第49話 そのパターンもあるかぁ…
今、渉の目の前には数人の学生が居る。
日本時間で5日前、和歌山で発生したクラス召喚の被害者たちである。
現地時間ではすでに8日目となっていた。
召喚された人数は26名、午後の授業中の事であった。
午後のけだるい時間、授業を行っていた教師の目の前での出来事。
光に飲み込まれ消えた生徒達を茫然と見送る事となった教師は、現在カウンセリング中。
目の前で生徒が消えた。そんな突拍子もない出来事が起これば、当然と言えば当然であるのだが、錯乱した教師からの事情聴取は難航する事となる。
学校側が担当教師に話を聞くも埒が明かず、異世界科和歌山支部が到着する頃には、すでに16時を回っていた。
渉が報告を受け、和歌山へと向かったのは召喚から2日後の事、別件の召喚事件と重なっていたのだ。
ある程度の話し合いが済、帰還してみれば別の事件である。
空を飛び、上空で端末を確認しながら渉は自分のブラック扱いに溜息を付くこととなる。
時空の歪みの影響で、合流に時差が発生したが、8日目に合流できたのは僥倖であった。
生徒達との話し合いを行い、この世界の住人とも話し合った結果。
今回に関しては生徒の内2名がこの世界に残ると決めたようだ。
他の23名は日本に戻る事を最初から決めていたようだ。
残ると言った2名の生徒。かなり強い力を与えられており、そもそも元からファンタジーに憧れを抱いていた。
クラスメイト達の説得に聞き耳を持たず、この世界での成り上がりに夢を抱いている。
そんな彼らを黙って見つめる渉。
あくまで決めるのは本人たち。その意志は尊重されるのだ。
そんな話し合いの裏側で、渉もまた動いていた。
この世界の住人に話を聞く、現状の確認は怠らない。のだが、話を聞くにあまり世界の危険は感じられなかった。
神の盟約により、魔王軍が人族へと進行を開始するのは4年後。それも、50年周期であり、戦争期間も1年のみと定められているとの事。
そんな話を聞いた渉は当然呆れた。
なんと言うべきか、それはゲームで言う陣取り合戦であった。
お互いに争うことは決定しているが、その勝敗の決め方が特殊であった。その勝敗の決め方は2つ。
1,どれだけ指定の領地に侵攻出来たか。
普通ならば侵攻したエリアごと相手の物に成るのだが、この場合の指定のエリアとは、最初から空白地帯とされているのだ。
戦争に勝った種族が、向こう50年間そのエリアを独占する。
普通に考えれば、戦争地帯は荒廃した土地になるのだが、何と言うべきか、神が土地に加護を与えており、終戦後、速やかに利用できるようになっていた。
しかも、そのエリアは広大な作物地帯であり穀物地帯でもある。50年の食料供給が安定するというもの。
さらにさらに付け加えるならば、どちらの種族も十分賄えるほどである。
そうなるとどうなるのか?
一種族では食べきれないのだ。勝った種族が、負けた種族へと食料を輸出する事となる。
この話を聞いただけで、なんとも呆れてしまった。
2,該当エリアに置いての死亡者数
該当エリアに置いての死亡者が多ければ、多いほど侵攻したエリアが減退される。
つまり、死んだ人数分、後退する事となる。1歩進んで10歩も20歩も下がる事となるのだ。
ただし、相手を殺した分の加点は0.2歩分である。
この戦争を総合的、客観的に考えると戦略方法は決まってくる。
いかに相手と接触せずエリアを拡大するか、となってくるのだ。
何せ相手を殺した所で対して進めない、自軍の兵士を戦闘で殺られるくらいなら、生きたままエリア拡大に走らせた方が有効なのだ。
今まで殺伐とした世界しか見てこなかった渉からしてみれば、何とも平和的な戦争である。
もういっその事、相手国へ直接侵攻すればいいのでは?などと物騒な事を言い出した渉に対し、神の意向を故そんな事は出来ないと返事がきた。
一体何を考えてこんなシステムを考えたのか、渉は遠い目をしていた。
調査の結果分かった事と言えば、ダンジョンが有り、モンスターが居る。が、ダンジョンスタンピードは20年に1回有るかどうか、モンスターも世界を滅ぼすどころか街1つ半壊出来る程度の強さ。
そんな中、英雄と呼ばれる存在は人の範疇で在り、今回召喚され、残る事を決めた彼らはオレTsueeeeee、には成れそうにない。精々オレつぇ程度だ。
──まあ、平和的な世界だわ。今回召喚した理由も3連敗中だから、だったからなぁ~。
誓約書にさっさと記入してしまった2人。一度交わされた神との契約は覆すことは出来ない。
2人にはもっと慎重になる事をお勧めしたい。「教訓にはなったか…」などと渉は呟いているが、一生を賭けた教訓である。
クラスメイト達を見送り、どうするかと聞けば「もちろんダンジョンで鍛えます!」などと安直なセリフが帰ってきた。
「俺達で魔族を倒しまくってやるんだ!」
いや、殺しは推奨されていない。精々戦場を素早く掛けまわるくらいだ。などとは渉は言わなかった。
どんな世界であれ、努力は必要なのだ。ダンジョンで鍛える、大いに結構な話だ。
それとなくこの場所の王に見守ってくれるよう、話だけは付けて置こう。渉は彼らを笑顔で見送る
ある程度、この世界について把握し、召喚者達の対応を終えた渉。
「はぁ~…、さてと向かうとしますかね」
問題がもう一つ残っているのだ。
もうお気づきかと思うが、帰還者は23名、残留希望者は2名、召喚者は26名。
そうもう1名居るのだ。
「えーっと、面会希望をした日本国の加賀美と申します」
「はっ!お話は伺っております。案内いたしますゆへご同行願います」
黒い甲冑を身に纏い、そう答えたのは門番と共に待機していた兵士である。
黙って彼の後を付いていく渉。
豪華な扉の前、彼は衛兵に話をすると扉が開かれる。
謁見の間、中央まであゆみ出るとその場で膝を付き、首をたれ待機する渉。
「王の登場である、皆控えよ!」
控えた渉は、何者かの気配がゆっくり正面へと移動する事を感じていた。そして…
「お、表をあげt…上げよ」
渉は王から腹筋に攻撃を受けていた。
「異世界科の加賀美殿、よ、よくぞ参られた。『た…助けて』」
「魔王様、ご機嫌麗しく存じます。本日はお目通り戴感謝いたします」
「来るしゅうない?よきに計らえぃ」
「は、ありがたきお言葉、恐れ入ります」
なんと言って良いのか、とても魔王には見えない。魔王の表情は完全に引きつっている。
「か、かの者と話をいたす、別室を用意せよ」
「し、しかし魔王様それはあまりに危険では?」
「構わぬ、彼は…知人、そう我の友である。何も問題ない」
魔王の行動一つ一つが渉の腹筋を攻撃して来る。
「では、しばしお待ちを」
そう言い残し、席を外した側近を横目で確認した魔王は渉にだけ聞こえるように、日本語で話す。
『加賀美さん、助けて!』
『受ける~w』
『草はやさないで下さい』
『ま、この後しっかり説明するから、それで判断してくれ』
チラチラと周りの様子を伺いながら、渉に視線を送る彼。
そう、召喚された最後の1名。
なんと彼は魔王として召喚されたのであった。
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