第19話 町を探して探索の旅9~オークとの戦闘

 俺は、オークに襲われていた四人の男とオークの間に割り込む。


「えっ!? 誰だよ!?」


「助太刀するぜ!」


 ひと声吠えると、俺はミートチョッパーを拾い上げた。

 先ほど倒したオークが持っていた武器だ。


『ミッツさんの魔法攻撃は、威力が強いようですから、なるたけ現地人に見せないようにしましょう』


 変な疑いを持たれないために、柴山さんが考えたのだ。

 この辺りの魔物なら、俺は接近戦で十分戦える。


 俺は右手に巨大な肉切り包丁を抱えて、包囲するオークに突撃した。


「突貫!」


 低い姿勢でダッシュ!

 目の前のオークがミートチョッパーを上から下へ振り降ろすが、予備動作がデカイのでバレバレだ。


 オークの一撃を余裕でかわし、すれ違いざまに胴体にミートチョッパーを差し込む。

 ミートチョッパーを握った手にズシリと重さを感じた。

 切り刻まれる肉の抵抗だ。


「ブヒィ!」


 オークが泣きを入れたが、俺は一切の容赦なくミートチョッパーを握る手に力を込めて、オークの背中へ向けて体ごと腕を振り切った。


 オークの胴体が上下に泣き別れる。


「オラオラ! おかわりだ!」


 オークの注意を俺に向けるために、俺は大声を上げた。

 同時にミートチョッパーをオークへ向けて全力で投げつける。

 ミートチョッパーは唸りを上げて回転し、オークの頭蓋骨に深く突き刺さった。


「二つ! 残りは……八!」


 残り八体のうち二体は、四人の男が相手取っている。

 だが、一人は大きな怪我をしていて、立っているのがやっとだ。


 早めに戦闘を終らせて、治療をしないと不味い!


 俺は左足を横に蹴り出し、右へスライドする。

 機動戦士なみの鋭い動きからのショルダータックルを三体目のオークにぶちかます。


「ブッ……!」


 俺の強烈なタックルをくらって、オークが息を詰まらせる。


「そうだ!」


 俺はとっさに思いつく。

 右手を拳銃の形にして、オークの腹に押しつけた。


 これなら四人の現地人からは、見えないだろう。


 ドン!


 俺の指先から放たれた魔力の弾丸は、オークの土手っ腹に深く突き刺さった。


「ゴフ……」


 オークの口から真っ赤な血が流れ、両目が白く反転する。


「三つ! おっ!」


 膝から崩れ落ちたオークを踏み台にして、次のオークへ飛びかかろうとしたが、追いついてきたリクがオークの背後から攻撃した。


 リクの手にしたマチェットが、後頭部からノドにかけて飛び出す。


「ヨッ! 追いついたな!」


「リク!」


 リクの戦闘スキルは『短剣術』。

 拠点で作ってもらったマチェットは、への字形をした山刀だ。


 俺は転がっていたミートチョッパーを拾い上げリクと背中合わせに立つ。


「片付けるぞ!」


「おうよ!」


 俺とリクが残ったオークを蹂躙し始めると、森の中から無数の水球が飛んできた。

 四人の男と戦っていた二匹のオークに次々と直撃し、オークの体勢を崩し、後退させる。


「やっと追いついた! 二人とも早すぎるよ!」


「マリンさん!」


「わあ! 豚さんが一杯! 今夜は豚汁だね!」


 過酷な異世界がマリンさんを変えた。

 日本にいた時は、パンツスーツをビシッと身につけた、イケてるOL筆頭みたいな女性だったのに……。

 今ではオークが単なる食料に見えるのだ。


「いくぞぉ! 豚汁! ウォーターボール!」


 マリンさんが、可愛く叫ぶと、空中に無数の水球が浮かんだ。


「いっけえー!」


 水球が二匹のオークへ向けて高速で飛翔する。

 一つ一つはソフトボール大の単なる水球だが、無数とも思える量の水球がオークの全身に着弾するのだ。


 バランスを崩してオークが膝をつく。


「リク!」


「ミッツ!」


 俺とリクが膝をついたオークに襲いかかり、すぐに無力化する。


 機を見るに敏――これまでの旅で無数の魔物と戦ったのだ。

 俺とリクの呼吸はバッチリだ。


 勢いのままに戦い。

 あっという間にオーク十匹を制圧した。


 呆然とする四人の男。

 やがて、リーダーと思われる年輩の男がしゃべりだした。


「誰だオマエら?」


「ジョン・マクレーン」


 俺はビシッと映画ダイハードの主人公の名前を告げた。

 いっぺんやってみたかったんだ!


 だが、仲間からすかさずツッコミが入る。


「いや、違う! こいつはミッツだ! ダイハードごっこは止めろ!」


「ミッツさん! 余計なことはメッ! ですよ!」


「ミッツさんで間違いございません。打ち合わせしたのに、これですか……!」


 男が呆れた顔で、俺を見る。


「ミッツでいいんだな?」


「えーと……、はい……、ミッツです……」


 そうか、ジョークもダメだったのか!

 俺は一つ学習して賢くなった。


 四人の男を改めてみると、汚れた革鎧を身につけ、手に剣を持っている。


 リーダーらしき男は、くせっ毛のダーティーブロンドを後ろになでつけて、年は四十くらいだろう。

 顔に深く刻まれたシワと顔や手に残る傷跡が、歴戦の勇者だと物語っている。


 とはいえ、オークごときに苦戦していたのだから、俺たちの戦力とは比較するまでもない。


 他の三人は、二十代が二人と三十代が一人。

 赤毛の二十代が大怪我をしていた。


「うっ……クッ……」


「怪我がひどいな……」


 オークのミートチョッパーでやられたのだろう。

 肩口から腹にかけて切り裂かれている。

 革鎧をしていたおかげで、なんとか即死は免れたってところだ。


 リーダーが残念そうにつぶやきながら、手に持った剣を、怪我で動けない赤毛の男に向けた。


「ああ……。残念だが、この深手では助からねえ……。待ってろ、今、楽にしてやる!」


 俺は慌てて、リーダーのおっさんを止める。


「ちょっと待て! 待てって! 大丈夫だから! 治るから!」


 怪我をして治せないから、楽にしてやるって……。

 理屈はわかるけど、怖すぎる……。


 柴山さんが、眼鏡をクイッとしながら進み出てきた。


「さあ、戦闘が終れば、僕の出番ですね! ヒール!」


 柴山さんが、『ヒール』と唱えると青い柔らかい光が赤毛の男を包んだ。

 いつもより、光の色が濃く、輝きが強い。

 俺やリクを治療するよりも、魔力を多く込めているのだろう。


 青い光が収まると、赤毛の男の傷はすっかり治っていた。

 四人の男が驚愕する。


 リーダーのおっさんが叫んだ。


「俺たちは……! 俺たちは……! 頼んでないからな!」


 ん?

 どういうこと?

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