第52話 袋に穴を開ける
「大丈夫ですよリシャール。先程より魔力が薄まっているでしょう?」
「それはそうですが……一体何が?」
「イレヌルタ様とデュラはん様にご協力頂きました。アストルム山を取り巻くアブソルトの魔力回路を現在破壊しています」
「何のために?」
「この聖域に溜め込まれた魔力を少しでも減らして『初期化』時に安全になるようにです」
[調査:アブソルト回路>破損]
[調査:ラルフュールたんの家>魔力]
急いでアブソルトの回路状況と聖域の魔力量を調べた。
確かにアブソルトの魔力回路の中でも地表に極めて近い場所で魔力回路の破損が生じている。そしてこの破壊の移動速度は空を飛んだとでもいわれなければ信じられない速さと距離。
今もまた一つ魔力回路が破損された。そしてリアルタイムだからこそ、その部分からこの聖域に溜まりきっていた魔力が流れ出し、アストルム山の外に排出されるのが確認できた。そしてこれまで破損した箇所からも継続的に魔力が放出されている。
「な、なんで?」
「マルセスとデュラはん殿が仰るには、水を入れた皮袋に穴をあけると水が流れ出るようなもの、ということでしたが本当にこのようになるとは……」
ーあの、魔力は水ではないのですが……。
水? 袋?
ここは聖域で、聖域が袋? 魔力が水?
袋????
何でそんな発想がわくのかさっぱりわからないんですけど!?
けれども魔力が減れば、噴火の危険は低くなる。おそらく封印が解けてた後も、たくさんの破損箇所があればそこからも魔力が漏れるようになると思う多分。多分?
でもこれで安全になった?
それでも魔力は未だに僕の周りに堆積して溢れかえっている。ここは外とは違って魔力の溢れた聖域の中なんだ。
結局のところ問題点は変わっていない。僕が『初期化』をするだけだ。『再インストール』に必要な現在のアブソルトの術式情報は先程僕がすでに『コンパイル』してラルフュール様にお渡ししたから『初期化』の術式を唱えるだけ。
けれども2人に聖域から出ていただかないと僕は術式を唱えられない。
「あの、今はここの魔力は減っていますが、王都カレルギアの破損自体は修復しなければなりません、よね」
「そんなことはわかっておる」
「だから、お2人ともここを出てください」
「断る」
どうしよう。
魔力の圧力は低まったとは言え、ここで言い争っているだけでリシャールさんが魔力体になる危険性。それは依然消えてはいない。でも出ていってくれそうな気配はない。
それから気になることがある。今アブソルトの魔力回路の破損は11箇所。多分このアブソルト山の外周に沿って破損させているとしたら、あと半分弱じゃないだろうか。
これがデュラはんが『スピリッツ・アイ』を使用して破損しているのだとすると、デュラはんは大丈夫かな。デュラはんは『スピリッツ・アイ』を使うと魔石になってしまう。
それに最初の方は同じくらいの大きさの破損だったのに最近の3つくらいの大きさはバラバラだ。1回使っただけでもあんなに苦しそうだったのに10回も『スピリッツ・アイ』を使うなんて大丈夫かな。とても心配だ。ひょっとしたらすでに制御が効かなくなってたりするのかもしれない。
全部魔石になってしまうと死んじゃう、よね。
だから早く封印を解かないといけないのに。
「リシャール、ボニ様。このままではただ時間がすぎゆくだけです。そこで1つご提案があります」
「母様?」
「ボニ様、私は先程体の方に戻ってみたのですがやはり元の体に戻れませんでした」
「そう、ですか……」
やっぱりそうなのか。
この聖域のような高魔力の場所に長時間いれば、魂の器が壊れて侵食されて魔力体になってしまう。
皇后様は僕が帝都カレルギアで接続した時から聖域にこもられていたはずだ。あの高濃度の魔力の中で6時間以上はおられたのだろう。それにおそらく、神子としての長年の積み重ねも考えると。
僕が安易に接続したりしなければ。僕は何てことを。
「ボニ様、そこでご提案なのですが、私に術式をお伝え下さい。私は消滅してもかまいませんので」
「何をおっしゃるのです⁉ それに私は誰にも術式を教えるつもりはありません!」
「ボニ様、私はもう体には戻れません。ですからここで聞いたことを話すこともできないでしょう。話そうと思っても誰にも。それにボニ様のアブシウムの誓約も、体ではなく魂で存在するこの場では効力を有しません」
「確かにそれは、そうなのでしょうが……」
皇后様は既にほぼ魔力体になられているのだろう。神殿で見た時ですらすでに体から魔力が漏れている状態だった。だから本当にもう、体には戻れない、んだと思う。体がないと動くことも話すこともできない。後悔で目の前が暗くなる。
体に戻れないのならいずれ外の世界にいても魔力体が体から流出してしまって空気中に拡散されてしまう。人間は精霊のように魔力の姿では存在できないんだ、特に精霊ですら存在できないこの領域では。
けれども……。
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