第20話 遥々来たぜイギリス
今、渉は飛行機の中に居た。
聖女召喚事件の後始末をし、先行している異世界課職員と合流する為だ。
事件発生から、地球では4日が経過していた。
時間短縮の為、刻渡りを併用する渉的にはすでに20日を過ぎていた。
先に連れ帰った御崎咲は、すでに警察に引き渡している。罪状に興味が無かった渉は、引き渡し後そうそうにその場を離れ、河田真紀の親友である杏へと報告に向かったのだ。
「そう、ですか…真紀ちゃんは戻ってこないんですね」
異世界へと旅立った親友を想う杏。最初は帰ってくるモノだと思っていた。結末は辛い物だったが、彼女が決めた事だ。きっと幸せになる、と渉から話を聞いて納得も出来る事であった。
「力強く決意書にサインしてましたから、彼女の決心は硬いのでしょう。もちろん私も最後まで説得はしましたよ。ですが彼女はあちらの世界を救うと決めたんです」
アレは説得だったのか、真紀をからかって楽しんでいる様にしか見えなかった…。
「あ、それから譲渡書も預かりました。彼女の財産、資産はすべて貴女物になります。特例事項で税金などもかかりませんから、安心して下さい」
「そうですか、そんなもの要らないのに…」
「………」
少しの時間、杏と真紀について話をし、「おせわになりました」と頭を下げ、去っていく彼女を見送った渉は、しばしその場に留まっていた。
渉が真紀に記入してもらった書類は、それぞれすでに提出済みである。1枚は政府機関へ、もう1枚は神々の元へと。
異世界に残る者、そんな人物に記入してもらう決意書。それは日本の神々との契約書でもある。
そして譲渡書は、日本に残った資産や財産をどうするのか決める書類だ。
日本に居れば、この国の神々が見守っていてくれる。だが、そんな神々もその力を異世界で発揮することは出来ない。その世界の理に、出来るだけ干渉しないのである。
神々は人族の考えによる召喚は許可していない。
無理やり理を捻じ曲げてしまう召喚は、当然看過出来ない。
では何故神々の許可無に召喚されるのか、何故特殊な能力を持った者が召喚されるのか、それは召喚システムに組み込まれているからである。
異世界へと渡る人物に特殊な力が与えられる。それは召喚された人物が、その世界に適応できるようにする為、そして召喚者達の考えや願い、こんな人が来て欲しい等、そう在ることをシステムが反映させる事により、異世界へと召喚される最中に能力を付与されるのだ。
では転移者に発生する能力はどうか?と聞かれれば、それは転移者への神のギフト。
事故で自分たちの世界に来た者へ対しての優しさでしかない。地球に似た環境が多いとは言え、すべてが一緒ということは無い。異世界に現れた瞬間に死亡してしまう事もある。
そんな他世界からの迷い人に、少しでも永く生きられるように、との神の配慮である。
転生者に関しては考えるまでも無い。その世界で生まれ変わっただけ。ただそれだけである。
神々は創造し、生み出す事はしても。干渉することは無い。
だが、そんな中でもイレギュラーな事は起きる。人族の存在はその最たるものの一つである。
人々の爭いは神々を苦しめる。苦悩する神が、他世界の神に相談して出来上がるのが、魔王といった存在。
しかし、歪な存在は神の思惑を超えてしまう。
このまま滅亡するのなら、いっそ創り変えてしまおうか。そんな考えに至る神も多い、だが、生み出した存在を愛おしく思う神達は、他世界の神へ交渉し、勇者を召喚と言うシステムを実行することになる。
神の信託として残される『勇者召喚』。当然一時的な救済だ、以後は禁忌として扱われる事となる。
だが、人とは欲深い。
禁忌を犯してでも手に入れようとする。その力を我が物とし、自分の野望に使う者達が現れる。
存在する事柄に神の許可は発生しない。創り出されたシステムに神の力は必要ない、人族の手で行うことが出来てしまう。
創り出されたシステムは消えない。人々の記憶や書物、その存在が消えるまで待つしかないのだ。
神々はそんな人族の国を許すことは無い。だからといって、自らが神罰を与えることもしない。
自身の世界に存在する前に、システムに干渉する事で、有能に見える者はそれなりに、無能に見える者には、召喚した国を滅ぼせるだけの力を与える。
そんな神の罠に、愚かな人物で在れば在るほど嵌ってしまう。
召喚された後、その国をどうするのか。滅ぼすも良し、存続させるも良し、その者達に決定権を託すのだ。
しかし、その召喚システムで、もっとも被害が多い地域の神が怒る。
最初は黙認していた。
どの神も自分の国や、世界の存在は可愛い。我が子達が世界を救っているのなら、ならばそれも止む無し。
そんな考えが吹き飛んだのは、映し出された我が子達の現状。
干渉はせずとも気にはなっていた。そんな想いから、我が子達がどうしているか、と確認した『遠見の鏡』。
凄惨であった。許せなかった。
怒りを顕わに、各世界の神々へ召喚の中止を通達するも止まらない。
どうしてくれようか。と考えていた矢先、一人の人物が異世界を渡り戻ってくる。
新たに生まれた神に近い存在、そんな人物に神々は交渉した、我が子らを救ってほしいと。
結果、日本の神々は他世界の神々に対し、特殊な存在を認めさせる事となる。
〇●〇●〇●〇●〇
空の旅を終えた渉。
機内は快適であったが、数時間も座っていたので腰が痛い。
渉自身が空を飛んでくれば、もっと時間は短縮できるのだが、如何せん国境を越えるため、ビザやら何やらうるさいのだ。
仕方なしに飛行機を利用しての移動である。
簡単な仕事だといいな。などと考えなら辺りを見渡す。一足先にイギリスに来ている人物を探す。
すると、速足でこちらに歩いてくる人物が目に飛び込んできる。一目で「もう帰ろう」と、決意し背を向けた渉の肩をその人物が掴む。
「なんで帰ろうとするんですか??」
「いや、だってねぇ…藁科さん、いくらなんでもその出迎えは無いでしょ。一体いつの時代のお出迎えですか」
「なんでですか!ハイカラでしょ!?」
「……」
その人物、
黒髪をシュシュで留めたポニーテール、黒のパンツスーツに、白のブラウス。肌は白く周りのイギリス人並み、大きな瞳はやや吊り気味ではあるが、通った鼻筋を小さな唇に良く合っている。
見た目はスラリとした人物であるが、その胸部装甲は一目で男性の目を引く大きさ、服装で誤魔化してはいるが、安産型でもあった。
華やかな美。その名の通りの人物であった。
そんな美しさを持つ彼女だが、その感性はいただけないのだ。残念なのだ。溜息をつき、何て勿体無いなどと失礼な事を考える渉だが、彼女が掲げたソレが雄弁に残念さを物語っている。
【おいでませ、加賀美さま!熱烈歓迎!】
立札である。
スケッチブックならまだしも、何処で用意したその立札。
プラカードを掲げるように歩いて来た華美を見た渉が、その場で帰ろうとしても仕方ない。(ちなみに彼女は気に入っている)
仕方ない、とばかりに話を切り出す渉。
「まあいいや、それで状況聞いてもいい?」
「それは車の中でお願いします。ここから車で5時間は掛かりますから、移動中にでもゆっくり説明しますよ」
「そんなに時間掛かるの?やっぱり帰っていい?」
「ダメですぅ~!」
即座に帰国を判断した渉であったが、その手を掴まれる。渉の手を引っ張り、車へと案内する華美。
「さあ張り切ってまいりましょう!」
元気いっぱいな華美に手を取られ、引き摺られるように歩いていく渉。今回の仕事に不安しかなかった。
ヒロイン登場?いいえ只の職員です。
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