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それから俺は、父上に言われたとおりに、子供たちを庭へと案内した。





ここからが友達作りの本番だな。できるだけ、好印象を持ってもらえるように頑張ろう。前世の経験をフル活用しなければな……。













ーー












「皆さん、料理は足りているでしょうか?」と、俺は子供たちの反応を確認してみることにした。




すると、


『充分です! アース様!』

『本当に、おいしいですわ!』

『魔法の才能だけではなく、料理の才能もおありになるとは!』



などと、ものすごいくらいの高評価を得た。



魔法の才能? 確かに空間属性を持っているが、まだ、家族や先生以外の人に魔法を見せたことはないと思うけどな。




すると次は、


『アース様は、魔法だけではなく、剣術の訓練も行っていると聞きました!』

『私も聞きましたわ! 本当に素晴らしいですわ!』




と、どこから聞いてきたのか剣術の話へと話題が移った。




「あ、ありがとうございます。」




こ、これはあれだな……。記念パーティーの時もあった、アース様よいしょ大会の開催だな。俺との縁づくりのために、必死になって俺を持ち上げているのかな……。






ると今度は、俺に対する質問が矢のように飛んできた。




『アース様のご趣味は何ですの?』

『アース様、どの科目が得意なのですか?』

『アース様は、どのような茶葉がお好みですの?』






はー次は、俺の情報取集か。俺の好みを聞いて、それでいろいろな対策を講じるのだろう。答えたくはないが、何も返答しないのは失礼だよな……。





「趣味は、剣の修行です。得意科目は、算術です。茶葉は、甘いものに合うものが好みですね。」







『まぁ! そうなのですね。』

『ほかにもいろいろ聞きたいことがありまして……。』












ーー















それから俺は質問攻めにあって、気疲れしていた。もうそろそろ限界を迎えそうなときに、父上から終了の合図が出た。




た、助かった……。




やっと終わりか……。俺は質問攻めにあい、持ち上げられることを繰り返された。それに、茶会の招待やお宅訪問など、色々と約束をしてしまった。


そりゃあ、あれだけ誘われたら、全部を断るなんてできないよ……。









客が帰ると、俺たちは家族でお茶をした。


「アース、今日は楽しかったかい?」

「疲れたか、アース?」



と、事情を知っているであろう兄上たちが俺のことを気遣ってくれた。



「はい楽しかったです、マクウェル兄上。少し疲れましたが、楽しかったですよ、ケルサス兄上」と、俺は貴族スマイルで答えた。




 こういう時感情を隠せるから、貴族スマイルって便利だよな……。




「そうか。アースが楽しんでくれたなら何よりだ。」

「今日はゆっくり休めよ。」





兄上たちは、本当にやさしいな……。








それにしても、他の子供たちが俺に話しかけてくる間、まったく話しかけてこなかった男子が一人いたな。あれはいったい、誰だろう……。












ーー












それから、俺は数々のお茶会やお宅訪問に参加した。





「アース、お友達がいっぱいできてよかったな。最近、毎日出かけているようだな。父上は、お前が家にいなくて寂しいぞ。」




「あ、ありがとうございます。」




 

父上、親としては何も間違っていない。しかし、あれは友達とは名ばかりの、俺に対する接待大会だ。褒められるのは確かにうれしいが、過剰に褒められ続けると、辟易する。


  


貴族は上流階級になればなるほど、損得勘定のない、対等な友人をつくることが難しいのではないかと予想はしていた、予想はしていたけど……。これからは、上っ面だけの友人しかできないのかな。





俺がそんなことを考えていると、父上から目の覚めるような発言が飛び出した。



「そういえば、アース。先日、お前を第三王子殿下の遊び相手にとの打診があったぞ。マクウェルやケルサスも、それぞれ第一王子殿下と第二王子殿下の遊び相手を務めているぞ。」



第三王子殿下の遊び相手か。あの記念パーティーでの言葉は、思い出しても励みになるな。俺たちは公爵家だから、王子の遊び相手に選ばれても不思議ではないな。


それにしても、呼ばれるのが少し遅い気がするが、何か理由があるのかな? 俺が空間属性持ちだから、気を使われていたのかな?


すると、父上が補足してくれた。


「ここ最近はずっと、ドンターラ公爵家の双子が第三王子殿下の遊び相手を務めていたようだが、たまには違う遊び相手を、とのことだそうだ。」




なるほど、あの双子がバリアを張っていて、第三王子殿下に他の子供が近づかないように牽制していたのか。というか、父上が少し不機嫌そうだな。聞いてみるか。





「父上、ドンターラ公爵とあまりかかわりがないようなのですか。何か理由があるのでしょうか。」


「うーむ、私は別に嫌っているわけではないのだが……。」



若干言いにくそうにしながらも、父上はドンターラ公爵との関係を話してくれた。





父上によると、この国の宰相は代々公爵家の者が務めることになっていて、今は父上が宰相を務めているらしい。しかし、その時宰相の座を争ったのが現ドンターラ公爵というわけらしく、その父上が公爵になってからは疎遠になってしまったらしい。






なるほど、あちらが勝手にライバル意識を燃やしているわけだな。となると、あの双子も父親に「サンドール公爵家の者には負けないように」と、言い含められているのかもしれないな。






「父上、第三王子殿下のもとへ訪問するのはいつでしょうか。」



「来週の金の日だな。」




来週の金の日か……。というか、遊び相手って何をするのだろうか。この世界の娯楽だと、トランプとかはあるけど……。話し相手とかなのかな?











ーー











今日はいよいよ、第三王子殿下の遊び相手を務める日である。めちゃくちゃ緊張している。




……。



はぁ、遂に着いてしまったな。






「ではアース、私は陛下のもとへ行くから、お前はジルベルト殿下のもとへ行ってきなさい。」



「わかりました、父上。行って参ります。」





さぁ、どうなるかな。俺自身は、あんな優しい言葉をかけてくれる第三王子殿下と仲良くなりたいけどな。





案内に従って、第三王子殿下の部屋の前まで来た。よし、行くか!






コンコン





「失礼いたします。アース・サンドール、ただいま御前に参上いたしました。」




すると、第三王子はふっと笑った。


「待っていたよ、アース様。とりあえず、軽くポーカーの相手でも務めてくれるかな?」





いきなり、ポーカーか。第三王子殿下は、トランプが好きなのかな。それとも、緊張を解そうとしてくださっているのかな?





「では、私が配るね。」


「いえ、第三王子殿下のお手を煩わすのは……。」


「これくらい、どうってことないよ。」



 そういうと、第三王子殿下はさっさと、トランプを配り始めた。





……。この手札は、こんなことってめったにないだろ。ロイヤルストレートフラッシュだぞ。確率的にもほとんどこの役は作れないはずだ。この手札なら確実に勝てる。しかし、王族相手に遊びといえども勝っていいのか? ここは手札を換えるか、それとも降りるか? 




いや、それだと、俺が辟易している接待をするあの子供たちと、同じことをすることになる。それじゃだめだな。俺自身が接待なんかすれば、対等な友達を得ることは難しいだろう。俺はこの手札で、勝負するぞ!





すると、


「アース様、様子が少しおかしいが、具合が悪いのですか?」




と、第三王子が俺を探るような目で見てきた。




「いいえ、少し考え事をしていました。ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした。」




「そうか。で、どうする? 手札は換えるのか?」



「いいえ、このまま勝負します。」



「そうか。私もこの手札で勝負するとしよう。では、手札オープン!」






……。




「ストレートフラッシュだ。」


「ロイヤルストレートフラッシュです。」







……。








な、なんだこの妙な間! まさか、やらかしたか? やはり、勝つべきではなかったか……。ここは、すぐに謝るべきか。すると、












すると、


「ははっ!ははっ!ははははははははは!」





な、なんだ! 第三王子殿下が、急に笑い出したぞ……。







「おまえ、面白いな!」


「は、はい?」


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