第15話 現場検証
「防犯カメラの映像はこれで全部なのか?調査機のデータどうなってる!召喚事件の証拠なんだ、詳しくデータ取っとけ!おい、見物してた奴らからの証言これだけなのか?もっと詳しく事情を聴いてこい!人物の特定は?出来ているならさっさとデータ寄越せ!!」
召喚現場は忙しなく動いていた。
事件発生から3時間と少し、渉が「異世界いってくる」と言い残し2時間以上が経過していた。素早く現場に到着した異世界課職員達は。、今も慌ただしく動いてる。現場指揮官である男は、その見た目からは考えられない程ピリピリしていた。
この時代の日本、いたる所に監視カメラがある。もともと2050年代には監視カメラがありとあらゆる場所にあった。が、召喚事件が多発するため、その数は膨大になっている。余程人里離れた山奥でもない限り、カメラが無いということは無く、そんな奥地でも衛星カメラが監視しているのだ。当然パソコンでの処理技術も発達している、カメラの映像から人物を特定する時間は、それ程掛かることは無い。
「お疲れ様~」
「あ、加賀美さんお疲れさまです」
そんな中、突然現れた渉に驚く事も無く返事をする男。
現場指揮官である男の名は
「どうでした、あっちは?」
「もぬけの殻だったな…、大規模な集団魔法で召喚した痕跡はあった。けどそのわりに魔力残滓が少なかったから、1日ないし2日は経っているだろうなって感じだな。召喚者達の魔力辿って、ある程度のどっちへ向かったのか当りも付けて来たから、情報まとまり次第また向かうよ。それでそっちはどう?人物の特定は出来そうなの?」
「あ、データは揃ってますので送ります。こちらです」
送られてきたデータには2人の女性が映っていた。
一人は写真からでも分かる、奇麗で可愛らし少し派手な女性、10人いれば7人は振り返りそうだ。
もう一人は黒髪が美しい。ただ少し雰囲気が暗い感じの女性であった。磨けば光るな、などと不謹慎な考えを浮かべる渉。そんな見た目の女性であった。井上は渉に召喚された人物の説明を始めた。
「左側、すこし派手目の女性ですが、名前は
右側の女性は
「女性2人…か、巻き込まれの可能性はどうだ?」
「何度も見返しましたが、2人の足元にほぼ同時に現れてますね。2人とも必要だったのか、それとも片方が狙いで、精度が甘かったのか…、魔方陣の中心は丁度2人の真ん中なので判断できませんね」
「聖女召喚…かな」
「状況的には、最もその可能性が高いかと」
神妙な顔になる二人、その言葉の通り聖なる者を召喚する。だが、ここで二人が気にしたのは女性であることだ。
「嫌な予感しかしませんね」
「まったくだ、聖女じゃなくて聖者でもいいだろ。テンプレがすぎるわ!毎回この手のパターンは召喚国がろくでもないことが多い、多すぎる!」
召喚される世界のほとんどが、日本より文明が遅れている。貴族社会が多く、男性上位の考えが殆どだ。
女性は道具であり、駒なのだ。我々の世界では考えられない、だが、まかり通ってしまう世界である。
そんな世界に召喚された女性はどうなるのか。
見知らぬ世界、知り合いなど居ない世界。しかも帰れないなどと聞かされれば、当然不安になり心細くなる。そんな気持ちに付け込み、優しく大事にされれば気持ちも傾く。力が強いと解れば貴族たちがこぞって手に入れようと権力をかざす。そんな貴族達を抑えるため、抵抗する側もあわよくばなどと、都合の良い事を考える者も多い。王族ですら召喚された女性を護る、などとほざき、年齢の近い王族と婚姻が決まる事もざらだ。どいつもこいつも力と権力が欲しいのだ。
だがよく考えて欲しい。そこに彼女達の意志はほとんど無い。状況がそうさせているのだ。仕方ないと諦めてしまうのだ。
不安な気持ちは何かに依存を求める事が多い。両親や友達への悩み事の相談、彼氏や彼女といった存在。人とは余程強い意志でもなければ流されてしまう。物語のような人物はそうそう居ないのだ。
「挙句の果てに、子供を産ませさらに縛り付けるとか、最悪だ!顔のいい男は罠だ!殺せ!死ね!!」
ぐちぐち文句を言っている渉、冷めた目で見る井上。
「し・か・も、美人を二人も攫うとは何事だ!ふざけんな!俺もモテたい!異世界美男子ども滅べ!」
醜い、実に醜いぞ渉。
ちなみにこの時代の日本の出生率、女性が生まれることが多い。人口比率も当然女性が多い、モテないのは日頃の行いである。渉、諦めろ。
「まあまあ加賀美さん、取り敢えず落ち着いてください。一世代前ならちょっと考えてしまいますが、幸い彼女達は異世界科が教育課程に組み込まれた世代です。迂闊な事はしないでしょう」
「う~ん、それもそうか。前回の高校生達もしっかりしてたし」
井上に窘められ、落ち着きを見せる渉。面倒くさい男である。
「幸い、というべきなのか2人で召喚されています、早々に悪い事にはならないでしょう」
「それもそうだね」
「では説明を続けていきますね」
何だかんだ言ってはいるが、渉が優しいことを知っている井上。心優しいこの人が彼女達を気に掛けない訳がないのだ。時間は刻一刻と過ぎ去っていく、それでも何かを成すために必要な事。井上はそんな感情を抱きながら渉への説明を再開した。
〇●〇●〇●〇●〇
「あら、珍しく車の速度が落ちたのかしら?」
そんなことを呟く女性。
この時代の交通事情。車を運転する者はいなくなり、AIが管理した自動運転となっている。余程の事が無い限り渋滞は無い。タクシーも音声入力で行き先を告げるだけ、携帯でQRをかざすだけの簡単行き先指定もできる。バスも巡回路線を自動走行している。決済はどちらも電子マネーだ。
スピードが落ちたということは、何かしらの事故・事件があったと考えられるのだ。
そんな車窓から外を眺めていると、2人の男性が何か言い合っていた。
2人のうち一人は非常に見覚えのある顔である。
路肩に泊まっている数台の車、とても特徴的な車が何台か止まっていた。横には異世界課の文字も見える。
その人物を確認する女性は独り言ちる。
「まあ、もう次の召喚事件ですのね。つい先日召喚事件が遭ったばかりですのに…。そうなると話が此方にも来ますね。お爺様にもお伝えしなければ」
皇居へ向かう車内、女性はそんな事を言っていた。
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