第26話 安心とか、安全とか、信用とか、どこにありますかね?

 猫獣人ココさんたちの冒険者パーティー『わっしょい』に、俺たちの護衛をお願いすることにした。

 費用は冒険者ギルド持ちだし、この町の案内もしれもらえそうだ。


 猫獣人ココさんたちは、女性四人のパーティーだった。


 ・リーダー、索敵役:ココさん 猫獣人

 ・アタッカー:ティケさん エルフ

 ・タンク・盾役:ブラウニーさん 人族

 ・回復役:リーリオさん 人族


 お互い自己紹介を行い、まずは服屋へ行くことにした。

 宿屋を出て、服屋へ向かう。


「とにかく、ミッツたちの服は目立ちすぎるニャ!」


「なあ。俺たちは金を持ってないぞ」


「大丈夫ニャ! ギルドマスターのボイルから、これを預かってきたニャ!」


 猫獣人ココさんが、俺に書類を渡す。

 冒険者ギルドが発行した書類だ。

 ギルドマスターボイルさんのサインが入っている。


「買い物の支払いを、冒険者ギルドが立て替えると書いてあるね……」


「それも制限なしニャ! ミッツたちが持ち込んだアイテム、魔物の素材は、それだけ高額になるニャ。けど、大金すぎて、冒険者ギルドもすぐには現金を用意出来ないニャ」


「それで、この書類か!」


「そうニャ! 店ごと買っても大丈夫だニャ!」


 それはありがたい。

 こっちは、拠点に二千五百人の日本人が待っているのだ。

 食料品から衣類まで、沢山買い込んでいこう!


 領都ノースポールの大通りを歩く。

 この辺りは商店街だ。

 沢山の店が軒を連ねている。


 俺たち日本人組には物珍しい。

 右に左にとキョロキョロしながら、通りを歩く。


 すると先頭を歩く猫獣人ココさんが、急に警戒しだした。


「ブラウニー! 左ニャ!」


「心得た!」


「「「「?」」」」


 俺たち日本人組は、何のことかわからない。

 日本人組四人の後ろを歩いていた盾役巨体のブラウニーさんが、マリンさんの左側に移動した。


 物陰から何かが飛び出してきた!


「ふん!」


「グエ!」


 マリンさんの左横に位置を変えていたブラウニーさんが、持っていた大楯で突っ込んできた物を弾き飛ばした。


 ブラウニーさんに弾き飛ばされて通りに転がったのは、髪がボサボサで汚れた服を着た男の子だった。


「ちょっと大丈夫!?」


 マリンさんが、慌てて男の子に駆け寄ろうとすると、猫獣人ココさんが厳しい声で止めた。


「止まるニャ! 何をしているニャ!」


「えっ!? 助け起こそうと……」


「ダメにゃ! 護衛から離れるニャ!」


 俺たち日本人組四人は、呆気にとられた。

 いや……、ブラウニーさんが男の子を吹き飛ばしたから、マリンさんは助けようと思ったんだが……。


 リク、柴山さんの顔を見ると、二人も何が起っているのかわからないと首を振った。


 ブラウニーさんが、倒れて動かない男の子にゆっくりと近づく。


「おい! スリのジム! 起きろ! 起きなければ、私の背中の大剣で叩っ切るぞ!」


「へへへ……。ブラウニーの姉さん、おっかねえや」


 スリのジムと呼ばれた男の子のは、すぐに立ち上がった。


 スリのジム……スリ!?

 あの男の子は、スリなのか!?

 俺たちが狙われたのか!?


「オマエの素早さがあれば、冒険者もやれるぞ。スリなど止めろ」


「いや、オイラにも生活があるんでね。良さそうなカモを見つけたけど……。姉さんたちが横についてるんじゃ、やっぱ厳しいか」


「悪いことは言わん。ちゃんと働け」


 ブラウニーさんが親身な口調でジム少年を諭すが、ブラウニーさんの言葉はジム少年に響いていない。


 しびれを切らした猫獣人ココさんが、ジム少年のお尻を蹴飛ばした。


「この悪ガキ! 失せるニャ!」


「うへえ! 失礼しやした!」


 物凄い勢いでジム少年は走り出し、路地へ消えた。

 マリンさんが、大きく開けた口に手をあてながら猫獣人ココさんに聞く。


「あの子……。スリなんですか……」


「そうニャ! 常習ニャ! マリンはジムを助け起こそうとしたニャ? 助け起こしたら、その瞬間にスラれていたニャ」


「だから私を止めたんですね!」


「そうニャ。四人ともキョロキョロして、典型的なお上りさんニャ。犯罪者から見たら、カモ中のカモニャ。もうちょっと緊張感を持ってもらいたいニャ」


「「「「どうも、すいません」」」」


 再び歩き出すが、猫獣人ココさんの厳しい指導は続く。


「そんな簡単に信じちゃダメだニャ。あのスリは、ウチらの仕込みかもしれないニャ」


 それって、どういうことだろう?

 俺は猫獣人ココさんの後ろを歩きながら考えた。


「えっ……!? わざと犯罪を起こして、助けることで、信用を得る!?」


「そうニャ! もちろん、ウチらはそんなことはしないニャ。でも、そういう手段をとるヤツらもいるってことを知っておくニャ」


 俺はガクッときた。

 もう、朝から疲れたよ。

 なんか中南米の犯罪大国に旅行すると、こんな感じなのだろうか?


 俺の横を歩くリクが、腕を頭の後ろに組んだまま、ちょっと冷たい感じの声を出した。


「なあ、俺たちは、あんたらを信用して良いのかな?」


 慎重モードのリクが、猫獣人ココさんに際どい質問をする。

 護衛してくれている相手に対して、『オマエらは信用出来ない』と言っているのも同じだ。


 マリンさんと柴山さんが、リクに非難がましい視線を送るが、俺は手で制した。


「俺はリクの質問が妥当だと思う」


 どうやら俺たちが転移させられた世界は、常識であるとか、倫理観であるとか、安全であるとか、そういった生きて行くに際しての前提条件が日本と違いすぎる。


 猫獣人ココさんたちを信用して良いのか?

 信用して良いなら、その根拠は?

 きちんと聞いた方が良い。


「良い質問ニャ! そうやって疑うことも重要ニャ!」


 猫獣人ココさんは、振り向くと怒るでもなく、ニッコリと笑った。


「ウチら四人は、冒険者ギルドに依頼をきちんと遂行する理由があるのニャ。ウチはS級冒険者になりたいのニャ!」


 昨日、冒険者ギルドに登録する時に説明された。


 冒険者や冒険者パーティーにはランクがあり、一番下がF級、一番上がS級だ。

 俺たちは登録したてなので、四人ともF級の冒険者だ。


「F級は初心者ニャ。E級は並の冒険者。D級はベテラン冒険者。D級までは、長く冒険者をやっていれば、誰でもなれるニャ。けどC級から上は、冒険者ギルドからの評価も大きく関わるのニャ」


「ココさんは?」


「ウチは、C級ニャ。次はB級への昇格が目標ニャ。冒険者としての実力はもちろんだけど、冒険者ギルドに貢献しているか、冒険者ギルドの評価が良いかも昇格のカギになるニャ」


「なるほど。ココさんとしては、今回の依頼――俺たちの護衛をキッチリこなして、冒険者ギルドに評価されたいと?」


「そうニャ! だから信用してもらって大丈夫ニャ!」


 なるほど、そういう判断方法もあるのか。

 日本だったら、役所や大きい会社の紹介してくれた人なら、『大丈夫だろう』と信用してしまう。

 けれど、ここでは通用しないらしい。


 厳し世界だな……。


「後で冒険者ギルドに確認させてもらうぜ。ウラを取らねえとな」


 リクが笑顔で猫獣人ココさんに言い放った。

 ここにも厳しい人がいたよ。


「良いことニャ! 新人は、そうやって一つ一つ丁寧にやっていく方が良いニャ!」


 ネコ先輩のココさんには脱帽だ。


「ふああああああ!」


 柴山さん!

 ネコ先輩に萌えてる場合じゃないぞ!

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