってここの磁場を歪める結界を張っておいた。 なぁに、家屋敷はそのまんま…だけど、そこにはあんたの姿と、なんら変わりはない“ダミー”がお客の相手をしている事だろう。 だから、気にすることなんて…ないんだよ。」


「……(…ふぅ) ―――そうかい、なんだか、余程の事があった…いや、起きてしまったようなんだねぇ…。」

「あぁ―――そうさ、それを伝えに来たんだ。 だから―――の、あの時と変わらない姿を見せておくれ…」


              ―――友よ


彼女は、確かにそう言ったのです。 年齢差のあるこの老婆に対したった一言…『友』と。


すると、まるでその言葉がキーワードであったかのように―――

この部屋の中の位相が崩れ始め――――まだ明るかった窓の外が暗転し―――

そう…それは、固有領域の次元隔壁が崩壊した事を意味するものだったのです。

そして、一番に奇妙だったのは―――

この店の主であるこの老婆の―――体の周囲が―――まるで何かの防護膜に覆われていたか…のように薄っすらと光を帯び始め―――


           そして   次の瞬間   そこには


                  ・


                  ・


                  ・


この20歳前後のうら若き女性と―――そう変わりはない若き女性の姿が―――存在していたのです。


その、彼女の名は…


「(キリエ=クゥオシム=アグリシャス;??歳;見かけは20歳代後半、しかし彼女の生きてきた時間は常人のそれとは遥かに永い…)

―――お待たせをいたしました。 それにしてもお互いがこの姿で相見あいまみえる事になろうとは…実にお久しぶりにございます。」

「(サヤ=ヴェダ=ゲオルグ;??歳;以前の注釈にもあったように、この者の見かけは20歳前後、しかしその実態は前述のキリエと同様。)

本当に……お互いの正体がここの連中に知れ渡ってしまったら、それこそ迫害どころの騒ぎじゃあ収まらないからねぇ…。」

「ええ、本当に…。 我等とあなたの種族は人間からしてみると天敵の何者でもない―――それゆえに永きにわたって陽の当たることのない処で息を潜めながらでしたが…」

「ああ、とあるお方の出現で…アタシの主上とあんたんとこの主上―――その二人だけがあの方の側に仕えることを赦されたんだからね。 見かけどころかその気持ちは他とは一向に代わりはしない―――って言うのに…」

「ですが――――あのお方…皇だけは違った。 我等『竜眷属ハイランダー』とあなた方の種『吸血鬼ヴァンパイア』…そのどちらも人間と分け隔てる事なく愛して下さった。」

「あぁ―――その事が分かった時、主上泣いてたよ…嬉しくて、嬉しくってさァ―――そう言う人柄でもないのに…。」

「それはこちらとて同じことです。 『たとい同族から怨まれる事になろうとも、我等を愛して下さったお方に刃を向ける事はならぬ―――』そう言い鮮血の舞う戦場へとその身を投じた事ですからね。」


この二人、自分達の事を『竜眷属ハイランダー』に『吸血鬼ヴァンパイア』とは…それにしても皇の治世(今より約7万年前)の事をつまびらかに出来るとは、成る程―――彼女達の謎めいた一面が今にしてようやく分かってきたようです。


「それよりも…申し訳ありません。 私もこのような身でなければ共に探し合えたものを。」

「いや、気にすることはないんだよ。 アタシもようやくここに慣れてきた――― ってとこだしね?」

「(ふ・ぅ…)私の…この、直情径行なところさえなければ…『お前は感情が出やすいのが欠点だ』と、よく主上にたしなめられたものです。 ところで―――今日こちらに赴く事になった用件…とは、よもやとは思いますが。」

「ああ、あんたの思っている通り。 あのお方の魂を持ったお方が現れたんだよ。」

「そうですか―――数年前、西の列強『ラー・ジャ』に現れた…と聞き及んでいましたが、今度こそ間違いはないようなのですね。」

「あぁ―――あちらの方はアタシが確かめに行く前に亡くなったそうだけど…今度のお方こそは間違えようがない。 何しろこの確かめてきた事だしね…。」

「(フッ)あなたの眼力は昔から定評がありましたからね。」

「(フフ…)ありがと。 取り分けあんたからそう言ってもらえると嬉しいよ。」


「それで…いかがでしたか?」

「その―――瞳の奥に宿されたる頑健たる意思と万物を癒すほどの慈愛…どれだけとうがアタシが見紛みまごうはずもない。 7万年前にお伺いした皇の瞳そのままだったよ。」

「そうでしたか…ならば私も一目お会いしたいものです。」

「ああ、会うといいさ。 お山の―――『ゾハル山』に棲むというあんたの主上に会った後でね。」

「はい―――」


こうして2人の友は、互いの別れを惜しむかのようにその店を後にしたのです。

(この後の記述は、本編を参照の事―――)



それにしてもサヤは気になる事を言っていましたね? そう、通称“お山”と云われる山『ゾハル山と…この山はいにしえから―――そう、あの皇の治世の頃からとある恐るべき者が棲まう処として畏怖の対象ともなっていたのです。


では、その『とある恐るべき者』とは―――


常に灼熱の焔を身に纏い―――その身には焔よりも紅きとされる―――熾緋なる鱗

そしてその身の丈は―――まるで小山を思わせるかのような―――巨大な龍


その龍を主と仰ぐ、彼女もまたそうなのでしょうか?


そうこうしているうちに夜が明け、これからどこかへ出かけるのか…余所行きの衣装に気持ちばかりの手荷物―――旅支度を終えたキリエが一路向かった先こそは…


             『ゾハル山』


実は、この『ゾハル』という山はかつては手がつけられないほどの活火山として知られており、そのとある恐るべき者―――くだんの巨大な龍が棲まう以前には山全体が炎で包まれているという“凶山”として畏れられていたのです。


それでは今は違うのか―――?


そう―――その龍が居つく事により山を覆っていた炎は自然と収まり、変わって霊験あらたかな場所“霊山”に生まれ変わったというのです。


では、その位置は―――このガルバディア大陸の南西の方角、そこに行き着くには列強の一つ『ラー・ジャ』と、『サライ』を通過しなければならず、またこの大陸にある二つの大河『レテ』『アーケロン』を渡り、加えて一つの山脈を乗り越えなければいけない…と言った全行程でも数ヶ月を要する旅路だったのです。


         * * * * * * * * * *


この旅の行程では何事も起こらず―――無事サライに入国。

この大陸を縦断するかのような山脈を越え、彼女の目的としているゾハル山に着いたようです。

そしてその山の中腹にあるとされる洞窟へと足を運ばせるキリエ。

その洞窟内部とは、奥に行くに従いだんだんと狭まり、ついには行き止まりになってしまっていたのです。

しかし伝承の通りならここには小山を思わせるかのような巨大な竜が棲んでいるはずなのに…とすると、今まで行き止まりかと思われた目の前の岩壁が動き―――そこからはなんとも大きな眼が!?キリエの方を向いていたのです。


すると、キリエは―――


「お久しぶりにございます、お方様―――」


そうすると間もなくして目の前の目がついた壁はゆっくりと離れ、キリエを奥へといざないこんだのです。


そうすると謎だったこの洞窟の全容が―――

なんとこの場所は、入り口からここまで大凡おおよそが想像もつかないような広大なる空間を抱えていたのです。


そして―――そこにはかの伝承の通り熾緋なる鱗で覆われた―――強大な竜がいたのです。

すると、その竜…おもむろろにキリエに顔を近付かせると―――



{お帰り…我が子よ。}

「はい―――…。」


匂いを嗅ぎ、実の子であることを確かめたのです。

すると―――そこにはまた先程とは明らかに違う光景が…

そう―――先程までいたあの巨大な竜はその姿を消し…その代わりに、一人の少女が――――


その少女、名を――――


「(ヱリヤ=プレイズ=アトーカシャ;??歳;女性;一見すると8歳くらいの少女、しかし今までいた巨大な竜が姿を消し、代わりにこの少女が…とは。 そう、あの竜が人型ひとがたの姿になったのが、この少女なのではあるが…キリエの態度見ていると、キリエより数段上の能力を有しているのは明らか。)

ご苦労だったわね―――キリエ。」

「いえこの程度、皇の苦労の一つにもなりません。」

「そうね―――それよりも、何?私の休みの時間を割いてまで急ぐ理由でもあったの。」 

「はい、実は――――…」


          ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その一方で―――吸血鬼ヴァンパイアのサヤは…と、言うと。

彼女が一路目指したのは夜ノ街より遥か東…通称『血溜りの谷』と呼ばれている――ヴァルドノフスク渓谷…

実はこの渓谷、そう呼ばれるのには所以があるからなのです。

では、その所以とは―――

この渓谷は二つの列強『クーナ』『ハイネスブルグ』の狭間にありながらも深い森に覆われており、その上よく晴れ上がった日でも濃い霧が絶えなかったのです。


しかも朝なり―――夕なり―――その霧に陽が当たると、そこは一面血を思わせるような真紅に染まり上がった事からそのような呼称がついてしまったのです。

それ故にこの二国間を行き交う人々は、この迷いの森と呼べるこの場所に好き好んで足を踏み入れる者はおらず、皆迂回や遠回りをして避けて通っていたのです。

しかし―――どうしても止むを得ない理由でこの森を突っ切ろうとする者も少なくなく…でもご多分に漏れず森と霧の魔性の所為せいにより通過できるのは全体の一割も満たしていなかったのです。

しかもおあつらえ向きに運良く生きてこの森を抜け出せた者もそのげんによれば…


『数多くの干からびた人の屍体や、人外の者達のそれを見た―――』


とか―――


『白く透けるような美女がそれらに近付くのを見た―――』


とか云っており、それ故この地方ではとある者の出現の噂が絶えなかったのです。

では、そのある者とは…


総ての―――生きとし生ける者の―――その生命を糧として生くる者―――『吸血鬼ヴァンパイア


ではどうしてサヤが、一見してこの奇妙な名称と噂のついて回る場所に向かっているのか―――


それは―――


その渓谷より先にはいにしえの昔よりある『お城』と呼ばれる―――ヴァルドノフスク城(またの名を、『吸血城』)が、あるから。

そしてそこは…彼女自身生まれ育った場所でもあるから…。


そして――今、彼女の目の前には…

あの凶々まがまがしい森の伝承とは裏腹な中世欧州の城を思わせるようなその景観もさることながら、それは立派な大層な造りの『お城』が―――

それからこの城のバロック調の扉を開け、正面玄関の大ホールに入るとそこには…

この城の主、ましてや使用人など居らず、サヤ一人がたたずんでいるだけ―――だったのです。


でも、もしかすると今の城主はサヤなのでは?と、言う疑問も浮かんでは来るのですが…実はこの城、今も昔も変わることはなくとある方の所有物なのです。


その証拠―――サヤがこの城の主ではない証として…

この大ホールに飾られている200号はあろうかという大きな肖像画――――

そこにはそれは美しい…まるで絶世の美女を思わせるかのような妖艶な女性が…


「(主上…我が君。)」


するとサヤは、礼もそこそこにするとおもむろに自分が持っていた小剣を―――! なんと…自分の二の腕に突き立たせ、そのまま縦一文字に切り裂いたのです。

そして当然の如く流れ出る、おびただしいまでの血の量…その血は瞬く間に城の大広間の床を朱に染め…すると―――そこが血の海になるかと思いきや、まるで乾いた砂地が水を取り込むかのように地下のほうへと浸透していったのです。


では先程まで床一面を朱に染めていた血はどこへ―――?? それは―――それはこの城の地下400mにあるとされる棺の中へ―――その棺とは遥かな昔に既に亡くなったとされるこの城主のモノだったのです。


「どうもお待たせを…我が君。」


「(エルム=シュターデン=カーミラ;??歳;女性;この城『ヴァルドノフスク城』の城主、忠実なる下僕の血により復活せしめた恐ろしくも美しいヴァンパイアの『真祖』。 ちなみにその美しさは、『月も光を消し、華も恥らう』とたとえられたほど。)

ご苦労であった――― わが娘よ。」

「はいっ。」

「それよりどうしたんだい、7万年の眠りより私を起こした―――と、言う事は…」

「はい、お察しの通り…我らの主君が復活しつつある―――と、言うことです。」

「ふむ、それは確かによろこばしい事ではあるが、残念ながら今の私は不完全な状態だ、魔力も以前からのと比べると遥かに弱くなってきている…。 ゆえに、これからお前に命じます。 サヤ…忠実なるわが娘よ、今より血と魂を666集めてくるのです。 分かっているわね―――?」


「は…はぁ――――…」

「(ん?)な、なんだい?歯切れが悪いねぇ…もしかしてお前、私の言う事が聞けないっていうのかい?」

「い、いえ―――そうじゃなくって…それじゃあ一つ聞いていいですか?」

「(うん?)なんだい…」

「あのぅ…その血と魂―――って、人間のモノなんですよねぇ?」

「(な…)ナニを言ってんだい!お前! あんな…口当たりもドロぉ~~っとしてて、脂くっさいのをこの私に飲ませる気ィ?!」

「(あ゛ー--)じ、じやあー--オークとか、ホブ・ゴブリンとかのですかぁ?」

「サ・ヤ…あんたって子は! あんな豚臭いのやらイカ臭いのを飲めッてのかいっ! おおぉー--イヤだ…考えただけでも鳥肌が立ってくるよ。」

「そッ…それじゃあ具体的に何を採ってくりゃあいいんです?」

「(へッ??)あ゛~~~ー-そ、それは…だねえ。 (えと…)つまり…そのぅー--い、いぃ~~から何でも採ってくりゃあいいんだよッ!」

「(はぁ~~あ…)はぁいはい…つまり、…死にかけたのやら死んで三日目ぐらいので取り分けよさそうなのを見繕ってくればいいんですよね?」

「うんうん、そうそう…死んでしまったり、今にも死にそうな者には必ず悔恨の情というものがある。 それを出し尽くした者の血はねぇ~それはそれは喉越しも良くって…味もまろやかでいて―――(って)な、なぁ~んで、そんな説明臭い事を私がせにゃあならんのだっ! とっととお行きっ―――!」


「(はぁぁ~~あ…結局だもんなぁ~~素直に『生きててどくどくと流れてるのは苦手』って言えばいいのに…それにしても、あれだよねぇ~?我が君ってば吸血鬼ヴァンパイアのクセに、生血しょうけつが苦手ー--だなんて…だったら何で吸血鬼ヴァンパイアなんかになろうと思ったんだろうかね?)」


とまあ、説明臭い台詞を二・三交わした後、この真祖の忠実な僕であるサヤはこれから自分の主の真の復活へといそむべく、各地を奔走する事となるのです。


しかし…それにしてもこのエルムという真祖、生きとし生ける者の血と魂を糧とする種族でありながらも、そう言うのは全くといっていいほど苦手…だったなんて、随分と変り種もあったものですね。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


閑話休題それはさておき――――場面は一転してあのゾハル山での主と従者の会話の続きです。


「はい、実は――――あのお方…我等がしんに主と仰ぐべきお方が今の世に現れたよしにございます。」


「はあ~??確か…14年前もそう言って、私を叩き起こしたばかりよね。」

「(あ…)も、申し訳ありません…。 で、ですが―――あの14年前の方は確認を採りに行く寸前でその訃報がなされてしまいまして…。」

「困るのよねぇ~~そう言うのって。 もう少し慎重に対処してもらわないと。」

「ご…ごもっともな事で……。」

「お影で変に早く目覚めちゃったりしてさぁ…仕様がないから、ここに迷い込んできたりしたのを驚かせて遊んでたんだけど…」(くどくど・ぶちぶち)

「は…あ…(そ、それはビックリするでしょうねえ…何せ行き止まりと思っていた壁から急に大きな目が現れるんですもの…)」

「ちょっと―――! キリエ!聞いてるの!?」 「えっ、あっ、は、はい。」

「全く―――…それで?今度こそは本物だって確証はもてるの?」 「ええ――! それはもう! 何しろもう一方ひとかたの協力者からのお墨付きを頂いておりますし…」

「ふぅん…。 (ん―――?)なんだと?」 「はい?なにが―――です?」

「お前…確か今、『もう一方ひとかたの協力者』…だとか言ったわよね?」 「は…はい―――言いました…けど? それがナニか―――…」

「ま・さ・か…とは思うけど…――――の事か?」


「え゛っ?(あ゛ッ…し、しぃ~まったああ―――そうだった!確か主上とあのお方とは、あの時(7万年前)よりケンカ別れしてたんだったぁぁぁ~~)あっ…あのぉ~~~いや、そのぉー--ですね…」


       ―――燃えておしまいなさあ゛~い゛っ!―――

         =エクスプローズン・ストライク=


ふとしたきっかけで、ついつい口を滑らせてしまったキリエ。

そう…同じくしてこの世に存在した別の種、かの吸血鬼ヴァンパイア達とは7万年前に袂をわかっていたというのです。(でも…その下で仕えている者―――つまりキリエとサヤは別段仲が悪そうに見えはしないのですが?)


そのことを自分の従者より聞いたヱリヤは、緋色の焔をキリエにぶつけたようです。(つまりは、お♡し♡お♡き♡)〕


「(よ…余計な事を、言うんじゃなかったあ~)あちち…」(←こんがりアフロ♡)


「まぁったく…その程度で済んで運が良かったと思いなさいよね!」 「は…はぃ。」

「(ふぅ…む)―――と、言う事は…あやつもこの事を知っていると見るべきよね…。 まあ仕方がないわ、それは過ぎてしまった事として対処をしなければ…迂闊な行動は忌むべきだわ。」

「それでは―――今後我等はどのように動けば?」

「それより―――気になるのは以前にあのお方に敵対しおいたあの男の存在…20年ほど前にその復活がささやかれだしてはいたけれど…その辺はどうなっているの?」

「(…)はい。 実を申しますと今現在、あのお方―――『皇の御魂』をお持ちでいらっしゃる方が現在私めが身を潜めている処に来られたのにも、あの男―――『サウロン』めが動き出している事に関与しているものではないか…と。」

「ナニっ?! では…」

「はい。 どうやらそのお力が真にお目覚めになる―――その前に仕留めようとしていた事に相違ありません。」

「そう――――…では迷う事はない。 キリエ、お前は今よりあの方の護衛をして差し上げるのだ。 そして一カ月おきにあの方の封がどのような状態であるのか、私のところに報告に来て頂戴。」

「は―――畏まりました。 それで主上はいかがなされるおつもりで?」

「私?私は…ここに居残ってしなければならない事があるわ。」

「それは―――『サライ』の事ですか…」

「ええ…あの者達が今後どう動くか―――未知数だものね。 これだけは仕方がない…時間をかけるより他は。」

「分かりました…それではこれより、第一級の使命としてあのお方をお護りしたいと思います。」


こうして―――その二つの強大な存在は、互いの手段を違わせながらも、確実に動き出していったのです。




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