第26話 サイモン真実を知る
サイモンは、義妹であるエヴァを姉のアグニエスカが魔法を使って迫害していたという話を聞いて、婚約破棄を決意したのだが、そもそも、エヴァはサイモンに対して嘘ばかりついている。妊娠についてもそうであるし、サイモンと結婚したいという言葉も嘘だった。
だとするのなら、本当のところはどうだったのかと、サイモンは今、隣に座るアグニエスカに尋ねずにはいられなかったのだ。
「そもそも、私がエヴァを虐め抜いていたと言い切るところからして無理があったんですよ。そりゃあ、十何年も親子三人で暮らしていたんですから、成人したからっていう理由で戻ってきた腹違いの子供の居場所なんてあるわけがないですし。使用人からも白い目で見られるし、私、あそこの家に移動してから下着一枚、ドレス一枚購入出来ていなかったんです。温かい紅茶の一つも飲んだことがない程です。食事だけは、子供の時の虐待で栄養失調にさせた経緯があるので、まともに出してはもらいましたけど、いつも部屋の前に置かれているだけで、置いたとしても声もかけられない状態です。どうしてもお金が必要な時はスコリモフスキ家にお小遣いとして貰っていたくらいなんですから」
「それじゃあ、火傷についても嘘?」
「当たり前じゃないですか!スコリモフスキ家の出来損ないと言われる私ができるのは痛みを取るだけなんです。火魔法なんてとても!とても!そもそも火魔法が得意なのはエヴァでしょ?自作自演にも程があるっていうんですよ!」
「な・・・」
「それでみんなで寄ってたかって非難して、カバンに最低限の荷物だけ詰め込まれて外に放り出されて、だったら最初っから王都に呼ぶなって心底思いましたし」
「な・・な・・・そんな・・・だったら抗議すれば良かったじゃないですか?僕にも直接説明してくださったら良かったのに!」
「だって、サイモン様は私のような赤毛は身震いするほど嫌いなのでしょう?」
アグニエスカは憂いを含んだ瞳で自分の髪の毛を見つめるとため息をつきながら言い出した。
「サイモン様のお婆様が私みたいな赤毛だったそうですよね?私を見ると自分を虐めたお婆様を思い出して辛いって、そう異母妹のエヴァから聞きましたけど」
「僕の祖母は銀髪ですが」
「はあ?」
「母型の祖母は金髪、父型の祖母は銀髪です」
「赤じゃないの?」
サイモンは気を取り直すように、ごほんと咳払いを一つした。
「あの、アグニエスカさんは大層な魔力持ちですよね?」
「そうみたいですね?有効活用できてないんで全く実感ないんですけど」
「アグニエスカさんは、僕が魔力を持たないという事を知っていて、馬鹿にしているというか、嘲っているというか、スコリモフスキ家にそぐわないというか、そういった感情をお持ちだったと思うのですが?」
「はあ?」
新緑の瞳を見開いて、アグニエスカは呆れたような表情を浮かべた。
「なんで私がサイモン様を馬鹿にするんですか?私、痛みしか取ることが出来ないスコリモフスキ家の能無しですよ?」
「ええ?」
「ほぼほぼ、魔力なしと同じ状況ですよ?火・水・風・土・光・闇魔法一切使えないですし、生活魔法と呼ばれるものすら使えません。本当に、痛みを取ることしか出来ないんですから」
「いや・・痛みを取るだけでも凄いと思いますけど・・・」
彼女のおかげで血を吐くような胃の痛みが治ったのだから、彼女は能無しではないとサイモンは思う。
「やっぱり、エヴァの大事な物を壊したと言うのも嘘ですよね?」
「大切な物を壊されたのは私です」
アグニエスカは大きなため息を吐き出した。
「だけど今更、そんなことを言ったところで何の足しにもなりませんよ。サイモン様はエヴァと婚約をしているのですし、近々結婚されるのでしょう?二人が愛し合って人生を送っていくのであれば、私が何も言う事などありません」
サイモンの瞳から涙がぼたぼたこぼれ落ちた。ため息をついてハンカチを奪い取ったアグニエスカは、サイモンの涙を拭き取りながら問いかける。
「なんなんですか?浮気ですか?浮気でもされたんですか?浮気現場に出くわした女の子みたいな反応ですけど、いったい何があったんですか?」
そう問われたので、サイモンはさっきあった出来事を、全て吐き出してしまったのだった。
アグニエスカは最後まで一切口を挟まずに話を聞くと、ため息を吐き出した。
「サイモン様はまだ完全に浮気されたわけじゃないんだからいいじゃないですか?向こうがサイモン様に見切りをつけて新しい相手を探しているのなら、サイモン様も早々に見切りをつけて、新しい相手を見つければいいじゃないですか?」
「いや・・でも・・・」
「なんですか?この際だから言っちゃってくださいよ」
「いや・・・でも・・・僕はエヴァと深い仲というか・・・」
「体の関係をもったんですか?でも、サイモン様が初めての相手じゃないんだからいいんじゃないですか?捨てちゃっても」
「はあ?」
「実家でメイドと話しているのを聞いたことがあるんですよ。行為の後にこっそり香水瓶に用意したトマトジュースをシーツになすりつけておくんですって。痛がる演技の後にシーツの跡を見せたら、処女だったと信じない男はいないって。わざわざシーツに鼻をこすりつけて確認する人も居ないでしょうしね」
「え・・えええええ?」
「これもメイドと話しているのをこっそり聞いただけなんですけど、エヴァの初めての相手はツィブルスキ侯爵子息だそうですよ。女性関係が華やかな人なんだそうで、初めてを済ませるには優しいし、テクニシャンだしで、うってつけの人物らしいですよ」
サイモンはベンチから滑り落ちそうになってしまった。
だって、とにかく僕は、責任をとろうと思っていたわけで・・
「気に入った男については躊躇なくベッドに潜り込んで、メイドとサイズについて話をするのが彼女の娯楽の一つみたいで」
「もういい!もういいです!わかりました!」
こみいった話すぎて胃だけでなく頭まで痛くなってきた。
「痛み取りましょうか?」
アグニエスカが頭を触ると、サイモンの頭の痛みがふっと消えた。
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