イセカイカ

しだゆき

第1話 召喚  (改訂)

 床が輝いた先は異世界だった。

 

 彼、彼女らは戸惑っている真っ最中。

 ざわめきながら周りを見渡しているが、先ほどまで居た教室には見えない。

 高校1年目の6月中旬、この生活にも慣れてきた状況。

 ホームルームが終わり、部活に行く者、塾や帰宅する者、様々な準備を始めている最中それは起こった。


 教室の床一面が光で覆われたのである。


 その場にいた生徒たちは、一瞬爆発をイメージしたが光が収まってみれば、どこかの宮殿の広間のような場所である。


 生徒達の足元には巨大な魔方陣、円を囲むようにローブを着た数人の人物たちが蹲っていた。鎧を着た者達がその人物達に肩を貸し、立たせようとしている。そんな光景が目に入る。


 突然の場面転換でざわつく生徒達。当然その意味も分からない、訳も分からない、そんな状況で声を上げたのは随分豪華な衣装をまとった男性であった。

 

「ようこそ我が国へ、異世界の勇者諸君」


 教室に居たのは24名の生徒達。そんな生徒達は声を掛けて来た男性に注目する。


 そこへ、全校集会でスピーチする校長のように一段高いところから話し掛ける派手な男性。召喚された生徒達は只だまって彼を見つめていた。


 当初、一部の生徒からは「これ、異世界転移か?」などという言葉が囁やかれていたが、そんなつぶやきも今は無い。ただ黙って声を上げた男性を見つめている。


 複数の瞳に見つめられ一瞬たじろぐ男性。異世界の若者とはこのように無口なんだろうか。そんな考えを振り払う。


「現在、我々の世界は非常に危機的状況にある、どうかその力をもって我々を救ってはいただけないだろうか?」

 

 この状況をまず伝える事。それがその男性の判断で在った。


 いまだ話続けている男性に対し、無言を貫いていた生徒達の中から一人の男子生徒が手を挙げ問いかける。

 

「質問よろしいでしょうか?」


「もちろん答えよう、その前に私の名を伝えよう。私の名はライオ、ライオ・マックウェイン。この国の宰相をしている」


 状況を不安に思って当然だとばかりに、質問に答える姿勢を取る宰相だが、一歩前に踏み出した彼の様子に、ほんの少し眉が動く。

 

 非常に冷静であった。


 自分達の世界で、この年代の若者がもし同じ事になったとして、果たして同じ行動ができるのか、そんな疑問を頭に浮かべていた。


「ありがとうございます、えっと、宰相閣下でいいでしょうか?私の名前は青木衛、姓はアオキで名がマモルです」


 黙って見つめて来る生徒達に不気味さを感じたが、それでも招いたのはこちら。にっこりと召喚された生徒達の不安を取り除くよう、微笑みながら答える宰相。


 それでも少しだけ安心したのか、衛の態度も軟化したことが見て取れる。その場で深呼吸をして、気持ちを落ち着けた衛は表情を和らげ宰相に尋ねる。


「複雑な事情説明は後で伺うとします。まず、この場所は私たちの暮らしていた世界とは異なる世界であり、勇者達という言葉と危機的状況という台詞から、私達に戦うことを望んでいる。と判断しましたが間違いないでしょうか?」


「その通りだ!素晴らしい理解力で助かる。今回我々が行ったのは『勇者召喚』。異なる世界を渡る際、様々な適正や能力を授かる召喚魔法です。この世界の住人では得ることの出来ない、そんな力が与えられるのです!」


 召喚された者達がいかに凄いのか、どれ程素晴らしい存在なのか、その能力の高さを、正面に居る衛を見ながら語る宰相。


 だが宰相はこの時気が付いていなかった、衛だけが微笑んでいるが、他の生徒達がどんな様子なのかを。


 「だが、召喚にも欠点がある。信じられないほどの力を保有し、召喚される者もいれば、この世界の住人ほどの力しか保有しないものもいる。そのため大規模な集団召喚を行ったのだ」


 素晴らしいと持ち上げて、残念な事もあると下げられる。簡単な話、要は当たり外れがあるから沢山召喚してみた、という事だ。


 再び生徒達から少しのざわめきが起こる。

 ブツブツをつぶやきながら考え始める生徒や、隣にいる友人を見ながら苦笑いする生徒、まわりの状況を確認する生徒、声には出さないがそれぞれが何かしらいた。


 そんなクラスメイト達に、静かにするよう促した衛がさらに言葉を続ける。


「まず3点ほど簡潔に質問します。一つ、我々は元の世界に戻れますか?二つ、この世界に及んでいるという脅威について。三つ、与えられた能力はどのように確認するか。そうですね、まずはこの点をお教えいただきたい」


 衛のもっともな質問。それに心良く答えていく宰相。


「元の世界に戻れるか、これについては現状不可能であるとお答えします。世界の脅威とは隣国で発生出来事です。魔力爆発により魔物と呼ばれる存在が狂暴・活性化しました。それに加え魔族と呼ばれる存在がしています。魔物は過去から人々を脅かしていた存在、それがさらに凶悪になって我々の生活壊そうとしています。魔族はそんな魔物達より遥かに強力で凶悪な存在になります。討伐のため騎士団も派遣しました。ですが我々力が及ばず、すでに多くの騎士や戦士を失ってしまいました。この現状に対応できる人族が圧倒的に不足しているのです」


 脅威と現状について語る宰相に衛がうなずき、二つの答えに対し、気になる事ついて追加で質問する。


「現状では元の世界に戻れないと、ではどうすれば元の世界に戻れますか?」


「魔力暴走した国に特殊な魔方陣があります。それを利用することで他の世界へ渡ることが出来る、と言い伝えられております」


 曖昧な答え、本当にそんな物があるのか?それに他にも存在しているのではないか、当然衛はそう考える。


「その魔方陣はこの国にはないのですか?この足元の魔方陣で元の世界に戻れるのではないのですか?」


「有りません。皆さまの足元魔方陣は、古文書を元に我々が作り出しました。ですがこの魔方陣では召喚が限界。帰すことは出来ないでしょう。ですが、かの国は魔法先進国。なにかしら手段があると考えております」


「では、我々が帰るためには魔物を倒し、魔族からかの国を取り戻せばいいのでしょうか?」


「魔物の討伐はについては、もちろんお願いしたい。ですがもっと重要なお願いがございます。やっていただけなければならない事があります…それは隣国住人の開放です」


 開放と言う宰相の苦渋に満ちた顔を見て、衛は不思議に思う。魔物も魔族も倒すのではないか。それに住民の開放とは助ければ良いのではないのか。そんな疑問をぶつけてみる。


「開放?ですか?住人の避難を手伝うとか、護衛するとかですか?具体的にはどのように開放するのでしょうか」


そんな問いかけに、宰相は今まで以上に顔を顰め、苦しみをにじませこう答えた。


「隣国住人の開放、それは救済とも呼ばれています。方法は一つ、彼らを殺して下さい…」


「「「「「「「「「っっっっっ!!」」」」」」」」」


 召喚された生徒達が一斉にざわめく、魔物の討伐なら何となく話の流れからわかるが。魔族を殺すことも話の内容から理解できた。

 だが住民の開放=殺害は思いつかない。思ったことといえば魔物に囚われた住人達を救い出す、そんな考えでいたのである。


「先ほど話しにでた魔力暴走ですが、大地に流れる魔力脈に溜まりが出来、堰き止められた魔力が地上に放射されることにより発生します。巨大な魔力は魔物のみならず人々の姿を異形へと変異させます。そして彼らは自我をもったまま化け物へと成り変る、そう人から魔族をと呼ばれる存在になるのです。魔族、それはかの国の住人達に他ならない…」


 辛そうに答える宰相の言葉に、みな言葉を失う。


「すでにかの国に人はいないでしょう、魔族は真っ先に人を殺します、逃げる人々を襲い滅ぼしている事でしょう」


 そんな言葉が付け加えられた。話だけでも感じる。魔族というその存在の凶暴さと凶悪さ。


「…そんな存在と私たちにに戦えと?こう言ってはなんですが、私達はただの学生です。戦闘なんてしたことはありません。中には殴り合いのケンカだってした事が無い者だっているでしょう。そんな我々が力を授かったとしても、すぐに戦えたり戦力になるとは到底思えません」


 衛が考えるもっともな言葉に対し、宰相がうなずき答える。


「もちろんです。最初から戦えればそれに越したことはありません。ですが過去の伝承から、即戦力にならない事は理解しております。そこで先ほどの質問の三番目、能力の確認になります。そちらにある石板、その石板に手を乗せるとどのような能力を持っているか、本人のみ確認が出来るのです」


 そう言いながら、手で壁に備え付けられた2m程の石板を指す宰相。見た感じ固定されており、動かすことは出来ないようだ。

 宰相は石板を見て、生徒たちに向き直る。


「曖昧な能力の把握ではうまく力が使えません、自身の能力の把握は強力な力となります。石板に表示される内容は、他者からは適正と能力の数しか見えません。この世界の住人に至っては石板でしか能力の確認もできません。ですが、皆さまはすでに感じているのではないでしょうか?その力の使い方について…」


「そうですね、何となくですが解ります。これも召喚の影響でしょうね。その石板を使うことで、明確にどのような戦い方が出来るか解る、ということですね」


 そう返事をし、衛は周りを見渡す。クラスメイト達は黙って話を聞いていた。だが一様に不安な様子が見て取れる。


(問題は色々在りそうだけど、現状どうしようもないかな)


 そう考える、衛の目には宮殿の一室を取り囲むよう配置された兵士達も見て取れる。

 だが兵士達のその表情は緊張と不安、固唾を呑んで見守ってる、そんな感じがしていた。


(ここは一度素直に従がっておくべきかな。後で皆と話す機会を設けて貰う、って事で取り敢えず手を打とうかな…うん、そうしよう一人で考えてもしょうがない)


 そう思考する衛に、宰相が語り掛けてくる。


「後ほど、この世界について詳細に説明する場を設けます。取り急ぎやっていただく事があるとすれば、能力の確認と部屋の移動です。現在我々がいる場所は少々特殊な場所になっております。この石板も非常に貴重な物となっており、見てわかる通り、警備も厳重になされている為、早急に場所を移動したいのです。お願いできますかな?」


 本当に困った、といった雰囲気を醸し出す宰相と、目線を生徒たちに向ける複数の兵士達。現状さっさと能力確認をし、自分の力を確認したら部屋を移した方がいいのではないか、と生徒達も感じ取っていた。


 溜息をつきたい状況ではある。が、衛は一人の女生徒に目を向ける。目が合うとその女生徒が無言でを返してきたことを確認する。


「わかりました、まず能力確認をお願いします」


 どの生徒も、「厄介な事に巻き込まれた」という雰囲気を醸し出してはいるものの、自分の能力が気になる様子。無言で石板の前にで並び始めた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る