生霊さんは活きがよすぎ‼︎

ツネち

第1話 「生霊さん、再び現る!」

「2人とも、いらっしゃ〜い、早かったね〜」


「わんっ♪」



 ドアが開き、私の大親友の貴島瑞樹きじまみずきと彼女の愛犬、チワワのこむぎちゃんが私達を迎え入れてくれた。



「瑞樹お待たせ〜!」


「こむこむ〜、きたよ〜♡」



 私、上代由香かみしろゆかは、もう1人の大親友、七瀬陽菜ななせはるなと一緒に大量に買い込んだお菓子や飲み物を抱えて瑞樹の部屋へと上がり込んだ。今夜は瑞樹の部屋で女子会だ。


 リビングに入ると、テーブルには私達を待つ間に用意したであろうサンドイッチやサラダなんかが所狭しと並べられていた。



「おお!瑞樹すご〜い‼︎」


「張り切って作り過ぎちゃった。お菓子もいっぱい買って来たみたいだし、食べ切れるかなぁ?」



 瑞樹は顔に"ザ・女子力"と書いてあるような子で、私は今までこの部屋を何度も訪れているが、未だに散らかっているのを見た事がない。


 更に料理も得意で器量良し。欠点といえば運動音痴と超が付くくらいの怖がりなくらい……いや、むしろそれも男子達にとっては高ポイントだと言えるだろう。

 実際、大学でも瑞樹を狙う男子は数多に上るという。



 ……そんな瑞樹に密かに劣等感を抱いていた私は、ひと月前にとんでもない事件を引き起こしてしまった……



 ある出来事が引き金となって、自分の中にずっと抑え込んでいた瑞樹への劣等感、嫉妬心、自己嫌悪が遂に形を成し、自らの生霊という最悪の存在を生み出してしまったのだ。


 そして生霊に憑依された私は、居合わせた陽菜も巻き込んで瑞樹を襲った。


 2人の必死の呼び掛けのおかげで、すんでの所で何とか正気を取り戻す事が出来たけど、私はもう少しで瑞樹を殺してしまう所だった……



 ……あれからひと月。こんな取り返しのつかない事をしてしまいそうになった私を、2人はこれまでと変わらず親友として接してくれている。


 だからこそ私も、これまでと変わらず……ううん……これまで以上に明るく、2人と接している。だって、もう2度と2人を悲しませたくないから……

 


「さぁ、騒ぐぞー!」


「だから近所迷惑は駄目だって」


「瑞樹、真面目〜♪」



 その時、こむちゃんが中空を見つめ……



「ワンワンワンワン!!」


(え……これって……!?)



 私は反射的にこむちゃんが吠えた場所を見上げ、そこに感じた気配を否定するように、明るくおちゃらけてみせた。



「あ〜、またこむちゃんが吠えてるよ? オバケいるんじゃないの〜?」


 

しかし心の中では不安がどんどん大きくなっていく……


(気のせい……だよね……)



「大丈夫。だってこむぎが護ってくれてるから♪」


「こむこむは瑞樹のナイト様かぁ〜♡

あ……こむこむ女の子だっけ?」



 きっとひと月前の事件を思い出しているであろう2人も、いつもと変わらず明るく振る舞っている。さすがにあんな事がまた起こるとは思っていないのだろう。


 でも……私には"わかる"のだ。この気配は……



(やっぱり気のせいなんかじゃない……"あの時"と同じ気配だ……あれ⁉︎でもどこか前とは微妙に違うような?)



 その直後、この場にいた誰もが予想し得なかった……いや、予想の遥か斜め上をいく出来事が起こった。



『ちょっとー!こむちゃん、そんなに吠える事ないじゃんよー!!』


(……え!?)



 こむちゃんが吠えた空間から、あまりにも聴き慣れた声が響いて来たかと思ったら、これまた見慣れた眼が2つ現れ、パチパチまばたきを始めた。

 

 その眼が呆然と見つめる私達と合うと、まるで「ポンっ!」という効果音をバックにしたかのように全身が姿を現し、宙をフワフワと浮き始めた。



『ふぃ〜っ……や〜っと人の形に戻れたわぁ〜』



 その姿は、見紛う事なく私自身。間違いない……あの時の……でも、何これ、どういう事!?



「これって……あの時の……!?」


「ちょ、ちょっと、嘘でしょ!?」



 宙に浮いたもう1人の私は、混乱する私達に向かって満面の笑みを浮かべ……



『よっ!お三方、お久しぶり〜♪』



  右手をシュタッと上げながら、軽〜いノリで挨拶をぶちかましてきたのだ。



「な……な、な、な、な、な、な、なぁーーーっっ!?!?!?!?」



 初夏の静かな夜に私の絶叫がこだました。

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