第19話 私が決めた、私の道
「いや~良い『ざまあ!www展開』だったね~w」
「いい加減草生やすの辞めて下さい」
そんなやり取りを交わす2人+1人、渉と真紀、そしてルフェルトだが、ルフェルトは蒼い顔で無言のままだ。
「それにしても空の旅は快適だね!」
「いいえ、地に足が着く安心が欲しいです…」
そう、彼らは今空を飛んでいた。
現実離れした出来事に呆れる真紀と、神に祈りを捧げるルフェルト、そんな2人に爽やかな笑顔を向けるが渉である。
「いいじゃん、飛んで行けばアンセルまでそんなに時間掛からないし」
「ソウデスネ」
「それにしても、ルフェルト殿下の愛馬が亡くなっていたのは残念ですね」
そう渉が問いかけても、祈りを捧げるルフェルトは気が付かなった。
彼の愛馬はルンドンバルへの道中、無理をし過ぎたのだろう。到着後、いつの間にか厩舎にて息を引取っていた。
真紀を連れていくためにも、新たな馬と馬車が必要だったルフェルトにら「それじゃ俺が案内しまっせ」などと言われ、返事をしたのが運の尽き。
そんな愛馬を失った悲しみすら、今のルフェルトからは感じられない。空を飛ぶ恐怖と、必死に闘っているである。
みんなで仲良く、お空の旅を満喫中である。
「そうそう、加賀美さんに聞いてみたい事があるんですが、いいですか?」
「答えられる事ならいいよ~」
「それじゃあ、一つお聞きしますね。ずっと疑問だった事、どうして勇者とかは、日本に戻れなくなるんですか?」
「なるほど、そこに疑問をもったのか~、答えは簡単、その世界の因果に干渉しすぎたからさ」
「えっ?」
簡単に言ってくる渉だが、いまいち理解が及ばない真紀。そんな顔を見ながら、渉はかみ砕いて説明していく。
「分かり辛かった?う~ん、そうんだねぇ。日本で暮らして居て、一生で出会う人、関わる人ってどれくらいだと思う?」
「そうですね、学校とか考えても、せいぜい数十人、数百人知り合う人は少ないかも」
「そうだね、その通り。んで、関わる人の多さが因果の多さ、って考えると解り易いかな。それじゃあ問題。勇者や聖女といった召喚される人って、どれくらいの人と関わると思う?」
「そうですね、それこそ何百は超えるんじゃないですか?」
そんな真紀の答えに、笑いながら渉は答える。
「あはは、残念。答えは召喚された先の世界、そのすべての人達なんだよね~」
「ええええ!?」
真紀は驚愕した、多くて数千人くらいだと思っていたのだ、ところが全ての人々と聞けば、驚かずには居られない。
「なんでそんなことに…」
「そうだね、それじゃあ質問勇者は何故呼ばれる?」
「それは、魔王とか倒す為じゃないんですか?」
「半分正解、それじゃ、どんな願いで呼ばれるかわかる?」
「それは…、人々を救うため、ですかね」
「その通り!勇者はその世界、すべての人々の願いを込め呼ばれる、そして全人類の希望となんるんだ!」
真紀は考える、人々すべての希望。それは、すべての人と関わる事になるのだろうか。
「勇者自体が出会う人達は、さっき河田さんが言った通り、千人も出会えば多い方だろうね。でも、勇者が関わる事になる人は、すべての人なる。それはみんなの願いが、希望が託されているからなんだよ。
例え勇者を見たことが無いとしても、その勇者に願いを託すんだ。平和な世の中、そんな人々の願いを背に、勇者は戦う。そして多くの命を奪うことで、さらに因果は増えていく」
「………」
「魔王を討伐すれば、今度は人々の英雄として祀られる事となる、まさに因果な職業だね~」
軽く言ってくる渉だが、その雰囲気は怖いくらいだった。
真紀はそんな渉の表情から、その背に圧し掛かるであろう重責を感じていた。
自分も神巫女、そんな重責に耐えらるのだろうか、と。
「もちろん、中にはどうしても日本に帰りたい、と考える人もいるよ。でも、勇者や聖女といった存在が、突然消えたらどうなると思う?」
「…わかりません」
「より大きな歪となって、世界中が混乱や動乱に襲われるんだよ」
「そ、そんな…ただ帰りたいだけなのに……」
「それじゃ、それでも帰りたい場合は、どうすればいいと思う?」
「もっと分かりませんよ」
それでも帰りたい、そう願うことが罪なのだろうか、故郷が恋しいと感じることは誰にでもある。だが、それすら許されない事だと…。
それは呪いなのではないだろうか。
「正解は、世捨て人になって人々の記憶から消える事、すべての関係を無くす。だよ」
「そんな、せっかく世界を救ったのに、忘れ去られてしまうんですか?」
「そうだね。世捨て人となり、死んだ事にすれば尚良しだねぇ」
救った世界に忘れ去られる、なんと残酷な事だろう。渉の話はまだ続いた。
「だけど、ここで問題が発生するんだよね、そんな力を持つ勇者、人として死ねれば輪廻に戻れるし、生まれ変われば、再び人として生きられる。功績が高いから、転生後も人であることが多い。だけど中には、『人で在る事を超える』存在も出てくるんだ」
「人を、超える?」
「そう、人を超える存在。実は地球にも、特殊な能力を持つ者が居るんだけど、知ってる?」
「そんなこと、聞いた事もありません」
「だろうね~、そういった存在は、在野に隠れているから。でも、そんな特殊な能力を持つ人達も、人の範疇なんだよね」
特殊な力が有っても人で在る。人の範疇なのだと渉が言う。では人を超える者とは、いったい何だろう。真紀は再び考え込む。
「人は自分と違う存在を恐れる。だから、特殊な力を持つ人は隠れている、勇者はもっと強大な力を持つ、その力は世界に混乱をもたらす」
人にとって、もっとも原始的な恐怖、それは力であり暴力である。
「人で在る存在ならば、その能力を消すことで何とかなる。魂を浄化するのも一つの手段だね、だけど、人を超えてしまうとどうにも出来ない。その存在は神に近づくからね」
「神…」
「そう神。そして人と神の狭間の存在は、死の直前に英霊や守護者へ、より力が強ければ、天使のような存在になる」
「人じゃ無くなるんですね」
「そうだね、神は人を超えた存在を認めない。特に異世界を渡る力を持つ存在や、多くの人々の記憶を改竄する存在、生命の復活とかも有るね。そんな存在を、神は人と認めないんだよ。その力は神に等しい。だから、名を、顔を、身体を奪い、別の存在へと変えてしまうんだ…新たな天使や、神へとその存在は変わってしまう」
真紀は言葉が出ない、そして渉を見つめる。それじゃあ、今目の前に居る彼は一体…。
「人としての平穏を、平和な生涯は、無くなってしまうんだよ。『神に成る』それを祝福と言う人も居れば、呪いという人も居る」
「そ、それじゃあ私もそうなるんですか?」
「あ~そこは安心して、聖女と神巫女は同じ性質だけど、違う存在だから」
「へ?」
さっき迄の真面目な顔から、ニヤニヤと厭らしい顔へと変わる渉。そんな渉をポカンと見ている真紀。
「聖女はね、その魂に神の力を宿して自身の力を増幅するんだけど、神巫女は神をその身に降ろす。神様へ、一時的に身体を貸し出し力を行使するんだ。似てるようで、全く別物だから安心して、人として生きて、人として輪廻に還れるから」
「チョットイミガワカラナイデスネ」
「まあ、心配しなくても大丈夫、ってことだよ」
いつもの表情で笑いかける渉、先程迄の怖い顔ではなくなっている。そんな表情に少し安心した真紀であった。
※なお、ルフェルトは会話の間、すっと目を瞑り祈っていた。
〇●〇●〇●〇●〇
話す事も無くなり、どうした物かと考え始めた頃、3人はアンセルの王都へと辿り着く。
目指す、王城に着けば、それは別れを意味していた。
感慨も無く、あっさり辿り着いてしまった3人。
それでも笑顔で別れを前に、握手を交わしている。
「どうする?今ならまだ日本に帰れるけど」
そんな渉の問いかけに、握手しながら真紀は笑顔で答える。
「いいえ、私が決めた私の道です。私は私の気持ちを貫きます」
「わかった。殿下、彼女の事、よろしくお願いします」
「もちろん、この命に代えて守ってみせる」
そんな返事を聞き、一安心する渉だが、此処に来る前から感じていた、波動に対し、ちょっとした悪戯心が湧いてくる。
「そうですか、その言葉が聞けて安心です。結婚式には参列出来ませんが、末永くお幸せにw」
「「ええっ↑!?」」
「ええ↓、もちろんですかソウデスカ」
真っ赤になる二人、ニヤニヤする渉、言葉の揚げ足を取ってご満悦である。
「も、もう、そ、そんな事より杏への伝言、よろしくお願いしますね」
「もちろん!河田さんが異世界で、王子と結婚したと伝えますよ」
「まだ、結婚はしてません!!」
出会って、2日目の二人、本当にこの先どうなるかは分からないが、その結末が幸せであることを祈ろう。
だがいつまでも、モジモジし合う2人を見ていた渉は、急に腹が立ってくる。
「それじゃあ、これでお別れだけど、最後にこの言葉を贈ろう」
「「?」」
「ラブコメの波動は、リア爆の衝撃で打ち消す!『リア充爆発しろ!!!』」
衝撃的な衝撃で、波動を撃ち出す渉であった。
渉、君という奴は…。
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