第24話 攻略の為に

「やあ、進捗状況はどうなってます?」


 そんな気軽に声を掛けてくる渉に対し、苦い顔をしたリリィは忌々しそうに答えてくる。


「良くないわね、10階層攻略後止まったままよ」


「そうですか」




 ダンジョン攻略に取り組み早2か月。


 当初疑心暗鬼のスミス指令であったが、人体影響エリアの範囲外から、優秀な狙撃手による戦車ライフルでの同時狙撃、あっさりと地上のトロール撃退に成功する。

 

 トロールが倒れ、しばらくすると扉が現れた。どんな原理なのか理解は出来なかったが、渉の言った事が事実であると確信。政府への救援要請は速やかに行われた。


 もちろん、当初はそんな突拍子もない報告を、すんなり理解出来た議員は居なかった。だが、一緒に送られて来た証拠動画に、頭を悩ませることとなる。


 現地に再度調査員を派遣し、事実確認を行った結果すべて事実であった。


 ならば、と戦闘車両の導入も検討されるが問題が発生する。

 入口の幅が狭く車両1台がギリギリで通れるが、どこまで進めるか分からない事、尚且つ扉の先に電波が届かない為、乗り込み型の車両が必要になる事であった。


 遠隔操縦で行われる戦争時代ではあるが、当然人による戦闘訓練も行っていた。それでも兵士の命が懸かっているた為、車両の改修や有線による移動、博物館などにある過去の車両を持ち出す事も討された。


 だが、進んだ先に何があるのか分からない。どれほど進むのか、どこまで進めるのか、そんな状況ではそうそう予算を注ぎ込めない。

 改修するなら、より威力のある武器を導入した方が良い。改修期間中どんな事が起こるのかも判らない、ならば早めに対応すべき。


 色々な意見が飛び交うが、中々結論は出なかった。だが、今の段階でも人の手でモンスターは倒せている。そんな誰かの一声で、対応が決定する。


 結果、政府は人海戦術による攻略という結論となる。


 決定からの政府の対応は素早く、軍隊より優秀な人物を募りダンジョン攻略部隊を編成、ダンジョン攻略部隊は祖国の為、突入する事となる。




 そんな部隊には突入前、必ず触れる事を義務付けられた透明な玉がある。


 渉が持ってきたそれは、触れることでこのエリアに入っても、人体に悪影響を及ぼす事が無くなる物であった。


 見た目はただの透明な玉。


 だが、効果は絶大。体調不良を訴える者は居らず、それでいて暑さや寒さといった者も緩和してくれる。どれだけ軽装でも寒さを感じない、重装備でも暑苦しさを感じない。快適と言って良かった。


 もちろん、最初は兵士達に起こった現象を不思議に思う。

 理由を渉に聞くも、特に渉からの説明は無かった。その内これはそういう物だと認識し、特に何も言わなくなる。


 渉が持ってきた物、それは異世界で手に入れた環境適応の魔道具。


 ダンジョンの世界は過酷だ。そんな現状を緩和するため、ある世界の魔道具技師が考え出した魔道具である。

 その効果は絶大で、効果時間は突入から脱出まで。どうやって効果を維持させているのか。それは魔道具技師の秘術の為不明だが、その世界でのダンジョン攻略に大いに役に立っている。


 実際、渉も興味があり訪問したことがあるのだが、結果「秘密じゃ」などと言われガッカリする事となる。が、話ている内に意気投合、魔道具をその技師から譲り受ける事となる。




 そんな便利アイテムの力を借り、意気揚々を攻略を進める攻略部隊。


 当初は順調であった、浅い階層の敵はライフルで狙撃、近寄られても銃やマシンガンで十分対応可能であった。


 しかし階層を進むにつれ、より強力な武装が必要になる。


 銃弾では浅い傷程度、対戦車ライフルで対応する事となる。だがそれも、動きの遅いモンスターであれば、の話であった。


 動きの素早いモンスター戦では、狙いを定め構えた所で、すでにその場からモンスターは居なくなっている。点の攻撃では対応出来なくなる。ならばと面での攻撃に切り替えた。機銃やロケットランチャーまで持ち出す始末。


 市民の為、祖国の為とこれまで戦って来た兵士達も、戦い通しで2か月、疲労が出て来ていた。


 銃弾や砲弾、その他の武装もタダではない。国民の税金から成り立っている。


 結果が出ないと、国民から何を言われるか分らない。議員達はそんな心配をしているが、現場の兵士たちは、日々命の遣り取りをしているため摩耗していた。




 10階層までは何とかなった、だが11階層にいたボスは強かった。




「で、11階層のボスが倒せないのよ。私も協力したけどアレは無理ね。全身鎧で銃弾を撃って弾かれる、ロケラン撃って吹き飛ばしても起き上がる、対戦車で穴は開いても平気な様子みたいね、時間が経てば穴も塞がるし…一体なんなのよ!非常識すぎてわけわかんない!」


「あぁ~ゴーストナイトとか彷徨う鎧とかですかね、鎧自体が本体で、中身は有りません。的確に核を狙うか、聖属性で吹き飛ばすのがいいでしょう」


 憤るリリィにあっさり答える渉。そんな渉を一瞬きょとんと見たリリィだが次の瞬間には渉の襟元を掴み、締め上げる。


「な・ん・で、そんな簡単な事のように言えるのよ!聖属性って何よ!エクソシストでも連れて来いっていうの!?核って何処よ!見た目金属だらけで核らしい目立つ標的何て無いわよ!!」


「く…くるしぃ、落ち着いて。落ち着いてリリィさん、きちんと説明しますから。これでも私、忙しい中これでも頻繁にイギリスに来てるんです。この仕打ちは勘弁してください」


 そう、攻略期間中でも日本で召喚事件が起こら無い訳では無い。


 当然の様に召喚事件は発生していた。

 集団召喚から単独召喚、この2か月で4件の対応をしている。2週間に1度のペースの為、流石に飛行機で行き来するのは無理だ。そう判断した渉は、政府へと移動方法について進言することとなる。


 渉の立ち位置はあくまでアドバイザー、攻略に手を貸すわけではない。それでも、何が起こるのか解らない現状では、現地に渉が留まる事が望まれた。


 その為、政府間で特別な許可を得て、渉は日本とイギリスを行き来していたのだ。


 華美もまた、現地の留まっている。渉が不在の時、対応をする為ではあるが、あまり役には立っていなかった。資料をまとめ、戻った渉に渡す程度である。


「っち!まあ勘弁してあげない事も無いわ!情報をよこしなさい情報を!!」


「せっかくの休日にも仕事ですか、熱心ですね」


「うるさいわね!他の魔女達のためにも必要な事でしょ!?さっさと言いなさい!また何時呼び出されて日本に戻るか分からないんだから!」


 ゲホゲホと咽る渉の無視し、情報を求めるリリィはまるで年老いた悪い魔女、いや魔女だったわ、若いの見た目だけだったわ。などとくだらない事を考える渉。


 リリィ達魔女もまた、数人で交代しながら攻略に参加している。


 モンスターにも弱点属性がある。


 そんな渉の台詞から、それぞれ得意な魔術を行使し、相手の弱点を探る。


 彼女達も当初は善戦していた。その魔術でモンスターを倒すこともある。

 だが現在は攻略部隊と同じ現状に陥り始める。魔術を行使する魔術媒介が足りなくなってきたのだ。


 異世界のような魔法をとは異なる形態、触媒と詠唱と魔力を以て行使する魔術の欠点ともいえる。


 その特異性から媒介自体も特殊な物が多い、その為準備には時間が掛かってしまうのだ。


 状況はかなり苦しい。そんな中での渉の登場、当然とばかりリリィは問い詰める。


「はいはい、説明しますよ~っと。さっき言ってたエクソシストですが有効です、ただし動きを止められればですね。祝詞を唱えながら聖水を掛ける。素早く動く相手なので結構難しいのではないでしょうか。そのうえ鎧に聖水を掛けても効果が薄い。直接核に聖水を掛けないと消滅まではしないですね。一番の問題は核の位置なんですが、これが厄介で体内を動き回っているんですよ。中は空洞なので動くにはうってつけですね」


 話を聞いているだけで頭が痛くなってくるリリィ。鎧はその巨体に似合わず動きが素早い、剛腕で振ってくる両手剣も脅威だ。鎖で縛りあげることも考えるが、押さえつけるのに何人の人出が必要なのか頭を悩ませる。


 エクソシストの手配も問題だ。魔女と聖職者、相性が悪すぎるのだ。過去の魔女裁判は未だ双方に大きな壁を作っている。


「もっと頭を使ってください。やり方ならいくらでもあるでしょう?機銃で足を潰し動きを止める。全員で抑え込んで胸部を破壊する、手が邪魔なら鎖で搦め取って数人で引っ張ればいい。抑え込んだ相手に、素早く聖水を流し込み祝詞で終了。ね、簡単でしょ?」


「……」


 本当に簡単に思えて来たリリィ。


 今回の攻略、未だ死者は出ていない。それは渉のアドバイスの一つが効果を表していた。


 ボスはボス部屋から出てこない。危なくなったら撤退しろ。


 状況不利になる度、撤退し攻略方法を検討。幸い移動中のモンスター達は、一度倒してしまえばリポップまでに時間が掛かる。


 道中のボスモンスターに至っては、未だ復活の様子が見えない。状況は悪くないのだ。だが階層を進める度にモンスターが強くなっていく。


 今後は鎧以上の存在が出てくるかもしれない。


 不安は消えない、でもやるべき事が見えた。そう考えて、リリィはエクソシストの派遣を決意する。話が出来れば同じように祖国を危機を憂うだろう、それに彼らは市民の味方、きっと力を合わせられるはずだと。


「ふむ、どうやら決断出来たみたいですね。では私からやる気が出る情報を差し上げます」


「何よ?くだらない情報ならいらないわよ!」


「おそらくこのダンジョン、15から16階で終了ですよ」


「それ!本当なの!?」


 再びリリィに首を締め上げられる渉。


「ほ、んとうです」


 リリィの手をタップしながら答える渉。締め上げを止めてじっと見つめるリリィに渉が説明して来る。


「地上の効果範囲、そして1階から11階までの探索範囲を検証すると、このダンジョンはピラミッドみたいな形をしています。地上側が狭く、地下が広い、そんな形です。以前推測しましたが、調査の結果からもそれが解りました」


「それで、15、6階で終わる理由は?」


「確かにこのダンジョンは生まれてからの成長は早かった。ですが魔素だけで成長するにも限界があるんです」


「そうなの?」


「そうなんです、前にも言いましたよね?人の命を糧にするって。で、ここからは一般的な異世界ダンジョンの統計ですが、普通4年程度のダンジョンは精々3、多くて4階層もあれば良い方なんです」


「その一般的異世界が良くわからないんだけど…」


 ジト目で見つめるリリィから目をそらし、そのまま説明を続ける。


「それでですね。そう考えると今回のダンジョンはかなりイレギュラーなんです。おそらく、使地球の潤沢な魔力で急成長したんでしょう。ですが魂の吸収のないダンジョンははなれない、精々階層を増やすだけです」


「でも今回は11階まで進んでいるけど?」


「そう、11階に強力はボスが出て来た。こういったボスはゲームだと中ボスっていうんですよ。ですが本来11階ともなれば、もっと強いモンスターが出て来るんですよね~。このダンジョンの限界なんじゃないですかねぇ~w」


「腹立つ言い方ね!普通に話ができないの!?」


 ニヤニヤとした渉の顔に殴り掛かる決意をしたリリィ、そんな気配を感じた渉は、リリィを手で押しとどめながら言ってくる。


「ストップストップ!普通に話します、話しますから。いいですか聞いてください?中ボスの次出て来るモンスターが何かと言えば、ダンジョンボスなんです!つまり最後のボス。15か16階と言いましたが、多く見積もった場合です。今回の攻略では幸い死者は出ていない。早ければ次の階層が最終層になりますよ」


「それ…、本当?」


「おそらくですが、ほぼ間違いないでしょう。11層をクリアして、向かった先に迷路ではなく広間があれば、そこが最終地点です。ダンジョンの決まり事、って感じで最終フロアーは只広い空間にボスがいます。このダンジョンは決して強くは無いです。ですが、そのボスは今迄相手したモンスターの比ではなくなるでしょう。人々から見れば圧倒的な脅威です。核を護る存在、死闘は免れませんね」


 ここまで話を聞いたリリィ、今回のダンジョン攻略で、渉の予想は気持ち悪いくらい的中している。渉自身に問題があっても情報は正確であった。


 ならば、と立ち上がり歩き出すリリィ。


「もう情報はいいんですか?」


「当然!大詰めなんでしょ!?終わりが見えればやる気も出るわよ!プライドとか過去の遺恨なんか今は必要ない!政府から教会へ依頼してもらう!私も他の魔女達と準備するから時間が惜しいのよ!最速で手配して鎧を倒す!そのままボスまで速攻で終わらせてあげるわ!!」


「そうですか、では検討を祈ります」


 そんな渉に振り返り、獰猛に笑うリリィ。普段の語尾が強い話方にも自信が溢れていた。


「そんな祈りいらない!!私達の力を見せてあげる!!」


 立ち去るリリィを見つめながら、渉は思った。







 だが、あまりに失礼な為、割愛させていただく。


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