第39話 家畜の餌は、僕らのご馳走だ!

 俺たちは、神殿前の広場で荷物を広げだした。


「こっちが食料品。こっちが古着。日用品はここ。井利口さんのチームは、料理の担当と古着を配る人手を集めてきて下さい。あとマジックをかき集めてきて! 木箱に何が入っているか書くから!」


「了解だ!」


 場所を決めてアイテムボックスから、木箱を出して積み上げていく。

 アイテムボックスの表示は『木箱』だけなので、木箱の中を確認しないと中身がわからないのだ。


 広場の中央にアイテムボックスから木箱を取り出し、左側に食料品、右側に古着、日用品やそれ以外の物は広場の奥だ。


 木箱を空けて、中身を確認する。

 この箱は、ジャガイモっぽいイモが入っているぞ!

 美味しそうだ!

 土の匂いがする!


 いつも持ち歩いている太字の油性マジックで、木箱に『ジャガイモっぽいイモ』と書く。

 何せ異世界だ。

 ジャガイモに見えても、メロンの味がするかもしれない。

 味の確認は料理担当にお任せしよう。


 箱を空けて、中身を見て、マジックで書く、指定の場所に運ぶ。

 箱を空けて、中身を見て、マジックで書く、指定の場所に運ぶ。

 箱を空けて、中身を見て、マジックで書く、指定の場所に運ぶ。

 箱を空けて、中身を見て、マジックで書く、指定の場所に運ぶ。


 俺が黙々と作業を始めると、リクが驚いている。


「ミッツ! やけに段取り良いな!」


「アルバイト社員の仕事は、荷物整理や雑用ばかりだからな。嫌でも段取りが良くなるよ」


 勤めていた会社で、毎日やっていたことだ。

 段ボール箱が木箱に変わっただけで、やることはかわらない。


 リクが怪訝な顔をする。


「ミッツ……アルバイト社員って何だ?」


「ん? 俺はアルバイト社員なんだって、上司に言われた」


「いや、だから! アルバイトなのか! 社員なのか! どっちだよ?」


「さあ……。俺はアルバイトだと思っていたが?」


 柴山さんとマリンさんも、怪訝な顔をする。

 柴山さんが、頭をかきながら質問してきた。


「ミッツさん。社会保険は?」


「何それ?」


「えーと、保険は国保ですか?」


「国保だよ。コンビニで毎月払ってるぞ」


「あー、社保じゃない。ミッツさんは、アルバイトですね。ちょっと、その会社はブラックかもしれませんね」


「しれませんねじゃなくて、ブラックだよ」


 柴山さんが困った顔をするが、遠慮は無用だ。

 社員は残業がつかないし、ボーナスは一律十万円と決まっている。

 上司に逆らうと、田舎にある倉庫に左遷される。


 まあ、大学出たってそんなもんだ。


「オーイ! マジックあったぞ! 人も連れて来たぞ!」


 井利口さんが、マジックと人手を集めてきた。

 助かる!

 とにかく量が多いのだ。


 集まったメンバーに段取りを説明して作業を再開する。


「おお! オレンジだ!」

「こっちはリンゴだよ!」


 誰かがフルーツの入っている箱を引き当てたらしい。

 後で食べるのが楽しみだ。


 現地人四人組、猫獣人ココさんたちも手伝いを申し出てくれたのでお願いした。


「ニャア! 誰ニャ! 水麦を混ぜたニャ!」


 猫獣人ココさんが、木箱を空けて何やら騒いでいる。

 どうしたのだろう?


「ココさん。どうしましたか?」


「水麦が入っていたニャ!」


「水麦?」


「知らないのかニャ? 家畜のエサなのニャ!」


 家畜の餌か……。

 それでも食べられる物なら、料理担当が料理方法を考えてくれるかもしれない。


 俺は木箱の中の『水麦』に手を伸ばす。

 水麦は、よく見慣れた、白くて乾燥した穀物だった。


「こ……これは! 米だ! 米じゃねえか!」


「ニャ!?」


「オーイ! みんな! 米があるぞ!」


 大発見だ!

 家畜の餌なんてとんでもない!

 俺たち日本人にとっては、ご馳走だ!


 仲間たちが、ワラワラと寄ってくる。


「マジで!?」

「えっ!? お米あるの!?」

「ほ、本当だ! 米だ!」


 みんな大感激だ!

 一方で現地組の四人は、ドン引きしている。


「ちょっと待つニャ! 水麦を食べるニャ!?」


「食べますよ!」


 猫獣人ココさんが、頬を引きつらせる。

 盾役のブラウニーさんが、眉根を寄せて空を見上げた。


「あれだ……。食料が足りないから、仕方なく食べるということか?」


「俺たち日本人の主食ですよ! 好きで食べるんですよ! 毎日食べます!」


「そ、そうか……」


 何を言っているのか。

 俺たちのソウルフードだぞ!


 そこへ鋼鉄の料理人津田さんが、料理チームを引き連れてやって来た。

 米を見た津田さんの表情が、パッと明るくなる。


「おお! 素晴らしい! 米を入手するとは! ミッツさん! さすがですよ!」


「偶然紛れ込んでいたんですけどね」


「それでもお手柄です! これでみんなの不満も少し解消するでしょう。あれ? そちらは、お客様ですか?」


 鋼鉄の料理人津田さんは、猫獣人ココさんたちを見た。

 俺は現地人四人組を紹介する。


「ははあ………。獣人さんに、エルフさんですか……。あの、お召し上がりになるのは、我々と同じでしょうか?」


「そうニャ。ここへ来る間は、ミッツたちと同じ物を食べたニャ」


「では、晩ご飯は、みんなと同じ物をご馳走しましょう! 日本の料理を振る舞いますよ!」


「やったニャ! 楽しみニャ!」


 鋼鉄の料理人津田さんは、手早く食材の入った木箱を確認して行く。


「おっ! 油があるな! 小麦もある! この瓶は……ソースだ! 野菜は日本の野菜と似ているな!」


 鋼鉄の料理人津田さんは、俺とリクに肉の在庫について尋ねてきた。

 リクの解体スキルで、大量の肉がストックされている。

 心配ご無用だ。


「決まりました! 晩ご飯は、ソースカツ丼にしましょう!」


「「「「「「「「おお!」」」」」」」」


 俺たち日本人は、大喜びだ!

 だが、現地人四人組は、『ソースカツ丼』が何かわからない。

 キョトンとしている。


「ソースカツ丼とは、何ニャ?」


「ソースカツ丼は、お米の上にキャベツとカツをのせてソースをかけた食べ物です。美味しいですよ!」


「待つニャ! 米は水麦のことニャ?」


「そうですが、何か?」


「ニャー!」


 現地において、水麦は家畜の餌。

 まあ、でも、食べればきっと気に入るはずさ。


 俺たちは、動揺する現地人四人組と対照的にお祭り騒ぎだった。

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