第27話 服屋にて
服屋に着いた。
そう、服屋に着いたが……。
「古着か!」
「平民は古着ニャ! 新品の服なんて、金持ち商人か貴族しか着ないニャ! 新品の服なんか着て、フラフラ町を歩いたら強盗に襲われるニャ!」
「えっ!? そうなの!?」
またもカルチャーショック!
服=古着!
とはいえ、強盗に襲われるなんて厄介ごとはご免だ。
仕方がない。
俺の様子を見て、柴山さんが解説をしてくれた。
「ミッツさん。恐らくこの世界では産業革命が起きていないのでしょう。ですから、精一杯頑張ってもマニュファクチャリングです。つまり――」
「ごめん! 俺は学校の勉強とか頭を使うのは、まったくダメだった。三行で頼む!」
「この世界に工場はない。服は手作りだから、高くなる。だから、みんな古着を買う」
「おお! わかりやすい! ありがとう!」
なるほど、服は手作りなのか、それなら古着がメインになるのも納得だ。
猫獣人のココさんが、店先に積まれた古着の山の中から、パッパと俺たちが着る服を選び出した。
「ケインから四人の戦闘スタイルは聞いているニャ。ミッツは、このズボンとこのシャツだニャ。リクは……、背が高いニャ……。じゃあ、この辺でどうニャ? マリンは、スカートが良いニャ」
俺とリクは、動きやすいそうなズボンに長袖のシャツだ。
色は黒、グレー、茶色と地味な色が多い。
俺はもうちょっと派手目な色が好きだ。
「オレンジとかないかな?」
「そんな派手な色を着ていたら、魔物に見つかってしまうニャ!」
「さーせん!」
そうか、この地味な色チョイスは、カモフラージュの意味もあったのか。
気が付かなかった俺は、まだ、まだ、未熟な冒険者だ。
「俺はシンプルな色の方が好きだから……、このシャツなんかイイな!」
まあ、いい男はシンプルなのが似合うよな。
イケメンのリクは、店先に吊るしてあった黒いシャツを手に取った。
薄くてヒラヒラがついている。
「リクの選択もおかしいニャ! そんな薄い生地じゃ、戦闘で破れてしまうニャ!」
「二人とも冒険者をなめすぎです」
店先で警戒をしていた盾役のブラウニーさんにまで叱られてしまった。
「「さーせん!」」
二人で服選びはあきらめて、猫獣人ココさんが選んだ服を大人しく買うことにした。
マリンさんも、ココさんにお任せしている。
こちらは丈の長いスカートとシャツ。
女性用は濃い緑色やエンジ色など、種類が多い。
「スィーバヤーマは……、気になっていたニャ! その顔にのせているのは……、何ニャ?」
「これは、眼鏡です!」
猫獣人ココさんに話しかけられて、柴山さんは嬉しそうだ。
このケモナーめ!
「これが眼鏡ニャ! 高級品らしいニャ?」
「どうでしょう? 僕の国では、それほど高い物ではありません。平民が着る服と同じくらいの値段です」
「へえ。意外と手頃な値段ニャ。じゃあ、眼鏡は外さなくてもいいニャ。スィーバヤーマは、痩せているニャ! もっとしっかり食べるニャ!」
「わかりました。がんばって食べます!」
「素直で良いニャ! じゃあ、この服とこの服ニャ」
柴山さんも俺たちと同じ地味シンプルな服に決まった。
店の奥にある部屋を貸してもらい買った服に着替える。
着ていた日本の服と着替えで買った服は、アイテムボックスに収納だ。
荷物がかさばらなくて楽で良い。
店を出ようとする猫獣人ココさんを慌てて止めた。
「ココさん! 待って!」
「何ニャ?」
「もっと服を買いたい」
拠点には、転移した日本人約二千五百人がいる。
彼らの服が必要だ。
幸いなことに、ここの古着屋には、男物、女物、子供服と一通り揃っている。
拠点まで運ぶのにもアイテムボックスがあるので、困らない。
ここで入手しておこう。
「ニャ? 着替えもかったニャ。他にも服が欲しいのかニャ?」
「そう。店にある服全部欲しい」
「ニャニャ!? 全部と言ったニャ!?」
「そう。全部買いたい」
「ニャー!!!!!!!!!!」
猫獣人ココさんが、驚いて尻尾を逆立てる。
「ミッツ! 何を考えているニャ!」
「いや……、必要なんだ。この書類があれば、店ごと買えるって言ったよな?」
「物の例えニャ! 店の商品を丸ごと買うバカがどこにいるニャ!」
「ここにいる!」
俺は堂々と胸を張った。
バカで何が悪い!
バカでも生きてます!
「ミッツには、何を言っても無駄ニャ!」
俺の態度に猫獣人ココさんは、匙を投げたようだ。
勝ったな! フッ……。
「ミッツ! 理由をちゃんと説明するニャ! 店の商品を全部買うなんてことをすると、町のみんなに恨まれるニャ!」
俺は猫獣人ココさんが言うことが理解出来なかった。
お店としては、在庫一掃で嬉しいだろう?
「何で町の人に恨まれるんだ?」
「買い占めだからニャ。ミッツが店の商品を全部買ったら、他の人が買う物がなくなるニャ」
「あっ……そうか!」
「沢山買い物をするのは、お店に喜ばれるニャ。それでも、限度があるニャ」
「あー、そうだね。そうだよね。ええと……どうしようかな……」
俺は日本人組を集めて、小声で相談を始めた。
「どうするよ? まあ、ここはデカイ町みたいだからな。あちこちの商店を回って、ちょっとずつ買うか……」
「いや、ミッツ。問題は買い占めになるってことだろう? 古着ならまだしも、食料を大量買いしたら不味そうだぜ」
「そうですね。町の人たちが食糧不足で飢えることになったら、僕たちと敵対するかもしれません。二千五百人分ですからね……」
慎重派のリクが意見を述べて、知性派の柴山さんが同意した。
町の人たちと敵対するのは避けたい。
「けどなあ。調達する物資の数が少なかったら、拠点に帰ってからが大変だぞ」
「うーん……。それは、そうなんだよな」
「僕たちが調達した物資を巡って、奪い合いが起りますね……。それも不味い……」
俺、リク、柴山さんは、腕を組み空を見上げる。
空はこんなに青いのに、どうして良いかわからないぞ!
救いの手を差し伸べてくれたのは、マリンさんだ。
「ねえ。ココさんに事情を話して協力してもらったら?」
「「「え!?」」」
「全部は話さないの。『旅の仲間が森の中にいる。仲間の食料や服が沢山欲しいけど、どうしたら良いですか?』みたいな感じでどう?」
「なるほど……」
大量の物資調達をするなら、現地人に協力してもらった方が早いし、安全かもしれない。
異世界転移のことは隠して、仲間がいるとだけ告げる。
マリンさんの提案は悪くなさそうだ。
「俺はマリンさんの案に賛成だ。リクと柴山さんは?」
「それしかなさそうだな」
「もめごとを起こさずに物資を得るなら、現地の協力者は必要です。ココさんは、世話焼き気質のようですし、適任だと思います。僕も賛成します」
「ヨシ! 決まりだ!」
俺は、日本人組から離れて猫獣人ココさんに向き合う。
マリンさんの言葉を思い出し、やや棒読みだが、しっかりとココさんに伝えた。
「旅の仲間が森の中にいる。仲間の食料や服が沢山欲しいけど、どうしたら良いですか?」
「それは大変ニャ! すぐに持っていく方が良いニャ!」
良かった!
猫獣人ココさんは、協力的だ。
柴山さんの言う通り世話焼き気質なのだろう。
「俺もすぐに持っていきたい。だから、買い物をして明日にでも森に向かいたいんだ」
「わかったニャ。それで、仲間は何人ニャ? 四、五人かニャ?」
困った。
この質問は、打ち合わせていなかった。
リク、柴山さん、マリンさんを横目で見るが、三人もどう答えれば良いのかわからないみたいで、腕を組んだり、空を見上げたりと……。
これは、困ったな……。
「いや……もっと多い……」
「十人ニャ?」
「いや……もっと……」
「ニャ!? もっとニャ!? そんな大人数が森に取り残されているのかニャ!?」
「旅をしていて森の中で迷ったんだ」
「それで、仲間は何人いるニャ! 早く答えるニャ!」
猫獣人ココさんが急かす。
ええい!
もう、言ってしまえ!
「約二千五百人」
「に……! にせ……! うーん……」
猫獣人ココさんが、万歳のポーズで倒れた。
ああ~、あ。
知―らない!
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